艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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夕張の場合(12)

 

 

工事の翌朝、研究室。

 

「本当に皆様にはご迷惑をおかけしました。ごめんなさい」

夕張が高雄達に頭を下げると、愛宕が

「うふふふ。でもちゃんと伝えあうって大切よねぇ」

と、返した。

「アタシも普段から気は配ってるけどさ、心配してるぜと伝えてなかった、な・・」

摩耶が目線を逸らしながら照れたように言う。

「摩耶さん、いつもありがとうございます」

「お、おお。面と向かって言われると照れるな」

「何でも言い合うのは島風ちゃんくらいですからね」

島風はにひひんと笑いながら口を開いた。

「でも夕張ちゃんがあそこまで金使いの荒い子だとは思わなかったよ」

夕張はジト目でニヤリと笑いながら返した。

「島風ちゃんがすごい汚部屋に住んでるって事が良く解ったわよーだ」

鳥海の眼鏡がきらりと光った。

「お二人とも、それぞれ課題を認識されたようなので、矯正に丁度よさそうですね」

二人の顔色が変わった。

「げっ」

「まずは夕張さん、お金についてのセミナーを受けましょう」

「え、ええとええと、だ、誰にでしょう?」

「龍田さんです」

「きょ、拒否権は・・」

「あると思いますか?」

「無いと思いまっす」

「正解です。では龍田さん、お願いします」

「えっ!?」

ぎょっとして背後を見ると、そこにはニコニコ笑う龍田が立っていた。

「よろしくね~」

良かった。もう少し余計な事を言っていたら命はなかった。

「島風さんはこのまま戦艦寮の榛名さんの部屋を訪ねてください」

「へっ!?」

「片付け方について相談に乗ってくれるそうです」

「・・・部屋、燃やされないかな?」

「それは返事次第ですし・・・」

鳥海がニヤリと笑った。

「逃亡すれば私が責任を持って部屋をきっちり燃やして差し上げます」

島風は涙目で頷くしかなかった。

 

それから1時間後、研究室では。

 

「商いを行う上で最も大事な人は誰でしょ~?」

「物を欲しがってる人ですか?」

「惜しいですね。もう少し限定しましょう」

「え、ええとええと?」

「正解は、無我夢中で後先考えず物を欲しがってる人、です」

「無我夢中?!」

「経験ありませんか?欲しいのになくて、やっと見つけてちょい高いけど買ったという事」

「・・・・ありすぎます」

「じゃあ次、商いで確実に儲けるのはどうすれば良いでしょ~?」

「ええとええと、想定ロス量を計算して売値を決める!」

「ざんねーん。正解は実体を持たずに手数料だけ取る、よ」

「なにそれ詳しく!」

「あのね~」

 

高雄達は仕事をしながらも、龍田の講義に耳が釘付けになっていた。

ネタが濃すぎる。やたらヤバいネタがぞろぞろ出てる。犯罪すれすれだ。

夕張の回答は悪い物ではない。むしろ常識的な模範解答に近い。

何故そこまで解っていながら実際の生活に生かさないのかが不思議だ。

高雄達の心配をよそに、龍田の講義は続いていく。

 

