ハリケーン襲撃の翌朝、鎮守府工廠前の浜辺。
「いやー、すっごい大雨だったね!」
「もうどこから海面か解んなかったよー」
「工廠によく浸水しなかったよねぇ」
「バカにするでない。設計は完璧じゃよ」
「さっすが工廠長だねー」
ハリケーンが完全に過ぎた後、恐る恐る出てきた艦娘達は、真っ先に工廠に向かった。
そこが一番鎮守府の中で海面に近いから心配になったのだ。
しかし、工廠長の言葉通り、工廠も設備も全て無事だった。
皆で工廠や浜に流れ着いた流木やごみを拾い集めていたその時。
ポ・ポポ・ポポ・ポポ・・ポーッ!
「・・へ?」
瑞鳳は耳を疑った。
確かに帰航条件には合致してるけど、誰か連れて来たの?
ていうか、あの船よく耐えきったわね。夕張がデータ欲しがりそう。
瑞鳳は竹箒を近くの艦娘に手渡すと、インカムをつまんだ。
汽笛の音は最上や三隈も聞いていたし、意味も知っていた。
「あれぇ?お客さんだねぇ」
「ハリケーンから逃げて来たのかもしれないですわ」
「だとすると、艦娘の可能性もあるね。夕張達に知らせよう!」
鎮守府の波止場に着いた看板船は、まさに満身創痍の状態だった。
船体も看板も歪み、風防はあちこちヒビが入り、ドアも開けにくかった。
推進制御機能も複数個所で破損し、エンジンも片方しか機能していなかった。
しかし、皆が驚いたのはそこではなかった。
「艦娘が左舷側、深海棲艦が右舷側で目を回してるよ」
「乗り合わせた事、知ってるのかなあ」
「まぁとりあえず、艦娘達は入渠ドックへ、深海棲艦達は起きるのを待って受付だね」
「よーし皆、ドックに運んじゃいな!」
「おーう!」
そして数時間後。
修理を終えた艦娘達が提督室を訊ねてきた。
「提督殿、完全修理してくれた事、厚く御礼を申し上げる」
「いやいやお互い様だよ。それにしても何があったんだい?」
「深海棲艦との戦闘後、ハリケーンを回避したら海原の真ん中で燃料が切れてしまったのだ」
「うわ」
「どうしようもないと思っていたら、あの看板が見えてな」
「まぁ遠くからでも見えるだろうね」
「何とか皆で航行し、船に乗り込んで、看板を信じてボタンを押したのだ」
「そうか。じゃあ緊急避難先としても使えるって事だね」
「それにしても・・・深海棲艦の艦娘化など出来るのか?」
「あぁ、うん、もう1500体以上やってるよ」
「な、なんだって!?」
「あの船に乗ってきた子だけでも600体以上やってるしねえ」
「・・・・はぁ」
「どうした?」
「い、いや。ところでここはどこの辺りなのか教えてはくれないか?」
「あぁ、そりゃそうだね。この位の海図でいいかな」
「充分だ」
「現在地はこの辺りだよ。間もなく昼だから、昼食を食べてから出航するといい」
「重ね重ね感謝する」
「赤城、一緒に昼食をとって良いからこの子達を食堂に案内してくれ」
「解りました!」
「さて、緊急避難先の件、最上達に伝えるかね」
一方、工廠近くの浜辺では。
「本当ニ本当ニ、危ナイ所ヲ助ケテクレテ感謝スル」
「高さ30mの高波じゃあシートベルトがあって良かったね」
「アレガ無ケレバ死ンデイタ」
「とりあえず、お疲れの所悪いけど、艦娘化しちゃおっか」
「ア、アア。ソンナ早ク済ムノカ?」
「1人8分くらいだよ」
「・・・・ソンナ早イノカ」
「そっか、皆もっとかかるって思ってるんだね?」
「アノ看板ノ噂ハ皆聞イタ事ガアッタ。ダガ誰モ帰ッテコナイカラ真偽ガ解ラナカッタ」
