中将と提督が通信中。鎮守府通信棟。
「は?看板?宣伝?何の事でしょうか?」
次第を説明された提督はすっとんきょんな声を上げた。
「んん?提督の所ではないのか?」
「看板の謳い文句から考えるとうちしかありえなさそうですが、聞いておりません・・」
「わしもそう思う。すまんが確認を頼めるかな?」
「はい。やってるか否か以外に何か確認事項はありますか?」
「やたら巨大だが攻撃回避技術が尋常ではないらしい。どうやってるのか知りたい」
「解りました」
任務娘に礼を言って通信棟を出た提督は、扶桑に言った。
「夕張はどこかな」
「呼んでみますね」
二言三言会話を交わした扶桑は提督に向き直ると
「先程、艦娘化希望の深海棲艦が30体近く来たそうなので、ちょっと手が離せないと」
提督は確信した。話題の船はうちだ。
「扶桑、研究班の所に行こう」
「まぁた随分盛況だなあ」
工廠近くは見慣れない艦娘達と深海棲艦でごった返していた。
「はい!艦娘に戻ってまだ説明を聞いてない方!こっち集まってくださ~い!」
「問診票書き終えた深海棲艦の方はこっちですにゃ~!」
高雄や睦月の声が枯れている。そりゃこれだけの人数を相手にしてたらそうなるだろう。
「扶桑、夕張がどこに居るか見えるかい?」
「ええと・・・あ、あちらの長机に」
「あ・・提督・・お疲れ様です」
「・・・随分疲れてるな夕張」
「艦娘化希望の深海棲艦達が連日、昼夜問わず船で乗り付けて来るんですよ」
「夕張が作ったのかい?」
「いいえ、私がPRする船があれば良いねって話をしたら、最上が作ってくれたんです」
提督は溜息を吐いた。夕張じゃなくて最上か。瑞鳳辺りも噛んでるんだろう。
「で、その船はどこにあるんだい?」
「もう随分前に出航しましたよ」
「誰が操船してるんだい?」
「誰も乗ってませんよ」
「・・・へ?」
「自動操船プログラムが勝手に周回コースを回ってるんです」
提督は数秒考えた後、
「扶桑、重巡寮に行こうか」
と言った。
コン、コン。
「はーい・・・って提督!?ど、どうしたんだい?呼んでくれれば良かったのに」
引き戸の先に提督と扶桑を見た最上は慌てて自席から駆け寄ってきた。
無論三隈も隣に居る。
「あー、艦娘化PRの看板を積んだ無人船を作ったかい?」
「うん。もう1ヶ月くらい航行試験してるよ」
提督は溜息を吐くと、
「それならその旨、私に報告位しなさい。大本営から確認が来たんだよ」
「あ。そうだ言ってなかった。テストが終わったらと思ってたんだ。」
三隈が恐る恐るといった様子で口を開いた。
「えっと、艦娘さんと衝突事故でも起こしてしまいましたか?」
「いや、弾をすいすい避ける巨大看板が夜な夜な出没するけど、ありゃなんだと」
「えっ?艦娘に撃たれてるのかい?」
「いや、深海棲艦達らしい」
「そっか。じゃああの歪みは至近弾によるものだったんだね」
「夕張から少し聞いたが、自動操船なんだって?」
「うん、大体の周回コースを決めてあって、障害物や攻撃はその場で回避するよ」
「最上一人で作ったのかい?」
「船体と看板は僕と三隈、制御システムは瑞鳳だよ」
提督はなるほどと頷いた。この3人が組んだら誘導ミサイルでも作れるからな。
「図面とか性能諸元とか制御システムを大本営に提供しても良いかな?興味津々の様子でね」
「んー、一応瑞鳳に聞いてみるね」
そういうと最上はインカムをつまんだ。
「一晩で作ったプログラムだから恥ずかしいけど、良いよ」
最上の通信に慌てて飛んで来た瑞鳳は、説明を聞いてそう答えた。
「ま、今回は問題になってないから良いけど、鎮守府の外に出すなら一言言ってね」
「うん。忘れててごめんなさい」
「次回から必ず事前に申し上げますわ」
「すみませんでした」
「ところで、1ヶ月運行したんでしょ?」
「うん」
「何体位誘いに応じて来たの?」
「乗船数で良いのかい?」
「え?作った船って看板のみじゃないの?」
「看板も付けてるし、海面からすぐ乗り込めるようにシートも装備してる」
「あぁ、それで周回しながら乗せて帰ってくるって事か」
「ううん、乗ってボタンを押したら全速力で帰ってくるよ」
「そうなの?」
「大丈夫、ちゃんと全席シートベルトは付けてあるって」
「いや、そうじゃなくて」
「そうかい?深海棲艦達には結構評判がいいんだよ」
「シートベルトが?」
「うん」
「何体くらい乗れるの?」
「席数は100席。戦艦級の深海棲艦でも耐えられるよ」
「転覆しない?」
「乾舷が1mもないからね。船体はほとんど水の中さ」
「乗ってる子達は波でずぶ濡れじゃないか」
「最初はそうだったけど、今は強化ガラスの風防とエアコンを付けてるから快適だよ」
「へぇ。揺れは?」
「ほとんどないよ。幅60m長さ120m、3胴式で排水量2万トン」
「デカッ!エンジン何使ってるの?」
「15万馬力のLNGガスタービン2基並列だよ。駆動方式はジェット噴流さ」
「2基並列!?」
「実測値で50ノットを5時間位出せたよ」
「実測って・・出したの?」
瑞鳳が肩をすくめた。
「制御プログラムのミスで出ちゃったの。最初の1晩だけだけどね」
「はー、それを見てたのかなあ」
「何がだい?」
「大本営に上がった連絡では、深海棲艦を乗せた後30ノットは出てたって」
「それは今でもだね」
「はい?」
「今でも波が荒れてなければ35ノット出すもん」
「特急なんてもんじゃないね」
「風防付けてからは深海棲艦達からも好評だよ。遊園地のアトラクションみたいだったって」
提督は溜息を吐いた。まぁ良いんだけど。
「随分衝撃的だったから話題が逸れちゃったけど、何体位誘いに応じたの?」
「乗船数どれくらいだっけ?瑞鳳解る?」
「トータルですと・・・250体位ですね」
「250!?凄いじゃないか!」
「1日平均10体位だよ。僕は100体満載するかなって思ってたんだけど」
「いやいや、それでも凄いよ。ちなみにどの辺りまで行けるの?」
「設計上は太平洋ならどこでも行って帰って来られるよ」
「な、南極も?」
「距離的にはね。流氷とかで周囲を囲まれると脱出できないけど」
「ちなみに、何隻居るの?」
「まだテスト中だから1隻だけだよ。夕張からは何隻か配備させる構想をもらってたけど」
「研究班がパンクしちゃうよ」
「だよね。あ、そうだ。研究班がてんてこまいしてるのを何とかしようと思ってたんだ」
「そうしてやってくれ。夕張がグロッキーになってたから」
「解った。最優先で対応しておくよ」
その時、三隈が部屋に戻ってきた。
「提督。図面、プログラム、性能諸元表を印刷してきました。こちらの封筒に入っています」
「ありがとう。じゃあ大本営に送らせてもらうよ」
「はぁい」