艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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赤城の場合(9)

現在、午前、食堂

 

食堂を後にした提督は、赤城がぶつぶつ言っている事に気が付いた。

「何かな赤城さん?」

「いっ!?いえっ!なんでもっ!」

提督は真っ直ぐ前を見ながらそっと話し始めた。

「そういえば赤城さん」

「何でしょうか提督」

「先日、バシー島沖で完全勝利したじゃない」

「はい」

「あれ、物凄く早かったよね?」

ぎくっ

「あの時は潮も居て大変だった筈なのに、よく昼間の戦いだけで勝てたね」

「せっ、先制雷撃とかが効きまして」

「ふーん」

「・・何か?」

「いや、大本営が討伐してから何日か経ってますかって聞いて来たんだよ」

「何日か、と言いますと?」

「なんというか、送った船霊がえらい衰弱してたらしいんだ」

ぎくぎくっ

「それで確認したらしいんだが、私はそんな事無いですよと返事したんだよ・・」

「・・・」

「ただ、そういえば早かったなって、ね」

前を向きながらてくてく歩いていく提督を追いながら、赤城は溜息を吐いた。

私を見ないのはわざとだ。

提督は明らかに疑念を持ってるし、今の会話は追い詰める前の猶予に違いない。

以前、潮にも言っていたが、提督は疑念を持ったら徹底的に証拠固めを行う。

その上で話し合いを始める。

外堀を埋め、内堀を埋め、天守閣まで攻め上ってくる。

口調は最後まで穏やかだが、絶対に逃さない。

こうなった場合、取るべき道は1つである。

「提督室でお話して良いですか」

「そうだね。外は暑いからね」

早期の全面降伏。これ以外無い。

提督棟まで歩く間、ふと思った。

よく旧鎮守府からの異動劇が「提督の話し合い」に引っ掛からなかったなあと。

だがすぐに思い当たった。

異動劇の要件が成立してから完了までがたった3日で、完了翌日には打ち明けたからだ。

提督の調査は最低数日、大体1週間かかる。

調べる暇も無く自白された格好になったのだと気付いた時、ふむと頷いた。

長門は提督の追及論戦がトコトン恐ろしい事を熟知してますね。

さ、私もさっさと白状してしまいましょう。

 

「あー、エアコンて良いね。湿度も室温も低くて生き返る」

「全くです」

「・・・さて、どうするかね?」

「はい。全部お話します」

「よろしい。聞かせてもらおう」

赤城は静かに話し始めた。

「事の始まりは、武蔵さんと街に出かけた日の事でした」

「大本営の武蔵さんかい?」

「はい」

「ふむ、話の腰を折って悪かった。続けて」

「街に出るので艤装は解いてましたし、私服を着ておりました」

「規則上そうだね」

「町で用事を済ませた後、海岸に寄ったんです」

「うん」

「そしたら6人集まってバーベキューをしていて、声を掛けたら混ぜてくれたんです」

「ふむ」

 

その日。

 

出されるまま二人はしばらく食べていたが、申し訳ないので食材を買ってくる事にした。

「良いって、気にしなくて」

と遠慮する6名に、

「なに、私達は良く食べるのは自覚しているのでな。買い足してくるから待っててくれ」

そう言い残すと、近くのスーパーに向かったのである。

色々と食材を悩み、戻ったのは1時間半ほど経っていた。

「すっかり遅くなってしまった。急ごう」

「はい」

食材を手に戻った二人は、6人がバーベキューの火を囲んで眠っている事に気付いた。

だが、気付きたくなかった事にも気づいてしまった。

変装が少し解けていて、そこから深海棲艦の体が見えたのである。

 

 

赤城は悲しそうな眼をして提督に言った。

「私達は艦娘ですが、艤装も兵装も持っていませんでした」

「うん」

「本来で言えば大本営に急ぎ戻り、緊急警報を出すべきだったかもしれません」

「・・・」

「でも、彼女達はバーベキューを楽しんでただけで何も悪い事はしていない」

「・・・」

「だからそっと揺り起こして、見えてるよって伝えたんです」

「何と返したんだね?彼女達は」

 

