艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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夕張の場合(9)

 

停電中の夕方。夕張の部屋。

 

「ひぃぃぃ・・・重かったよぅ」

「つ、通販だからこそ買えるわよね。店頭で買って帰ってくるのは死ねるわ」

「55冊にしても重すぎない?妙にぺこぽこしてるし」

「特典があるのよ!」

「特典?」

島風の疑問を横耳で聞きながら、夕張は包みを解いていく。

「ふんふんふーん・・・じゃーん!」

「おおっ!」

メインキャスト15体の特大フィギュアぁ!このセットでしか手に入らないんだよ!

「・・・マンガ本、1/4も無いじゃん」

「でもメインはマンガです!」

「フィギュア目当てで買う人がいっぱい居る気がする」

「それもそれで愛だから」

「ええと、フィギュアは箱から出さないんだよね?」

「YES。すぐ仕舞います」

「こんなに大量に仕舞える所あるの?」

「・・・・あっ」

「あっ、じゃなくてさ・・・」

「そうだった。そろそろ一大処分しないとダメだって思ってたんだっけ・・・」

島風はそっと押し入れの襖をあけて、そっと閉じた。

「雪崩寸前だね」

「仕方ない、準備だけしときますか」

「準備?」

「島風ちゃんも手伝ってくれない?」

「良いよっ」

 

「ええと、次はB-4だよー」

「OKOK。撮影台に乗せて~」

パシャッ!パシャッ!パシャッ!

「・・・夕張ちゃんて、停電でも電気に囲まれてるよね」

「まぁミラーレス一眼はバッテリ駆動だしね」

「・・それにしてもよくこんなミニスタジオセットなんて持ってるよね」

「ウーベイやフフオクに出品するなら必須でしょ?」

「・・・やたら写真の出来が良いよね」

「まぁ何度もやってるしね」

「ていうか出品物もやたら綺麗だよね?」

「箱から出した事無いもの」

「・・あのさ」

「はい?」

「何で買うの?」

「一目見たいから!それに可愛いじゃない!」

「出して遊ぼうよ!せめてちゃんと飾ろうよ!」

「今は箱に入った状態でも綺麗だし、ポーズも決まってるから動かす必要ないし」

「透明プラ越しで良いの?」

「うん・・そこに拘りはないわね」

「そっか・・・で、結局売っちゃうんだ」

「今回のコミックのように、特典で手に入れちゃったってのも多いからね」

「こんなの売れるの?」

「まぁまぁ。じゃ次」

「はぁい、B-5だよー」

 

「・・・つ、次、F-3。やっと終わりだね」

「ん?あぁ、撮影はね」

「へ?」

「この後梱包してナンバリングだよ」

「・・・・夕張ちゃんて、我慢強いよね」

「実験は我慢の塊だからね!」

「とりあえずお風呂とご飯行こうよ。もう1800時だよ」

「そうね・・よし、A-12梱包終わり・・メモも貼った。よし!行きましょう!」

「おうっ!」

 

食堂でご飯を食べ終えると、夕張はうーんと伸びをした。

「丸1日PCもTVもスマホも見ないって何ヶ月・・いや、何年ぶりかしらね!」

「・・・うん、夕張ちゃんならそんなもんなんだろうね」

「島風ちゃんなら?」

「先週の日曜はそうだったよ?」

「・・・何してるの?」

「長編の小説読んで途中からお昼寝してたよ」

「なるほどね」

「んで、夕張ちゃんの体調はどうなの?もう大丈夫?」

「ええ、バッチリよ!明日は張り切って工事を仕切るわよ!」

「・・良かった」

「心配かけさせちゃったもんね。ごめんね」

「ううん、大丈夫。夕張ちゃんが元気になれば」

「食べ終えた?」

「うん。ところでまだ続きやるの?」

「一応、2100時までって思ってるけど」

「おっ、一応普段より2時間も早く寝るつもりなんだね」

「さすがに明日も寝不足って言ったら摩耶さんに殺されるからね」

「だよねー」

「というわけで、出来たら2100時まで手伝ってくれないかなあ」

「良いよ」

 

