艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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最上の場合(4)

 

深夜。ソロル鎮守府から少し離れた海原。

 

 

ドン!

 

深海棲艦側が一斉射した。看板の手前でパシャパシャと水柱が立つ。

「チッ。マダ近カッタカ。ドンダケデカインダ。次ハ直撃サセル!」

 

ドドドン!

 

「!?」

深海棲艦達は弾着時に目を疑った。

あんな巨大な船体はタンカーのように鈍重な動きしか出来ないだろうとタカを括っていた。

しかし、看板は着弾直前、弾と弾の合間に収まるよう、すいっと回頭したのである。

深海背艦達の背中を嫌な汗が伝った。

 

「バ・・バカナ」

「オ、オイ、コッチヲ向イタゾ」

 

ちゃーちゃらっちゃっちゃらららちゃーちゃちゃらー♪

じわじわと近づいてくる看板。

 

「ヨ、ヨセ。ヤメロ・・・来ルナ」

 

ドドドドドン!

すいっ

 

「マッ、真横ニ動クダト?!」

「ウワアアア!来ルナ!来ルナアアアア!」

もはや半狂乱で撃ちまくった。

 

ドドドドドドドドドドン!

すいっすいっ

 

ちゃーららっちゃ ちゃーららっちゃ ちゃーららーららー♪

大音量と想像を絶する巨大な看板にすっかり肝を潰した深海棲艦達は一目散に逃げ出した。

 

「ヒィィィィイィイィィィイィイイ」

「逃ゲロォォォォオオオォオオオ」

 

艦娘達はこの成り行きを呆気に取られて見ていたが、ハッと気付いて

「てっ!撤退!総員撤退ぁ~ぃ!」

と、一目散に逃げ出したのである。

何だか解らないが、あの変な看板のおかげで助かった!

 

 

それから2時間後。

 

「・・・・マ、撒イタ、カ?」

「・・・アァ、俺達ト違ウ方向ニ進ンデル」

「クソ、皆トハグレテシマッタ。一体全体何ナンダアレハ?」

「ダ、ダガ、撃ッテハ来ナカッタゾ?」

「撃ッテ来ナイ上ニズンズン近ヅイテ来ルカラ余計怖インジャナイカ!」

「ソレニ、アノスイスイ避ケル器用サハ何ナンダ?」

「ドウシテ船ガ真横ニ動ケルンダ?」

「トニカク、マタ見ツカル前ニ逃ゲヨウ」

「アノ看板ニ書イテアッタ事、ホントカナ?」

「何カ書イテアッタカ?逃ゲルノニ必死デ覚エテナカッタ」

「艦娘ニ戻リタキャ乗レッテ」

「・・・・船ヲ横ニ走ラセル技術ガアルンダカラ、出来ソウナ気モスルヨナ」

「・・・艦娘ニ戻レルノ?」

「オ、オイ、マサカ行ク気ジャナイダロウナ?」

「マッ、マサカー」

「オイオイ、シッカリシロヨー」

「アッハッハッハ」

「ハッハッハッハ」

 

そしてコポコポと潜り、看板の方を振り返った二体は思わず息を吐き出してしまった。

海面に戻る。

「ガハッ!ハッ!鼻ニ水ガ!」

「ゲホゲホゲホッ!」

そして互いに顔を見合わせると

「海中ニモ看板ガアッタゾ?」

「ソレニ、海中ニ没シテル船体、超巨大ジャナイカ!」

「ドンダケデカインダヨ」

「・・・モウ、今夜寝ラレソウニナイ」

「アア。我々ダケ寝ラレナイノハ悔シイカラ仲間ニモ話ソウ」

 

こうして、看板を見た深海棲艦は次々と周囲に尾ひれを付けて聞かせたため、

 

「迫リクル巨大看板」

 

として、たった一晩で定着してしまった。

 

翌朝。

 

「んー?」

 

戻ってきた船体を引き揚げて確認していた最上が眉をひそめた。

まるで大量に至近弾を受けたかのような凹みがある。

急ごしらえで船体作ったから波で歪んじゃったのかな?

