艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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赤城の場合(2)

現在、朝、戦艦寮伊勢達の部屋

 

「承知した。それなら私が今日、加賀が明日で構わない」

日向は机に向かって書き物をしており、伊勢は顔を洗いに出ていた。

日向は赤城の申し出を聞くと、あっさり引き受けた。

「別に明日も私がやって構わないぞ?加賀の体調は大丈夫なのか?」

赤城は溜息を吐きながら答えた。

「一晩中乙女な悩みをしていただけだから、寝れば良くなる筈よ」

「乙女な悩み?」

赤城は聞いてみる事にした。

「そうなの。あ、そうだ日向さん」

「なんだ?」

「提督とおやつを食べるとするじゃないですか」

途端に日向がもじもじし始めた。

「・・な、なんだ急に」

「どうしたのです?」

「い、いや、なんでもない。で、何だというのだ?」

「ええと、そうそう。おやつを食べるとして、日向さんは隣に座れますよね?」

がったん!

「ど、どうしたんです、椅子から転げ落ちるなんて?大丈夫?」

「だ、だだ、大丈夫。大丈夫に決まってるじゃないか。す、少し滑っただけだ」

「到底大丈夫って感じじゃないですけど」

「わ、私がこの位の事で動揺をする筈が無いだろう?」

その時引き戸ががらりと開き、伊勢が入ってきた。

「およ、赤城じゃん。・・・どしたの日向?」

「伊勢さん、おはようございます。いえ、日向さんに、提督とおやつ食べ・・」

だが、日向は赤城の後ろから口を両手ですぽりと塞いだ。

「わーわーわあああー!!!」

伊勢は日向をじっと見た。

「なになに日向?提督とデートでもすんの?」

一気につむじまで真っ赤になった日向は一層赤城の口を塞ぐ力を込めた。

「い、いいい伊勢まで何を言ってるんだ!私は加賀が具合悪いと言うから交代を」

その時、赤城が渾身の力を込めて日向の腕をふりほどくと、

「んぷはっ!こんな理由で窒息死したくない!」

「あ・・す、すまん」

赤城は日向の両腕を持ったまま伊勢に答えた。

「いやね、加賀が寝込んじゃったからさ、代わりを頼んだのよ」

伊勢は腕を組んで上を見ながら答えた。

「あー、そっか、日向は明日の当番だもんね」

「日向さん優しいんですよ、明日もそのままで良いよって申し出てくれて」

伊勢はニヤリと笑った。

「それは優しさって言うか、たくらみなんじゃないの?」

「たくらみ?」

「今日も明日も提督とおデートしたいって」

赤城もにへらと笑った。

「はっはーん、まぁ、加賀は意地でも明日は出て来るでしょうけど」

「ところで加賀の具合、どうなのさ?」

「あー、違います。昨夜加賀に提督とどうなんですって振ったらですね」

「勇気あるわね赤城。徹夜覚悟?」

「その辺の舵取りでしくじったりしません」

「さすが長い事親友やってないね。で?」

「提督と向かい合っておやつを食べたって言うんです」

「へー」

「だから隣に・・」

言いかけて赤城は気付いた。日向の腕がプルプル震えている事に。

「ん?どうかしましたか、日向?」

「か、加賀は・・・加賀は・・・」

「加賀は?」

赤城はさらっと返したが、目の前の伊勢の態度に首を傾げた。

真っ青な顔をしながら後ずさりしていたからだ。

「何してるんです、伊勢さん?」

伊勢は両腕を少し上げ、どうどうと落ち着かせるような仕草をしながら言った。

「ひ、日向、お、落ち着け、そこに居るのは赤城で加賀じゃない」

その時赤城はぞくりとした。なんか背後から凄まじい殺気がする!