「まぁ艦娘になっちゃったら海底には帰れないもんね」
「アト、時間ガドレクライカカルカ全ク見当ガ付カナカッタ」
「そっか。じゃあその辺を盛り込んだ看板にしようかなあ」
「じゃ、問診票書くからこっち来て」
深海棲艦の一行が研究室に入ったとき、提督が最上の所にやってきた。
「おおい」
「あ、提督、どうしたんだい?」
「さっきの船に乗ってた艦娘達がね」
「うん」
「ハリケーンを避けていたら燃料切れになり、たまたま通りがかった看板船に乗ったんだって」
「へぇ」
「海原での艦娘緊急避難場所としても使えるなら、看板に追加して欲しいなあって」
「うーん、一緒に乗って大丈夫かなあ」
「・・まぁね」
「僕としては、緊急避難船と看板船は分けたいなあ」
「船の痛み具合はどうだい?」
「残念ながら解体するしかないよ。見た目以上に内部のダメージが大きすぎるんだ」
「そうか」
「機関系はオーバーホールすればいけそうだから、船体と看板だけだけど」
「まぁ、それなら緊急避難船も一緒に作ってよ。出航させて良いから」
「解った。それなら今回の反省も踏まえて少し小さくするから、2隻作らせてもらうよ」
「その辺は最上に任せるよ」
「うん」
「いずれにせよ、最上の作った船が深海棲艦や艦娘の命を救ったよ。誇らしい事だ」
提督がわしわしと最上の頭を撫でると、最上はぽうっと頬を染めながら、
「・・・えへへへ」
と笑った。
こうして作られた2隻の船だが、それぞれの看板にはこう書いてあった。
ソロル鎮守府では深海棲艦の艦娘化実施中!
深海棲艦の皆様!今なら無料で艦娘に!
お一人様、たった8分で戻れます!
このチャンスをお見逃しなく!
いつ乗るの?今でしょ!
さぁ船に乗ってボタンをPushしよう!
本船は緊急避難先として巡航中です。
破損や燃料切れで航行不能の艦娘の方。
ご乗船頂き、ボタンを押してください。
ソロル鎮守府までご案内します。
それぞれのキャッチコピーを見た提督は、傍らに居る最上に言った。
「・・まぁ、なんだ。よく特色が出てるよね」
「でしょ?結構頑張って考えたんだよ」
「・・最上が考えたの?」
「そうだよ」
「・・そっか」
「ところで、新しい船はだいぶ小さくなったね」
「そうだね。30m級の高波にも耐えないといけないし」
「耐えられるんだ」
「もちろん。その代わり定員は50名に半減したけどね」
「まぁ良いんじゃない?」
「燃費は35%改善したよ」
「それは素晴らしいね」
「と言うわけで、出航させるね」
「一体でも一人でも多く、救い出せると良いな」
「そうだね」
「ところで、勧誘船に誰か乗ってない?」
「うん。元深海棲艦の艦娘が二人乗ってるよ」
「なんでまた?」
「実験なんだけど、躊躇ってる子が居たら説得出来ないかなって」
「艦娘が見えたってだけで怯えて来ないんじゃない?」
「可能性はあるし、居ないほうが効率的なら降りてもらうよ」
「まぁ、その辺は最上に任せるよ」
「解った」
結果、提督の心配通り艦娘が居ると乗ってくる深海棲艦は随分減ってしまった。
なので勧誘船も避難船も無人のまま、今日も元気に海原を航行している。
ちゃーちゃらっちゃっちゃらららちゃーちゃちゃらー♪
ちゃーららっちゃ ちゃーららっちゃ ちゃーららーららー♪
そう、軍艦マーチを響かせながら。
最上編、終了です。
爽やかで軽いタッチの天才肌というのが私の中の最上のイメージです。
皆様はどんな感じでしょう?
さて、次はどなたにしましょうか・・・