艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

262 / 526
夕張の場合(10)

 

工事の当日朝。夕張が走った運動場の中。

 

摩耶から、明日から毎日夕張のランニングに付き合えと言われた島風は目を見開いた。

「ええええええーっ!しっ、島風寝坊してないよ!?」

「おう。島風は寝坊してないし、足も速い!」

「うん!」

「だが、今まで部屋に何度榛名と鳥海が踏み込んだよ?」

途端に島風の顔色が変わった。

「あ、あは、あはははははは」

夕張が恐る恐る尋ねた。

「ふ、踏み込まれたって、何?」

「酷いんだよ!島風がゴミの中に住んでるって言ってね!」

「・・・あー」

「鳥海さんと榛名さんが火炎放射器持って押しかけて来るんだよ!」

「・・・・で?」

「片付けるか全部焼き払うか選べって言われるの!」

「全部焼いてもらうの?」

「片付けるに決まってるじゃない!泣きながら頑張るよ!」

「そうなる前に片付ければ良いじゃない」

「だっ・・・だって・・・後で使うかもしれないし」

「お菓子の包み紙とか使う訳無いでしょ!」

「綺麗だから捨てられなかったんだもん!」

摩耶が手をひらひらさせた。

「あー、まぁそういう訳でだ島風、夕張の矯正手伝え」

「つながってないよ!どういうことなの!」

「罰当番だっての!」

「うえー、疲れてますます片づけられないよ~」

「それは言い訳だ」

夕張も頷いた。

「そうね」

「ちょっ!夕張ちゃんまで頷かないで!」

「なぁ夕張、お前からも島風が片付けるように指導してやってくれよ」

「・・・しょうがないわねえ。じゃあほんとに週1回片付けに行こうか?」

「・・えぇぇえっ!?そ、そりゃ、片付くだろうけど・・・」

「んで、島風が夕張を毎朝起こしてランニングすると」

二人は声を揃えた。

「ま、摩耶さんは来なくなるんでしょうか?」

摩耶は腕を組んでふっと息を吐いた後、カッと目を見開き、

「結託してサボらないよう運動場で毎朝見張るっ!」

「やっぱし」

「信用されてないよね」

「二人だけにした途端どうなるかはこの前の徹夜トークで証明されたからな」

「うぅうぅうぅうう」

「解ったか二人ともっ!」

「うえーい」

「はーい」

こうして、島風は毎朝夕張を起こし、夕張は日曜に島風の部屋を掃除するようになった。

 

それから5時間後。

 

「いやー、事前準備がバッチリ決まったわね!」

「さすが夕張じゃのう。8時間の予定が4時間で終わるとは」

「工廠長さんの手配が凄いんですよ~」

「いやいや、夕張のおかげじゃよ」

搬入したガスタービンエンジン式発電機とターボディーゼル式非常発電機。

周囲には分電盤や制御盤などが整然と並んでいる。

「よし、では早速ガスタービンシステムの起動じゃな!夕張、押しなさい!」

「えっ!良いんですか!」

「無論じゃ!」

「じゃ、じゃあ・・・」

 

ポチッ。

 

ウイイィィイイイイイン・・・キューン

 

「良い音・・ガスタービンが立ち上がる時の音ってワクワクするわよね!」

「じゃのう」

しかし、回転が安定した後、程なく。

 

ビビーッ!ビビーッ!ビビーッ!

 

「何?何の警告?」

「んー、んんっ?!か、過負荷警報じゃ!発電機を落とせ!」

「はい!」

 

ビビーッ!ビビーッ!ビーッ・・・

 

キュウウゥウウゥウウゥウウウン・・・・

 

「おかしいわね。なんで過負荷になるのかしら?」

「最大発電量の1.3倍を超える負荷がかからない限り鳴らない筈じゃがな」

「昨日の非常系統接続は外したわよね」

「配電盤につなぎ直したからのう」

「とすると・・事前に調査した以上の電力需要があるって事?」

「そうじゃな。アラートが出た場所を詳細に調べるか」

「ええ」

 

「ふうむ。工廠、食堂、集会場、通信棟、売店、鳳翔の店は問題なしじゃ」

「仮想演習場、教室棟、迎賓棟、提督棟、事務棟も異常なしよ」

「となると・・・」

「残るは、寮ね」

工廠長がジト目で夕張を見た。

「お前さん、部屋で変な物つなぎっぱなしにしとらんか?」

「変な物ってなんですか!それに今日は何もつないでないですよ!」

「ふむ。ま、一棟ずつ調べていこうか」

 

「・・・・見つけました」

「うむ、調査時の183倍じゃ過負荷も良い所じゃな」

「重巡寮・・って事は・・・」

「一人しか思い当たらんのう」

 

「へっ?なんの事だい?」

突然、工廠長と夕張の訪問を受けた最上は目を白黒させた。

「今は工事時間中だから電気は使えないでしょ?使ってる訳が無いよ」

「発電機を起動させたらの、ここの負荷が高すぎて止まってしまうんじゃよ」

「この寮でって事かい?」

「そう。だからなんかバカデッカイ機器を接続してないかなって」

「うーん・・・思い当たる物が無いけど、僕の部屋なら調べてくれて良いよ」

「じゃ、お邪魔するわね!」

「・・あっれぇ・・無いわねぇ・・」

「こっちも無いのう。せいぜいドライヤーとか扇風機位じゃ」

「僕は自室では設計しかしないからね。三隈が嫌がるから」

「えー、でも、確かに重巡寮で調査時の183倍の量が・・・」

「寮のどこで流れてるか解るかい?」

「ええとね・・・C16かC17系統よ」

「ブレーカーボックスに部屋番号があるよ」

「あ、じゃあ解るわね。開けてみましょう」

「・・・206,207ね」

最上は首を傾げた。

「あれ?どっちも空き部屋の筈だけど?」

夕張達は顔を見合わせた。ネズミが齧って配線をショートさせたのか?

「行ってみましょう」

「僕も立ち会うよ。マスターキー借りてくる」

 

ガチャ。

「あ」

「ネズミ・・発見、ね」

「桃色頭の鼠だのう」

空き部屋の筈の206の中に居てこっちを見ながら硬直したのは、青葉であった。

「あ・・あれ?皆さん何してるんですか?」

「それはこっちの台詞だよ青葉。それで、この部屋で一体何をしていたんだい?」

「ソロル新報の印刷と、情報収集です」

「印刷はまだ解るけど、情報収集ってなんだい?」

「・・・黙秘します」

「あのな、別に没収したりせんし、このままだと発電機が回せんのじゃよ」

「へ?何でですか?」

「調査時の183倍の電気を、この部屋に繋げてる機械が消費して過負荷になっちゃうの」

「・・・」

「発電容量を今更変更出来んから、何とか範囲内に納めんといかん」

「・・・」

「その為には何の機械か解らんと問題の解決も、お前さんへの手の貸しようもないんじゃよ」

「・・・絶対、提督に内緒ですよ」

「う?うむ」

「最上さんも夕張さんも、秘密ですよ?」

「え、ええ」

「構わないけど?」

「元はと言えば・・・コンクリマイクなんです」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。