艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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弥生の場合(4)

駆逐艦寮、現在。陸奥の提案を決行した翌朝。

 

「おぉおおぉおぉぉおお」

弥生はこの部屋に来て初めて、自分の目覚ましのアラーム音が鳴るまで眠れた。

ちょっと、いや、かなり感動した。

これでようやく皆と一緒に住みながら安心して眠れるんだと思いながら半身を起こした。

掛布団がかかったままだ!昨晩寝たままだ!

頭上の睦月は大丈夫だろうかと、そっと四つんばいでベッドの下から這い出した。

幾ら弥生の背が低くても勢いよく立ち上がればベッドの床に頭が当たる。

折角気分よく目覚めたのに、そんな失態を演じたくない。

「・・・・」

立ち上がって覗き込むと、睦月が眠っていた。

寝た時に比べれば頭と足の位置が逆になってるが、今までを考えれば些細な差だ。

そういえばと、弥生は部屋を見回した。文月はどこだ?

そして程なく、皐月のベッドの上で大の字になって寝る文月を見つけた。

皐月は同じベッドの隅の方で小さくなって眠っていたのである。

 

「んー、別に起きた記憶はないけどなあ・・朝まで寝てたよ」

起きた後尋ねると、けろっとした顔で皐月は言った。

弥生は少し考えた結果、1つの結論に達した。

皐月は攻撃をかわしていたのではなく、攻撃を受けても寝たまま対処していたのではないか?

皐月だけ襲われないのではなく、皐月は襲われても起きないのではないか。

それなら文月や睦月は二人に無差別に攻撃を仕掛けていた事になるから納得できる。

「そういう・・ことでしたか」

だが、それでも謎が残る。

なぜハイベッドの下で寝ると襲われないのだろう?

 

陸奥の工房に来た弥生は、早速陸奥に報告した。

「・・とりあえず、まずはおめでとう、よね!」

「あ、ありがとうございます。陸奥さんのおかげです」

「皐月ちゃんへの仮説もそれで合ってると思うわ」

「そう、でしょうか」

「ええ。で、私もやっぱりベッドの下で襲われない理由が解らないわ」

「はい」

「・・・カメラを付けてみたらどうかしら?」

「カメラ・・ですか?」

「理由が解ればすっきりするでしょ?」

「まぁ・・そうですね」

「研究班辺りに相談してみましょ?」

 

「真っ暗な中で一晩撮影したいんですか?」

夕張は書類作業の手を止めて陸奥達の話に聞き返した。

「ええ、そういうカメラないかしら?」

「ありますよ、何台必要ですか?」

「な、何台?」

「ええ。沢山要るって人も居るんで」

「どうする?2台くらい借りてみる?」

「・・・はい。じゃあ、2台で」

「OK。同じ機種が良いわよね・・・これで良いか。じゃ、説明するね!」

 

弥生は夕張から借りた2台のカメラを部屋に持ち帰ると、皆に説明した。

「そうですね。夜中に私達がどんな動きをしてるか興味があります!」

「変なシーンが写りこんでたらカットしてくださいね~」

「この部屋の皆で見たら、あとは消すから、心配しないで」

「じゃあ良いですよ。2台あるんですよね。どこに置きましょうか?」

「1台は、私の、枕元から、足元に向ける」

「それが主目的ですからそれで良いですよ。もう1台はどこにしましょう?」

「じゃあ、僕のベッドの上に置いとく?」

「そうですね!今夜も文月さんが登るかどうか解んないですけど!」

「ほんとに覚えてないんですー」

「じゃ・・・これでセット完了。後は電気を消せば、録画開始」

「暗視カメラの映像ってどんな風に写るんだろうね!楽しみだよ!」

「明日は皆お休みですから、そのまま再生してみましょう」

「じゃあ寝ましょうか」

「お休みー」

 

そして、翌朝。

 

弥生は再び、アラームの音で目覚めた事に感動していた。

間違いない。2日続けて邪魔されなかった!

弥生はベッドの下からすいっと抜け出ると、3人の居場所を探した。

・・・・睦月が寝ていたベッドで文月が寝ている。

睦月は皐月のベッドで寝ている。

皐月はベッドとベッドの間でくの字になって寝ている。

これは凄い絵が取れてそうな予感!

 

朝食を急いで取り終えた睦月達(隣室の菊月達も)は、睦月の部屋に集まった。

そして弥生の枕元にセットしたカメラから再生したのである。

最初の2時間程は、特段動きは無かった。

 

が。

 

2時間半ほど経った時点で、文月が突然むくりと立ち上がった。

「!?」

釘付けになる文月、興味津々の面々。

画面の中の文月は、突如奇妙な行動を始めた。

それはゾンビが踊る盆踊りのような、奇妙な奇妙な踊りだった。

「な・・何してるんでしょう・・」

「鼻提灯膨らませてるって事は・・寝てるんだよ、な」

「予想以上に激しい動きをしてましたね」

やがて踊り終えたように動きが収まると、てぽてぽと辺りを歩き回りだした。

そして弥生の寝てる方に迫ってきた!

「ああっ!弥生危ない!」

が、しかし。

 

 ガイン!

 

文月は見事にハイベッドの枠に肩を打ちつけると、反対側にどたりと倒れた。

「そうか・・中腰になるほど器用には動けないんだな」

菊月がぽつりと言った。だが。

「おっ、ね、ねえ、はしごを掴んだよ?」

「・・登り始めましたね」

文月が弥生のベッドに上り、カメラから見えなくなった直後。

 

どすん!

 

「あ」

「睦月ちゃん・・投げ飛ばされたんですね」

「明らかに自分の意思じゃなく放り投げられたって軌跡だったな」

「文月・・本当に寝てるのかこれ?」

「全く記憶に無いです!」

「すごいですね。寝たままここまで動けるなんて」

 

そして。

 

「あ、睦月が立ち上がった」

「皐月ちゃんのベッドの方に行くよ・・・」

「あ、あ、カメラの死角に!」

 

その後も念の為という事で最後まで再生したが、時折弥生の寝返りが見える位だった。

 

「じゃ、じゃあ、もう1台のカメラだね」

「睦月ちゃんがどうやって皐月ちゃんを投げ飛ばすのか!」

「ぼ、僕、寝てる間に何されたんだろう・・」

「では、再生しますね」

 

皐月の枕元に置かれたカメラは、睦月が投げ飛ばされるまでは平穏だった事を示していた。

しかし。

 

「うわ!睦月ちゃんが鼻提灯膨らましながらベッドのはしご登ってくる!」

「赤外線でアップはこわっ!一種のホラーだよこれ!こわっ!こわああっ!」

 

だが、次の展開は全員の意表を突く物だった。

 

「あ」

 

睦月がベッドに入り込んできて寝息を立て始めると、皐月はむくりと起き上がったのだが。

 

「あれ?起きてる?」

「目開けてるよ?ほら、目をこすってる」

「えっ!?僕全然覚えてないよ?」

 

画面の中の皐月は睦月に布団をかけると、そのままそっと梯子を下りて行った。

足音がしないのを見ると、そのままベッドの間で寝たらしい。

 

 

 


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