艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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赤城の場合(10)

現在、午前、提督室。

 

提督は思わず言ってしまった。

「それで、深海棲艦達と泊まって来たのかい?」

「もう既に深海棲艦達は爆睡してましたので」

「よく元の姿に戻らなかったね」

「どうも酔っ払うと戻れなくなるようです」

「ふうん。で、翌朝は大変だったんじゃない?」

「それがそうでもなくてですね」

 

 

旅館の朝ご飯は大変早い。

夜が明けたばかりの部屋に、仲居達はすすすっと入って来て準備を始めた。

赤城は深海棲艦達が戻ってないかとひやりとしたが、杞憂であった。

「いっただきまーす!」

「うわー、キュウリも梅干しも美味しー」

「冷奴おいしー」

「ご飯もつやつやだねー」

「あらあら、嬉しい事言ってくれるねぇ。もうちょっと食べるかい?」

「頂きます!」

赤城は(かなりセーブして)箸を進めながら観察していた。

旅館の人間達は深海棲艦だと全く気付いていない。

季節柄、どこか遠方から来た海水浴客か何かだと見ているのではないか。

確かに、パッと見て人間と違和感があるとすれば、かなり肌が白い事ぐらいだ。

だがこの位の人間も普通に居る。

昨日深海棲艦が言った通り、意外と陸のあちこちに居るのかもしれない。

「ごちそうさまでしたー」

「お粗末様。あらあら、きちんと片付けてくれたねぇ、ありがとう」

仲居はにこにこしながら膳を下げて行った。

旅館の人が居なくなると、深海棲艦の一人が赤城を向いて言った。

「ま、まさか宿まで世話になるとは思わなかった。酔って迷惑をかけた。詫びる」

すると、他の5人が続いて

「ごめんなさい」

と、頭を下げた。

赤城は最初に口を開いた一人に向かって話した。

「一応、聞いておきたいんだけど、貴方は何級?私は正規空母の赤城よ」

「リ級だ。こいつも同じ。他は全員、ワ級だ」

「個人的にはバーベキューをするくらい構わないと思うし、何も言うつもりはないです」

「そうか」

「あとね」

「ん?」

「他の深海棲艦と紛れないようにしてほしいんだけど」

「具体的には?」

「ええと、そうね、旗か何か持ってない?」

「これならあるけど・・・」

と言って見せたのは、テントに使う防水加工された緑の大きな布だった。

「拾った布だよ」

赤城はニコッと笑った。

「じゃ、艦載機が見えたら掲げてくれない?私なら砲撃しないから」

「な、なぜだ?」

「だって、一晩飲み明かした仲じゃない」

「・・・そっか」

7人はくすっと笑いあった。

「じゃ、お土産として、これでも持って帰って」

そう言いながら赤城が取り出したのは、間宮羊羹だった。1人1本ずつ手渡す。

「持ち歩いてるの?」

「まぁおやつに」

「おやつって大きさじゃないような気が・・」

「嫌ならいいですよ」

「頂きます!」

そして程なく赤城は大本営に、深海棲艦達は海に帰ったのである。

 

 

「ふーん、そんな事があったんだねえ」

「すみません」

「そういやなんか加賀が言って来た気がするよ。赤城が大本営の仕事で朝帰りになるって」

「それだと思います」

「結構前の話だよね」

「はい。結構前の話です」

「もう少し続きがあるんだよね?」

「はい。ここからが本論です」

「聞こうじゃないの。お、そうだ」

提督は戸棚から六方焼きの入った袋を取り出すとバリバリと開け、

「ま、つまもうよ」

といって差し出した。

大人しく話せばちゃんと褒美を出す。

絶妙な硬柔合わせ技には敵わないなと六方焼きを口に放り込みながら赤城は思った。

 