 

「オ、驚カナイノカ?」

赤城は肩をすくめた。嘘を言っても仕方ないと思ったからだ。

「見慣れてますから」

だが、深海棲艦達は途端に敵意をあらわにした。

「見慣レテイル?マサカ、艦娘・・ナノカ?」

そして深海棲艦達は、人間の姿から深海棲艦に戻ろうとした。

だが武蔵はすっと片手で制した。

「我々は何も見ていないし、人の脚なんて見慣れてると言っただけだ」

「・・・」

疑いを解かない深海棲艦達に対し、武蔵はふっと笑うと、

「・・そう言う事にしてくれないか?買ってきた食材が無駄になってしまう」

「・・・」

そして武蔵は左手を軽く掲げると、

「豚カルビ、牛ロース、ジャーマンソーセージ、焼き鳥」

更に右手を掲げると、

「トウモロコシ、輪切りカボチャ、そして水と氷だ」

赤城がにこっと笑いながら軽く両手を上げ下げし

「生ビール、ウィスキー、焼酎にウーロン茶、水物だから結構重いんです。早く開けませんか?」

無言のまま数秒視線が交錯した後、深海棲艦達は自らを全て人間に戻すと、

「解った。お互い何も知らなかった、だな」

と言うと、武蔵はうむと頷いた。

 

数々のアルコールが入った結果、武蔵を除く7人はべろんべろんに酔ってしまった。

特に深海棲艦達は超ご機嫌になっていた。

「結構ねぇ、深海棲艦てさぁ、海に居ない事多いのよぅ」

真っ赤になった赤城が酒を注ぎながら答える。

「なんでよー」

「だって冬寒いし、海底じゃエアコン使えないし、いっつもずぶ濡れなんて真っ平よ」

「海に居るんだからしょうがないじゃないですかー」

「だからぁ、こうやって化けて陸に上がるんらよー、商売してる子も居るしー」

「よくー、バーベキューのー、材料買えましたねー」

「何も買ってないよー」

「じゃあどうしたのよー」

「コンロとか炭は浜に捨ててあったやつだしー」

「おーうリサイクルー」

「食材は海底で幾らでも取って来れるもーん」

「それで魚貝類ばっかりだったのねー」

「だから肉サイコー」

「いえーい酒美味しいヨー!これなんてお酒?」

「芋焼酎だ」

「芋焼酎イエーイ!」

その後、とっぷり日が暮れるまで宴は続いた。

途中、巡回中の兵士が気づいたが、武蔵が頷いたのでそっと去った。

夜になってから、事態に気付いた赤城は言った。

「もー、皆さんべろべろじゃないですか」

「うー飲んだよー」

「空がぐるぐる回ってますー」

「それでちゃんと帰れるんですか?」

「うー?」

そのまま深海棲艦の1体がざぶんと海に入るが、

「あーれー?戻んなーい。あははははは」

と言って波打ち際を千鳥足で危なっかしく歩いている。

武蔵はふっと息を吐くと、

「ま、これは我々の責任。宿を取ってやろう。待ってろ」

と言い、見えていた旅館に歩いていった。

程なく帰ってくると、

「7人分、宿を取ったぞ。1泊朝食分の支払いも済ませてきた」

赤城が聞き返した。

「7人分?」

武蔵が肩をすくめた。

「深海棲艦だけで泊める訳にも行くまい?私はこのまま夜戦だしな」

「ちょ!?私ですか!?」

「乗りかかった船じゃないか。鎮守府には上手く言ってもらうよう姉に伝えておくから」

姉とは大和、つまり中将の秘書艦である。信用度は抜群だ。

「んー、じゃあ良いですけど」

「では、さっさと運ぼう。手を貸せ」

「は、はい」

 

 


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