艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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赤城の場合(7)

現在、朝、空母寮赤城の部屋

 

「ええっ!あの間宮さんが!」

加賀の話を聞き、潮は目をキラキラさせた。

「もしパティシエとして活動されてるなら、勉強させてもらえるかもしれませんね!」

「いきなり外に修行に出るよりかは、提督も承諾しやすい筈です」

「はい!」

「ただ、潮さん」

「はい?」

「そうなると、こちらの鎮守府に着任されるという事で良いんですよね?」

潮はおずおずと聞いた。

「あ、あの、そんな理由で着任をお願いして良いのでしょうか?」

加賀は僅かに考えた後、潮を真っ直ぐ見て言った。

「言うべき事を全て包み隠さず言い、伺いを立ててみたらどうでしょうか?」

「ど、どなたにでしょうか?」

「もちろん、提督にです」

「わ、わわわわわ私が直接ですか?」

すがりつかれた赤城は頷きながら、噛んで含めるように答えた。

「潮さんが、直接、提督に、言うんです」

「は、はううううう・・・」

加賀がにこりと笑った。

「今日は私が秘書艦当番ですし、赤城もついて来てくれるのでしょう?」

赤城が頷いた。

「ええ、そのつもりです!」

「あ、あの、ご迷惑をかけてしまうのでは?」

赤城はにっと笑った。

「貴方が迷惑をかけるとすれば、もじもじして言うべき事を言わなかった場合だけです」

潮はぎくりとした。昨日の事を思い出したからだ。

「ひっ」

加賀が時計を見て言った。

「そろそろ提督に朝食をお持ちする時間です。お二人も食事を済ませてから来てください」

 

コン、コン。

 

「どうぞ」

加賀の声に促され、赤城に背を押されるようにして潮が入ってきた。

提督はコーヒーを飲んでいた。

「やぁいらっしゃい。コーヒーあるけど飲むかい?」

「あ、い、頂きます」

「私は何か甘い物を!」

「ええと・・あげても良いのかな加賀?」

「なんで加賀さんに聞くんですか?」

提督がジト目で答えた。

「赤城の保護者だからです」

「なっ!」

そして皆の予想通り、加賀はこう答えた。

「ダメです。コーヒーもブラックで」

「ええええっ!?」

 

「なるほど。それなら間宮の元で働けば良いじゃない。戦う事は無いよ」

提督は潮の告白を聞いてあっさり答えた。

「で、でも、パティシエになりたいからと言って着任を許して頂けるのでしょうか?」

「えーと、加賀」

「なんでしょうか?」

「間宮班見習いって扱いで問題無いよね?」

「全くありません」

「うん、別に問題無いよ?」

あまりにあっけなく済んでしまったので、潮の方が念押しする格好になってしまった。

「あ、あの、大本営さんには」

「給糧班として報告するよ」

「ぐ、軍事訓練は」

「間宮さんもそうだけど、事務方とか、白星食品の従業員とか、やってない子は居るし」

「し、視察の時は」

「給糧班として紹介するけど?」

眉間に皺を寄せた潮は

「そ、それで本当に良いんですか?」

「我々はそれで良い。ただね」

「ただ?」

「間宮さん、こと料理の事になるとかなり厳しいから覚悟しておきなよ?」

「あ」

「まぁ、鳳翔さんよりは優しいけど」

加賀は頷いた。

「お二人とも、自らにも厳しいですからね」

「というわけで、こっちは心配しなくて良いから、間宮さんに聞いてごらん」

「は、はい」

「困ったら我々の誰でも相談に乗るからね」

「・・で、では、こちらに着任させてください!」

「ん。潮、最初に言っておくが、私は君を娘だと思って歓迎するからね」

「娘・・・」

「普通は艦娘は戦力として評価する事しかないと思うけど、ここでは違う」

「・・・」

「まず初めに、君達は私の娘だ。だから何を置いても沈めたりしないと約束する」

「・・・」

「また、仕事に貴賎はない」

「・・・」

「戦力であれ、事務作業であれ、教育であれ、研究開発であれ、立派な仕事だ」

「・・・」

「だから君はやりたい事に向かって全力で突き進みなさい。出来るだけ支援するから」

「・・・」

「ただ、その道の結末に拭えぬ疑念を持ったら、双方納得いくまで話し合わせてもらう」

「・・・」

「ようこそ、我が鎮守府へ。最大限歓迎するよ」

潮はぐぐっと唇を噛んでいたが、目元からぽろぽろと涙が零れた。

「うっ、あのっ、あのっ、ちゃんと頑張って、立派なパティシエになります!」

「まぁとりあえず、所属艦娘としての手続きや寮の部屋を確認してから、だね」

「はい!」

 

「あらあら、パティシエ志望の子とは珍しいですね」

朝の片付けを終えた間宮は手袋を外しながら答えた。

同行した赤城は言った。

「いきなり外の店に行かせるのも心配なので、こちらで基礎的な事を教えてもらえませんか?」

間宮は尋ねた。

「ええと、潮さんは今の時点でどの程度経験があるのかしら?」

「あ、あの、お菓子作りの勉強は本でやってきました」

「作られた事は?」

「本を見ながらですけど、シュークリームまでは作れます」

間宮はふうむと腕を組んだ。

「では次の質問です。製菓衛生師と菓子製造技能士の資格はお持ちですか?」

潮は目を剥いた。

「せ、製菓衛生師の資格試験勉強は、前に艦娘だった時に始めてました」

「どのくらい進めましたか?」

「すみません。まだ1/3くらいしか読んでいませんでした」

「謝る必要はありませんよ。次の質問です」

「は、はい」

「今まで最大何人分を一度に作りましたか?」

「えっ?え、ええと、いちごのケーキを・・20人分くらいです」

「どういった時ですか?」

「前の鎮守府で司令官の誕生日会があって、その時に皆の分を」

「という事は、20切れ、3ホール位という事ですね?」

「ええと、一人ホールの1/4ずつだったので、5ホールでした」

「なるほど。その時の事ですが」

「はい」

「それが毎日4回ずつ週5日あるとして、こなせると思いますか?」

潮はしばらく考えたのちに答えた。

「もう少し体力をつけ、機材を揃えないとダメだと思います」

間宮はにこっと笑った。

「ん。大変さを理解して、己の体力も解ってますね」

「ほ、本当に大変だったので」

間宮は頷いた後、赤城に言った。

「教育方針は任せて頂けますか?」

赤城は頷きながら答えた。

「着任したばかりなので右も左も解っていません。そこをよろしくお願いします」

「ええ。潰すような真似はしないけど・・・」

間宮は潮に向かって言った。

「この食堂でさえ、3食250食ずつ作っているの」

「に、250食・・・」

「だからお菓子作りは朝晩に限られるし、班員になる以上は貴方には料理も手伝ってほしい」

「はい!」

「私も精一杯手伝ってあげるけど、勉強出来る時間は凄く限られる。それで良い?」

「はい。た、体力を付けなくてはなりませんし、お役にたちたいです!」

間宮はにこっと笑った。

「良い子じゃないですか。それじゃ、資格を取る事と基本的な事を覚えていきましょうね」

「はい!よろしくお願いします!」

 

 

 


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