「敵発見!リ級2隻、ワ級4隻です!」

艦載機からの連絡に、赤城は一応確認した。

「緑の旗を掲げてないですよね?」

やや間があってから答えが返ってきた。

「リ級1隻が緑の旗を掲げてます!繰り返します!旗アリです!」

赤城はメンバーを見た。

北上、大井、最上、三隈、そして自分。

まぁこのメンバーなら接近戦でも勝てる。口も堅い連中だ。

「えっとね、一応砲撃しないで近づいて。私が撃ってと言ったら始めて」

「なんか理由があるのかい?」

「知り合いの可能性があるのよ」

大井が首を傾げた。

「深海棲艦にお友達が居るんですか?」

赤城が頷いた。

「そう言う事。ただ、違うかもしれないから皆はここに居て」

三隈が心配そうに言った。

「御一人で大丈夫ですか?」

赤城が振り返った。

「まぁ、ダメだったら助けてください」

北上が手をひらひらと振った。

「はーい。酸素魚雷用意しとくー」

 

赤城が近づいていくと、リ級達は撃ってこなかった。

「おぉい、もうお酒は抜けましたかー?」

果たして返ってきた答えは

「ア、ヤッパリー」

「平気ダヨー元気ー?」

と言いながらパタパタと手を振っている。

赤城は深海棲艦に近くまで寄ると、内心肝を冷やした。

リ級はflagship改の青白い炎を、ワ級もelite級の赤い炎を纏っている。

敵に回せば下手な戦艦程度なら返り討ちに遭ってしまう構成だ。

赤城はほっとしながらインカムをつまんだ。

「来て良いよー知り合いだった」

 

「イヤー、コノ前ハ世話ニナッタヨー」

「こちらこそ御馳走様でした」

「ジャーマンソーセージ美味シカッタ!」

「そちらのハマグリも美味しかったです!」

リ級が赤城を見ると

「ソウイエバ、赤城サン」

「なんでしょう?」

「間宮羊羹、ナイ?」

「なんでですか?」

途端ににへらんとした笑顔になったリ級は、

「久シブリデ超美味シカッタノヨー」

と言った。

「ま、まぁ、深海棲艦の方に間宮さんは居ないかもですね」

「ナノヨー、ダカラチョット分ケテー」

赤城はジト目になった。

「えー」

「勿論タダジャナイヨ?」

「というと?」

「確カ戦闘ッテサ、船魂持ッテ帰レバ勝ッタ事ニナルヨネ?」

「そうよ?」

「デモ別ニ、遭遇シタ船ノ船魂カドウカハ確認シナイジャン」

「そうですね」

「ダカラサ、他ノリ級2隻トワ級4隻分ノ船魂アゲルヨ」

「ほう」

「私達ハ羊羹ヲ、赤城ハ勝利ヲ手ニ出来ルッテ寸法。ドウ?」

「んー、何本?」

「滅多ニ会エナイカラ・・一人3本位欲シイナア」

「幾らなんでもそんなに大量に持ってないです」

「何本ナラアル?」

「ええとー、2本なら行けるわね」

「ジャア、計12本デ手ヲ打ツヨ」

「容器を渡せば良いのかしら?」

「ウン」

赤城が容器を手渡すと、

「チョット待ッテテネー」

といって潜って行き、20分もしないで戻ってきた。

「オ待タセー、頑張ッチャッター」

「チャントflagshipリ級2隻ト、eliteワ級4隻ダヨー」

「じゃあ間宮羊羹12本ね。はいどうぞ」

「アリガトー!」

「今度からどの辺りに居れば会えるかなあ?」

「貴方達の構成だと・・バシー沖かなあ」

「アー、ソウ言ウ事カ。解ッタヨ」

「あ、あと1つお願いして良い?」

「ナニー?」

「弾薬持って帰ると怪しまれるから、適当に撃つから当たらないでくださいね」

「オッケーオッケー、アタシラ避ケルノハ上手イカラ」

「余裕なら誰のが近かったとか、感想も聞けると嬉しいけど」

「解ッタヨー」

「じゃあ、また!」

「ジャーネー」

 

こうして深海棲艦達は海に帰って行き、赤城はメンバーに説明しつつ帰ったのである。

 

 


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