艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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夕張の場合(15)

 

 

出品翌日の夜、軽巡寮夕張の部屋。

 

島風に連れてこられた文月は状況を聞き、ふんふんと頷いた。

「半数行きましたか。まあまあじゃないですか?」

「安過ぎたのかなあ?」

「いわゆるシールドプレミアより安かったんでしょう」

「それなぁに?」

「シールド、つまり新品未開封だけを集めるコレクターがいます」

「へぇー」

「ただ、新品未開封は発売終了から時間が経つほど絶対数が極端に減ります」

「だろうねえ」

「普通のコレクターも未開封が買えるならと、入札に加わります」

「そうねえ」

「だから、コレクターが多い分野は、シールドだけプレミア相場を形成します」

「そっかー」

「夕張さんはその貴重な、シールド出品者だったって事でしょう」

「なるほど、プレミアを考えれば割増の即決でも安かったって事ね」

「そういうことです」

「あー、もうちょっと割増しておけば良かったかなー」

「相手が品物と値段に満足していればクレームは減ります。欲は控えめで吉です」

「ま、そう思う事にするわ」

「後は普通に、早く欲しいから即決でポチった人も居ると思います」

「そうね」

「明日以降は数も一気に減ると思いますよ」

「そうかな?」

「欲しい人は絶対毎日チェックしています。出品から12時間以内が一番即決されやすいです」

「まぁ、期間の真ん中とかで即決ってあまりないわね」

「あれ、またお手紙のアイコンだよ?」

「あ、また即決。即決多いなあ」

「即決としての割増額が適正範囲なら、安心料として積極的に選ばれますからね」

「私、今まで即決額って単純に開始価格の2倍にしてたわ・・・ははは」

「もうちょっとくれたらすぐ売るよ、そんな値付けが一番ポチられやすいです」

「なるほどね。じゃ、この人への連絡を本日最後にしましょう!」

「そろそろ、眠いんで帰って良いですか?」

「あ、そっか。もう2100時だね。ありがとね文月ちゃん!」

「おやすみです~」

「じゃ、私達は決済処理を確認出来た分から宛名書きしよっか」

「うん!」

 

文月の言葉に反し、翌日も、その翌日も即決は続いた。

そしてついに期限の7日を待たず、5日目の昼には完売してしまったのである。

期限前に即決で完売というのは金銭的には嬉しいのだが・・

その5日目夜の夕張の部屋を見てみよう。

 

「に、25個目の宛名書き終わったわ。他書いてないのどれ~?」

「決済完了メールが12通来たよ・・これで全部決済済みだよ・・」

「じゃ、あの荷物がそっくりそのまま発送残って事ね・・・あはは・・」

「だいぶ減ったよ!右の山は終わってるし!」

「あ、そっか、左の山だけか」

「そうそう。もうあれだけだよ!」

「そう、ね・・・あはは」

「というわけで、もう寝ようよ」

「あ、もう2200時か・・・」

「だよ。明日に障るよ」

「うー、じゃ、手元にある1件だけ書くわ」

「うん!」

一度に落札されるのも善し悪しである。

 

出品から6日目の夕方。

仕事を終えた夕張と島風は、すっかり慣れた足取りで夕張の部屋に入った。

「やー、今朝大量に出荷したから部屋が片付いたね!」

「もう後は宛名書きだけだから、島風も書くの手伝うよ!」

「ありがと!今回の件、ほんとに助かったよ!」

「んふふん。早くやろっ!」

 

それから2時間後。

 

「・・・っと!終わり~!」

「お疲れ~!」

「まだ最終の集配に間に合うよ!持ってっちゃおうよ!」

「そうね!」

 

「あー、仕事終えたって感じするわー」

「冷やし中華が3割増しで美味しいねっ!」

「そうねー」

「でも夕張ちゃん、今回は偉かったね!」

「なにが?」

「前だったら夕張ちゃん、一晩中梱包作業してたんじゃない?」

「う」

「で、4日目くらいにぶっ倒れてそう」

「うぅぅううぅう容易に想像がつくわ」

「でも、今回は毎日2200時には寝てたし!」

「そりゃ、それは、島風ちゃんが2150時に部屋に呼んでくれたからよ・・」

「行こうって言った時、ちゃんと来てくれたじゃん」

「そりゃ、島風ちゃんを困らせたくないもん」

「だから夕張ちゃんは進歩したんだよ!」

「褒められてるのかなあ・・」

「し・・島風は・・ほめ・・た・・つもり・・だよ?」

「?」

夕張はふと、自分に落ちる影に気付いた。両手を腰に当ててる。すっごく見たポーズ。

ぎぎぎぎぎぎと夕張はゆっくり振り返った。

「ひいいっ!まっ!摩耶さん!」

「お前・・・そんな事で褒められる異常性を理解してるか?あ?」

「す、すすすすすすみませんごめんなさい」

「睡眠時間位ちゃんと計画的に取れよ・・自分が疲れてるかどうか位解るだろ?」

「む、夢中になるとつい忘れちゃって・・・」

「まったく。提督もアタシ達も心配してんだから、あんまり何度も倒れるなよ?」

「すいません」

「・・・大事な仲間なんだからよ。じゃあな」

夕張は摩耶から拳骨が落ちてこなかった事にも、最後の台詞にもおやっと思った。

慌てて摩耶を目で追うと、心なしか摩耶の顔が赤くなってるように見えた。

島風がニコニコ笑いながら言った。

「んふふん、摩耶さん、ちゃんと言うようにしたんだね!」

「何を?」

「夕張ちゃんに、大事に思ってるんだよって事!」

「そ・・そうね・・」

「じゃ、御馳走様!」

「ごちそうさまー」

 

「あ」

「どうしたの夕張ちゃん」

「もう、荷物は無いから、また元の部屋で寝られるんだって」

「あ、うん、そうだね」

「・・・」

「どうしたの?」

「この1週間、島風ちゃんと一緒に眠れて本当に楽しかったなあ」

「うん、島風も楽しかったよっ!」

「・・え、ええとね島風ちゃん」

「なーに?」

「し、しばらく通い続けても良いかなあ」

「全然構わないよ!ずっと一緒に寝ようよ!」

「ほんと?」

「うん!」

「・・・じゃあ、そうするね」

「だから掃除手伝ってね!」

「良いわよ!ゴミ出しも手伝ってあげる!」

「んふふん」

「えへへー」

こうして、どちらともなく二人は手をつないで部屋に戻ったのである。

 

 


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