それは三隈も気づいていた。

 

「最上さん、船体にかなり歪んだ跡がありますね」

「そうだね、波の圧力で歪んじゃったのかな?」

「考えにくいですけど・・・内部補強します?」

「んー、全箇所補強出来る程の浮力的余裕は無いんだよね・・」

「後は外側で補強するか、ですね・・・」

「んー、硬質ゴム塗料を塗ってみようか?」

「船体にダメージを与えないって事ですね」

「うん。もしかすると岩礁や氷山に当たったのかもしれないし」

「良い対策ですわね。でも・・」

「でも?」

「ゴム塗料、在庫が蛍光ピンクしかないですわ・・・」

「良いんじゃない?目立つじゃん」

「い、良いのかしら・・・」

 

しばらくして。

 

「おーい、最上ぃー、三隈ぁー」

「やぁ瑞鳳、どうしたんだい?」

「プログラム見直してたんだけどね、深海棲艦反応があったら近寄って行くってどうかな?」

「良いじゃない、目的にぴったりだよ」

「だよねだよね!だからプログラムちょっと更新するね~」

「はいよ~」

「ところで昨夜って出航させたんだよね?」

「うん、今朝戻ってきたよ」

「で、なんでピンクに塗ってるの?」

「船体が凹んでるんだよ。ほら。氷山か岩礁に当たったかもしれないと思ってね」

「そっか。もう少し制御の応答速度上げた方が良いかも。ちょっと数字弄っとくね」

「うん、ゴム塗料も塗ったし、今度は大丈夫じゃないかな」

「じゃあ今夜はもう少し遠くまで行かせるの?」

「そうだね、燃料をもう少し積んでみるよ」

 

そして、2日目の夜。

 

「タッ!タタタタタ大変!」

「ドウシタ、何ガ大変ナンダ?」

「レ、例ノ軍艦マーチ鳴ラシナガラ迫ッテクル看板ガコッチニ向カッテキテル!」

「ナンダッテ?!我々ノ住マイガ割レテルノカ!?」

「シカモ船全体ガ、ナンカ、ボワント赤く光ッテル!」

「elite級ニナッタッテノカ!?」

「ワカンナイ!デモ、モウスグ来ル!」

「ヨシ、アノ海底ノ岩陰ニ潜モウ」

「ソウダネ!昨日ハ海底ヲ走ッテ逃ゲテ上手ク行ッタモンネ!」

 

30分後

「・・・・ネェ」

「ナンダ」

「軍艦マーチノ音ガ、ズット真上カラ聞コエテクル気ガ、スルンダケド」

「気ニスルナ。気ニシタラ負ケダ」

「ト、隣ノ岩場ニ動コウヨ」

「見ツカルゾ?」

「モシカシテ・・・見ツカッテルンジャナイ、カナ?」

「ナンダッテ?」

「見ツケテルケド、攻撃スルツモリハナイッテ事ジャ・・・」

「・・ヨシ、確カメテミルカ」

「ドウスルノ?」

「俺ハココニ残ルカラ、オ前ハアッチノ岩陰マデ走レ」

「!?」

「モシ看板ガ、オ前ニ攻撃シタラ、俺ガ撃ツ。俺ガ撃タレタラ、オ前ガ撃ッテクレ」

「・・ワ、解ッタ」

「ヨシ・・行ケ!」

 

その声を合図に、深海棲艦の片方が少し離れた岩陰まで移動した。

そっと隙間から様子を伺っていた残りの1体は、看板が僅かに動いた事に気付いた。

丁度二体の間に居る。

それにしてもデカイし派手だしうるさいし。

一体何なんだ、あの看板というか船というか、変な物は!

 

ちゃーちゃらっちゃっちゃらららちゃーちゃちゃらー♪

ちゃーららっちゃ ちゃーららっちゃ ちゃーららーららー♪

 

イラッ☆

ピンクの船底を見上げてるうちに腹が立ってきた。

よし、上等じゃないか。

 

もう1体の方に近づいていく。

「俺ハココニ居ルカラ、皆ヲ呼ンデキテクレ」

「エッ?」

「船ニ乗ッテミル」

「乗ルノ!?」

「宣伝ノ通リナラ、広告主ノ所ニ連レテッテクレルンダロ?」

「ソ、ソウダネ。艦娘ニ戻シテクレルッテ言ウシ」

「嘘ダッタラサ、船ノ上デ看板ヲ撃チマクロウゼ!」

「ナルホド!船ノ上ナラ回避サレナイネ!」

「テコトデ、皆呼ンデキテ!」

「アーイ」

 

「コンナモン信ジテ良イノカナア」

「音楽トイイ看板ノ謳イ文句トイイ、ウサンクサインダケド」

赤いボタンを押そうとしていた深海棲艦の後ろで別の一体が呟いた。

「自爆スイッチダッタリシテ」

押そうとしていた手が止まった。

「・・ウッ」

その可能性はある。だが、こいつは終始攻撃してこない。

あまりにも弱い理由だが、あれだけ器用に逃げ回るのだから攻撃しようと思えば出来る筈だ。

ええい、ままよ!

 

ポチッ!

 

 


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