島風はくるくる目を回し、ぜいぜいと息を切らせながら夕張に毒付いた。

「・・・た、確かに今2025時だけどさ」

「ええ」

「さ、最後の1時間の梱包ペースって、ほとんど本職の人じゃん・・・」

「本職の人ならもっと早いわよきっと」

「そっかなあ・・・手元見えなかったよ」

「あ」

「ん?どうしたの夕張ちゃん」

「寝るとこ、無い」

「え?」

島風がふとベッドの上を見ると、梱包された荷物がうず高く積まれていた。

布団は荷物の下敷きである。部屋の床も押し入れも梱包済荷物で占拠されている。

「予備の布団使えば?」

「どこに敷くのよ」

「うちの部屋」

「えっ?島風ちゃんの部屋に行っていいの?」

「だって、これじゃ座って寝るしかないじゃん」

「そうだけど」

「荷物が片付いて横に寝れるようになるまでの間だからね!」

「うんうん!」

 

島風の部屋の引き戸を開けた時、夕張は凍りついた。

島風はガリガリと頭を掻いた。

「あー、ちょっとどかすね」

「し、島風ちゃん・・・床が凄い事になってるんだけど?」

「凄いというか、片付けてないだけだよ?」

「片付けようよ!ゴミか要る物か解んないよ!」

「えー今からー?」

「だって!布団敷けないし!」

「良いじゃん・・ほら、この辺りに納めれば」

「嫌!ゴミ袋持って来る!」

ドタドタと廊下を取って返す夕張を見て、島風は溜息を吐いた。

夕張ちゃんは綺麗好きなんだか散らかし屋か解んないねぇ・・・

 

「ふう!これで良いわね!」

「凄いよ夕張ちゃん!まさか雑巾で拭き掃除までするとは思わなかったよ!」

「・・島風ちゃん、最後にいつ掃除した?」

「んー・・・・・」

「・・・」

「引っ越した日!」

「1ヶ月以上前じゃない!雑巾もバケツも真っ黒じゃない!」

「あー」

「んもー、せめて週1回は掃除しようよぅ」

「じゃあ週1回夕張ちゃんが泊まりに来ればいいんだよ」

「なんでよ」

「その時一緒に掃除してから寝ようよ」

「あのねぇ・・・ああっ!2200時回ってる!」

「わわっ!早く寝ないと!」

「とりあえず雑巾とバケツ片付けて来るね!」

「じゃあ島風は寝るね!」

「よろしくねっ・・・っておい!」

「バレた」

「ゴミの袋ポイしてきて!」

「はーい」

こうしてドタバタの挙句、島風の部屋で夕張と島風は眠りについたのである。

2230時の事だった。

 

「・・・槍が降るか?」

「起きて待ってたら最初の一言がそれですか!?」

「そこまで呆然としなくて良いじゃん!」

両手をだらりと下げてぽかんと口を開けた摩耶を前に、島風と夕張は口を尖らせた。

二人とも、1日に2回も長時間寝た為、今朝は0430時に目が覚めた。

摩耶は夕張の部屋に起こしに来るので、急いで支度し、夕張の部屋の前で待っていたのである。

「・・よ、よし、じゃあランニングするぜっ!今日は久しぶりに10周だっ!」

「し、島風も?」

「おうよ!」

「・・・とんだ巻き添えだよー」

「はっ、はっ、よっ、世の中っ、諦めはっ、必要だよねっ」

「ていうか夕張ちゃん、おっそーい!」

「な、なんで、そんなに余裕なのよっ!」

「島風、ちゃんと基礎体力訓練はしてるもんね~」

「ぐうううう」

「あとは元々の違いだと思うよ?島風は高速の駆逐艦だもん」

「ど、どうせ・・実験用の、軽巡ですよーだ!」

「だから高速は出せないけど、我慢強いんでしょ?」

「兵装もっ!一杯!積めるわよっ!」

「それで良いんだよ、出来る事が違うってだけなんだから!」

「・・・そっか」

「ペース合せてあげるから、10周しよっ!」

「・・・うん!」

二人が会話しながらも周を進めていくのを見て、摩耶はにっと笑った。

島風をペーストレーナーにするのは良いアイデアかもしれないな。

島風はぞくっと寒気がした。嫌な予感がする。

 

 

 


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