「じゃあ古典的な話題。オークションで実体を持たずに稼ぐ方法は何かしら?」

「商品とか、コストリスクがあるものを持たないでって事ですよね」

「もちろんよ~」

「・・・あ!オークションで稼ぐんじゃなくオークションサイトを運営する!」

「良い視点だけどもうひと捻り欲しいわ。サイトの運営は高価な維持コストがかかるから~」

「と、なると」

「適切なサイトのご紹介をするサイト、というのを考えてみましょうか」

「オークション参加者を集めて、紹介ごとに参加者から紹介料を取るんですね?」

「それじゃすぐに閑古鳥が鳴いちゃうわよ?」

「なんでですか?」

「オークションサイト自身は誰でもアクセスできるのに、お金払うのは馬鹿らしいでしょ?」

「確かに」

「じゃあどうしましょう?」

「ん・・んんんんん・・・・」

「・・降参?」

「教えてください」

「正解は、オークションサイト側に払わせるの」

「ええっ?」

「オークションサイト側に、1人客が行く毎に幾らって」

「ふーむ」

「オークションサイト側は企業だし、ライバルを蹴落としたいわ」

「ふむふむ」

「自薦には限界がある。コストパフォーマンスの良い他薦は喉から手が出る程欲しいの」

「なるほど」

「ベストなのは数十程度の似た規模のサイトがあって、紹介料を上下させられる状態ね」

「もっと払えばもっと褒めてやるって言うんですね?」

「簡単に言えばそうね。これが検索サイトのビジネスモデルよ」

「褒めてるんですか?」

「いいえ。検索結果の上位に出してやるって言うの」

「なるほど!検索結果の1位から見ていきますものね!」

「そういう事。褒め方を考える必要が無いという事もアイデアね」

「ふうむ、じゃあ荒稼ぎ出来るのは検索サイトが最強って事なんですか?」

「いいえ。検索サイトも検索性能維持に対する莫大なシステムコストがかかる」

「そっか」

「コスト増の1つの理由は対象範囲が広い事。だから1カテゴリで強くなるやり方もある」

「この分野は任せろって事ですね」

「そうよ。信用のおけるサイトが無料で開放されてたら当該分野の人は自然と集まるわ」

「その集まった人を紹介して欲しければ金を出せ、か。うおーそう言う事かー」

「飲み込みが早いわね夕張さん」

「面白いです!」

「でも、最初に言った通りこれは古典よ。今オークションサイトは事実上2強だから」

「強いサイトしか残ってなくて、数が少なくて皆知ってるから間に入れないって事ですね」

「その通り。正解よ夕張さん」

「ひゃっほーい!」

 

鳥海は苦笑しながら頬をポリポリと掻いた。ちょっと予定と違う方向に行ってる気がする。

夕張にお金の大切さと倹約を学んでほしいんだけど・・・商売でも始めそうな勢いよね。

 

「今日の予定はこんな所だけど、興味があるなら休日特別講座に来れば良いわ~」

「そんな事やってるんですか?」

「やってるわよ~、スケジュール表あげるわね~」

「わあ、日曜の1900時開始なんですね~」

「集まりが良いのよ~」

「あ!これ面白そう!ここ開いてますか?」

「ええと・・ええ、大丈夫よ。予約入れる?」

「はい!お願いします!」

「鳥海さん、こんな所だけど良かったかしら?」

「ありがとうございました。セミナー代は口座振替で良いんですよね?」

「ええ。月末までによろしくね~」

龍田が帰った後、鳥海は夕張に尋ねた。

「ええと、お金の大切さは解ってくれたかしら?」

「視点を変えればがっぽり稼げそうな気がしてきました!」

鳥海はがくりと下を向いた。だめだこりゃ。

セミナー名が「マネーの考え方とビジネスモデル創出の基礎」だったし・・間違えたかしら?

「が、がっぽり稼ぐのも良いけど、どっさり支出したら無意味なのよ?」

夕張はキリッと鳥海の方を向くと、

「その通りですね!ナマゾンだけじゃなくオークションや商店サイトも回って選ばないと!」

「あ、あの」

「使うクレジットカードもポイントや特典に注意して、最も効率の良い物を!」

「い、いえ、そういう方向じゃなくてね」

やりとりを聞いていた摩耶は夕張の背後に立つと黙って拳骨を落とした。

「痛った!な、何するんですか摩耶さん!」

「そうじゃねぇ!欲しいと思っても収支考えて節約しろってんだよ!」

「だから毎月残高0になるようにしてますよ?」

「貯めろって言ってんだよ!」

「えー」

「・・・月10万差っ引くぞ?」

「お金を大事にし、貯金出来るよう気を付けます!」

「よし」

鳥海は溜息を吐いた。摩耶に頼めば1分で済んだわね。

 




龍田の講義内容は(というか小説全体が)フィクションです。
ほんとにこれを真似て始めて損しても那珂ちゃんのファンを止めないでください。

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