艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

272 / 526
夕張の場合(20)

 

龍田達が打ち合わせした日の夕方。工廠事務所。

 

「こんにちは~」

「おや夕張・・その、打合せは、終わったのかの?」

「ええ、終わりました」

「そうだ、メインクレーンとコンベアの対策は終わったぞい」

「あ、それは、何よりです」

「抜け殻のようになっとるの・・打合せ、大迫力じゃったろ?」

「なるほど、ええ、大迫力でした」

「わかっとると思うが、他言無用じゃぞ」

「ですね」

「わしも前、打合せに出た事がある」

「・・・」

「詳しくは言えんが、その晩は寝られんかったよ」

「・・・」

「この鎮守府の為にどれだけ頑張ってくれとるかという一面を見たんじゃよ、わしらは」

「・・・・」

「わしらが思う以上に、彼女達は頑張ってるんじゃろうよ」

「・・・」

「・・・じゃから、そっと応援してやれ。変に怖がらず、噂を立てず、な」

「・・そうですね。最強の味方ですからね」

「その通りじゃよ」

「・・・私も、あんな風に役に立ってるんでしょうか?」

「今度の発電機の件は事務方をかなり助けたじゃろうよ」

「そうですかね」

「それに、研究班はお前さんのデータが頼りなんじゃろ?」

「・・・まぁそうですけど」

「出来る事で役に立てば、それで良いのじゃよ」

「・・・そっか」

「そうじゃ」

夕張と工廠長は互いに顔を見合わせると、ふふっと笑った。

「戻ります」

「うむ、高雄達が心配しておろう」

 

翌日の夜。

 

「ねぇねぇ、装備は何を持って行けばいいの?」

「んー、特に無いわよ。運が上がる物があれば良いけどね」

「まぁそうだよね」

夕張と島風が向かっていたのは、深夜の工廠だった。

研究室の向かいにある「会議室」と書かれた部屋。

普段誰も使う気配がないこの部屋に、今夜は明かりが灯っていた。

 

「はい天山!天山出ぇ~ました。隼鷹さんおめでと~うございます!」

ガチャリとドアを開けた途端飛び込んできたのは、不知火のこの声だった。

「不知火ちゃん!来たよ!」

「夕張さん、ご協力ありがと~うございます!おや、今夜は島風さんも御参加ですか?」

「うん!開発のアルバイトに来ました!」

アルバイト。

事務方が艦娘に出している唯一のアルバイトがこれである。

要するに深夜使われていない工廠を使って兵器開発を行うのである。

レアやホロ級の装備を出せば当たり、陸軍装備が出れば大当たりだ。

当たりのポイント数は前に一覧表になっている。

上手く開発出来ると不知火がマイクを前に褒め称えると言うわけだ。

「おっ、幸先良さそうね。じゃあ早速やりましょうか!」

「普通に開発すればいいんだよね?」

「そうよ。あ、ちょうど兵装開発装置が2つ開いてるわ!」

「行っちゃおっか!」

 

そして30分後。

 

「ハイ8cm高角砲出ぇ~ました!島風さんそのまま行ってくだ~さい!」

不知火が言う通り、島風は調子良くレア以上の兵装を幾つか出していた。

一方で夕張はというと・・

「あっれー、またペンギンだぁ」

「んふふん。島風、だいぶ儲かっちゃったよ!」

「いーわねー、私まだ1つも出してないよー・・・ソナー狙い過ぎかなー」

「じゃあ運を分けてあげるよ!」

そういうと島風は夕張の手をギュッと握った。

「・・・よし!」

手をつないだまま、夕張は開発のスタートスイッチを押したのである。

結果。

「三式!三式ソナー出ぇ~ました!夕張さんおめでと~うございます!」

「んふふん、これから頑張ってね!」

「よっし!もうひと頑張りしちゃいましょう!」

 

2時間後。

 

「毎度ありがと~うございました!」

不知火の声に見送られながら、二人は会場を後にした。

島風は上機嫌だった。

「結構くれるんだねえ。私4300コイン!」

夕張は涙目だった。

「うぅ・・どうせ1800コインよぅ・・・1万は稼ぎたかった・・・」

「1800コインだと・・・特上天御膳が食べられるね!」

「いや!あれだけ頑張ったのに1回の食事で終わりなんて切なすぎる!」

「美味しいよぅ特上天御膳」

「じゃあ島風ちゃんはそれで食べる?特上天御膳」

「うっ・・・天ぷら定食で良いかな」

「天定は200コインじゃない!」

「だって初めてのアルバイトの報酬だもん!大事に使うもん!」

「間宮アイスが36回も食べられるのよ!そっちの方が良いわ!」

「うん、そっちの方が良いね」

「だよねだよね!」

「・・・それはそうとさ、あんな不知火ちゃん初めて見たんだけど」

「え?そうだっけ?」

「無表情でクールなイメージだったのに・・・鼻つき眼鏡にラメジャケットなんて・・・」

「・・・あー、でもあれは、頑張ってるよね」

「明るくしようと必死だけど真面目な性格だから弾けきれてないというか」

「でもね、あの不知火ちゃんの不思議トーク、何故かあの場にマッチしてるでしょ?」

「うん」

「面白いよね。また行く?」

「うん!」

 