「ひゅ、日向さん?」

「・・・・」

「日向さん!?」

「提督と・・二人で・・おやつ・・」

ふと気づいた伊勢は、再びにやっと笑いながら日向に言った。

「あぁ、今日交代するならやれば良いじゃん。どうせやった事無いんでしょ?」

日向は気色ばんだが、赤城に腕を抑えられているので足をじたばたさせた。

「ばっ!バカな事を!わっ、私は、て、提督の秘書としての務めをだな!」

「普通にやっても時間たっぷり余るじゃん」

「そっ!それはその、あの、あれだ!」

「お茶の淹れ方だって毎晩散々練習してるじゃん。披露してきたら?」

赤城は暴れる日向の腕を抑えつつも伊勢に聞き返した。

「お茶の淹れ方?」

「あー、日向はさ、武術一辺倒で真面目だったから淹れ方知らなかったのよ」

「へー」

「だから提督に指輪貰ってから花嫁修業しちゃってさあ」

「わぁぁああぁあ!それ以上言うな!主砲喰らわせるぞ!」

背後でガシャコンという装填音がしたので、赤城はびくりとなった。

だが、伊勢は慣れたものだった。

「毎晩あたしが日向の淹れたお茶を上手いか不味いか試飲させられてたって訳よ」

背後でがくりとする様子が赤城でも容易に解った。

「わ、私の秘密が・・」

赤城が答えた。

「お茶の練習をするのは良い事ですよ。御召艦とかになった場合にも使えますし」

「・・・そう、かな」

「はい。皆でお茶会をする時にも使えます」

「・・なるほど」

「勿論提督に「お茶!」って言われた時にも」

「・・提督はそんな事1度も言わないのだがな」

「まぁ聞いた事無いというか、普通に自分で淹れてますよね」

「来客がある時位だよな」

「そうですよ!来客の時に恥をかかずに済みますよ」

「まぁ、そうなるな」

ジャキッと装填解除の音がしたので、赤城は内心胸をなでおろした。

ふと伊勢を見ると、やるじゃないと目で合図してきた。

赤城は貸し1つですとジト目で返した。

だが、伊勢は伊勢だった。

「赤城なら提督室の甘味の場所知ってるでしょ?」

「・・幾つかありますね」

「食べても影響なさそうなのは?」

「んー、提督のすぐ脇にある棚の一番左上にあるかりんとうですかね」

「なんでそう思うの?」

「ヒマそうな時に自分で袋開けてぽりぽり食べてますから」

「お裾分けしてもらえそうかな?」

「大丈夫じゃないですか?」

伊勢は日向に向いてバチンとウィンクした。

「だ、そうよ。頑張って!」

日向は再び暴れ出した。

「何が「だ、そうよ」なんだ!」

「あんたマジで解らないの?」

「あ、う、ぐ、を」

「提督が暇そうにしてたら、お茶を持ってって、かりんとう食べたいですと」

「そっ!そんな恥ずかしい事言えるかああああ!」

伊勢と赤城がハモった。

「恥ずかしくない。全っ然恥ずかしくない」

日向は途端に俯いてしまった。

「お、おおおおお前達が変な事言うから今日は意識してしまうではないか!」

赤城が答えた。

「意識して実践すれば良いと思うんですけど」

「そっ!そんな事出来る訳無いじゃないでしゅか!」

伊勢が呆れ顔で言った。

「湯気出てるし舌噛んでるよ日向。別に同衾しろとか言ってるんじゃないんだし」

「どっ、どどどど同衾!?」

赤城が言った。

「結婚してるんですし・・ね」

伊勢も頷いた。

「ねー?」

赤城は急に腕をぐいっと後ろに引っ張られたので振り返った。

すると、そこには真っ赤になって目を回す日向が居た。

伊勢の声が被って来た。

「可愛いわよね。ちょっと弄るとあっという間にこうだもん」

「加賀も似たり寄ったりです。一晩中徹夜で悩んでたんですよ?」

「何を?」

「どうせ提督とおやつ食べるなら、隣に座れば良いじゃないと言ったんです」

「良いよねーとか言ってどっかり座っちゃえば良いじゃんねえ?」

「ですよね?そんな大層な事じゃないですよね?」

「・・まさか、それで今日寝込んだの?」

「そう言う事です」

「あーあ、日向と同じような子がもう1人居るとは」

「でも、そういう意味だと長門さんは偉いですよね」

「あまり照れてデレデレになったとか聞かないよね。長門はどうなんだろ?」

「おやつですか?」

「そうそう。どうせ日向しばらく目覚めないだろうし、聞いてこない?」

「ふむ、まぁ長門さんなら聞いても怒らないでしょう」

 

 




298話で締めると言ったな、あれはウソだ。

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