鎮守府の説明会から1カ月後、集会場。

 

「・・・以上により予算内に収まりましたので、給与カットは取り消しとします!」

わぁっと艦娘達は歓声を上げた。

夕張を褒める声もあちこちから聞こえた。なにせ節減策の主役である。

面と向かって沢山の拍手を受けた夕張は、顔を真っ赤にして俯いてしまった。

夕張はこの発表内容を前日の夕方に聞いていた。

文月が不知火を従えて研究室を訪ねてくると、内容を報告した上で、

「この件では夕張さんに大変なご協力を頂きました。些少ながら御礼をお持ちしました」

と、大きな風呂敷包みを置いて、深々と頭を下げて帰っていったのだ。

「なにかしらね~」

愛宕が皆の前でするすると包みを解いた。

「げっ」

何気なく愛宕がどかした物に、夕張の目は釘づけになった。

包みの中には鳳翔の店の菓子折り詰め合わせの箱が人数分入っていたが、その上には

 

ゼンマイ式の置時計

 

が乗っていたのである。

愛宕は夕張の硬直した顔に首を傾げ、視線の先の置時計を手に取ると、

「この時計がどうかしたの?夕張ちゃん」

「い、いえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえ」

摩耶が時計をコンと弾いた。

「なんかきったねぇな。ちょっと雑巾持って来るわ」

「あ、いや、あまり大事にしなくても良いかな・・なんて」

高雄は時計を受け取ると、あちこちから眺めまわした。

「折角の頂き物ですし、結構良い物ですよこれ。ゼンマイ巻いてみましょうか」

「あ、あの、動かすと音がうるさい・・ですよ」

鳥海が首を傾げながら夕張に聞いた。

「夕張さん、この時計をご存じなんですか?」

「し、知ってるどころじゃないわ。この時計は不幸を呼・・ぶとも言えないか、うーん」

「???」

島風が夕張をじっと見た。

「・・・」

「な、なに?」

「言いたいけど言えないって顔してる」

ぎくうぅっ!

「ちょっ、えっ、いや、あの、い、命に関わるの・・お願い聞かないで」

「ふーん、解った。で、夕張ちゃんはあの時計は見たくないの?捨ててこようか?」

夕張は数秒迷ったが、

「・・・ううん、ここに置いといてくれるかな。忘れないために」

といった。

その時、夕張のすぐ傍の窓ガラスから小さな影が消えたのを、研究班の誰も気づかなかった。

人影は研究室を離れながら、

「秘密は、守れそうですね」

と呟きながら、そっと立ち去った。

その時、スカートの裾からチラリと銃が見えた。

提督とお揃いの、ブローニング1910であった。

 




夕張と島風編、終了です。

実は私、この二人は非常に動かしやすかったです。
頭の中で勝手に物語が進んでいくのを見てピックアップする感じで書けました。
それくらい簡単ですが、あまり長いのは好まれないようなのでこの辺で。
ちなみに一番簡単なのは天龍組です。だから45話も書けたのです。
一方、全くストーリーが出てこないのが、実は金剛4姉妹だったりします。
キャラが強すぎるのかイメージが強すぎるのか、辛うじて榛名さんと比叡さんがショートショートで動かせるくらい。金剛さんは1シーン程度。霧島さんはもう全く出てこない。
暁4姉妹は夏休みに響とちょこっと動かしましたから金剛4姉妹よりは動かせますね。ほっといても勝手に動いてくれるフリーダム響さんのおかげでしょう。
今どこに居るのか良く解ってません。不思議度は青葉並。
不思議といえば私の鎮守府にお迎えしてない大鳳さんや雪風さんの方が動かせました。二人とも早く来てくれないかな。

さて。
第1章は46話、第2章は103話でしたが、第3章は現在123話。
気付いたらあの長かった2章を超えてました。

3章は皆様のご声援で始まり、ご感想を燃料に続けております。
第1章と第2章を合わせると149話なので、その位が潮時かなと考えてます。
アンコールで折り返しってのも書き過ぎかなと思うのですけど。
それに、後26話も皆様に見捨てられず行けるか解りませんが、そんな事を思ってますということで。
・・・とか言いながら感想に応えててあっさり150超えたりして。
ああやりそうな気がしてきた。

最後に。
感想を書いて頂いた全ての方に感謝しております。ありがとうございます。
1つ1つ何度も拝見しております。
ただ、返信として未来のネタをバラシちゃいそうなので個々の返事は致しておりません。
すみませんが何卒ご容赦願います。
この後書きを書いた理由ですか?
たまにはちゃんと感謝している事をお伝えしないと、と思いまして。
それでは、銀匙でした。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。