停電中の夕方。夕張の部屋。
「ひぃぃぃ・・・重かったよぅ」
「つ、通販だからこそ買えるわよね。店頭で買って帰ってくるのは死ねるわ」
「55冊にしても重すぎない?妙にぺこぽこしてるし」
「特典があるのよ!」
「特典?」
島風の疑問を横耳で聞きながら、夕張は包みを解いていく。
「ふんふんふーん・・・じゃーん!」
「おおっ!」
メインキャスト15体の特大フィギュアぁ!このセットでしか手に入らないんだよ!
「・・・マンガ本、1/4も無いじゃん」
「でもメインはマンガです!」
「フィギュア目当てで買う人がいっぱい居る気がする」
「それもそれで愛だから」
「ええと、フィギュアは箱から出さないんだよね?」
「YES。すぐ仕舞います」
「こんなに大量に仕舞える所あるの?」
「・・・・あっ」
「あっ、じゃなくてさ・・・」
「そうだった。そろそろ一大処分しないとダメだって思ってたんだっけ・・・」
島風はそっと押し入れの襖をあけて、そっと閉じた。
「雪崩寸前だね」
「仕方ない、準備だけしときますか」
「準備?」
「島風ちゃんも手伝ってくれない?」
「良いよっ」
「ええと、次はB-4だよー」
「OKOK。撮影台に乗せて~」
パシャッ!パシャッ!パシャッ!
「・・・夕張ちゃんて、停電でも電気に囲まれてるよね」
「まぁミラーレス一眼はバッテリ駆動だしね」
「・・それにしてもよくこんなミニスタジオセットなんて持ってるよね」
「ウーベイやフフオクに出品するなら必須でしょ?」
「・・・やたら写真の出来が良いよね」
「まぁ何度もやってるしね」
「ていうか出品物もやたら綺麗だよね?」
「箱から出した事無いもの」
「・・あのさ」
「はい?」
「何で買うの?」
「一目見たいから!それに可愛いじゃない!」
「出して遊ぼうよ!せめてちゃんと飾ろうよ!」
「今は箱に入った状態でも綺麗だし、ポーズも決まってるから動かす必要ないし」
「透明プラ越しで良いの?」
「うん・・そこに拘りはないわね」
「そっか・・・で、結局売っちゃうんだ」
「今回のコミックのように、特典で手に入れちゃったってのも多いからね」
「こんなの売れるの?」
「まぁまぁ。じゃ次」
「はぁい、B-5だよー」
「・・・つ、次、F-3。やっと終わりだね」
「ん?あぁ、撮影はね」
「へ?」
「この後梱包してナンバリングだよ」
「・・・・夕張ちゃんて、我慢強いよね」
「実験は我慢の塊だからね!」
「とりあえずお風呂とご飯行こうよ。もう1800時だよ」
「そうね・・よし、A-12梱包終わり・・メモも貼った。よし!行きましょう!」
「おうっ!」
食堂でご飯を食べ終えると、夕張はうーんと伸びをした。
「丸1日PCもTVもスマホも見ないって何ヶ月・・いや、何年ぶりかしらね!」
「・・・うん、夕張ちゃんならそんなもんなんだろうね」
「島風ちゃんなら?」
「先週の日曜はそうだったよ?」
「・・・何してるの?」
「長編の小説読んで途中からお昼寝してたよ」
「なるほどね」
「んで、夕張ちゃんの体調はどうなの?もう大丈夫?」
「ええ、バッチリよ!明日は張り切って工事を仕切るわよ!」
「・・良かった」
「心配かけさせちゃったもんね。ごめんね」
「ううん、大丈夫。夕張ちゃんが元気になれば」
「食べ終えた?」
「うん。ところでまだ続きやるの?」
「一応、2100時までって思ってるけど」
「おっ、一応普段より2時間も早く寝るつもりなんだね」
「さすがに明日も寝不足って言ったら摩耶さんに殺されるからね」
「だよねー」
「というわけで、出来たら2100時まで手伝ってくれないかなあ」
「良いよ」
島風はくるくる目を回し、ぜいぜいと息を切らせながら夕張に毒付いた。
「・・・た、確かに今2025時だけどさ」
「ええ」
「さ、最後の1時間の梱包ペースって、ほとんど本職の人じゃん・・・」
「本職の人ならもっと早いわよきっと」
「そっかなあ・・・手元見えなかったよ」
「あ」
「ん?どうしたの夕張ちゃん」
「寝るとこ、無い」
「え?」
島風がふとベッドの上を見ると、梱包された荷物がうず高く積まれていた。
布団は荷物の下敷きである。部屋の床も押し入れも梱包済荷物で占拠されている。
「予備の布団使えば?」
「どこに敷くのよ」
「うちの部屋」
「えっ?島風ちゃんの部屋に行っていいの?」
「だって、これじゃ座って寝るしかないじゃん」
「そうだけど」
「荷物が片付いて横に寝れるようになるまでの間だからね!」
「うんうん!」
島風の部屋の引き戸を開けた時、夕張は凍りついた。
島風はガリガリと頭を掻いた。
「あー、ちょっとどかすね」
「し、島風ちゃん・・・床が凄い事になってるんだけど?」
「凄いというか、片付けてないだけだよ?」
「片付けようよ!ゴミか要る物か解んないよ!」
「えー今からー?」
「だって!布団敷けないし!」
「良いじゃん・・ほら、この辺りに納めれば」
「嫌!ゴミ袋持って来る!」
ドタドタと廊下を取って返す夕張を見て、島風は溜息を吐いた。
夕張ちゃんは綺麗好きなんだか散らかし屋か解んないねぇ・・・
「ふう!これで良いわね!」
「凄いよ夕張ちゃん!まさか雑巾で拭き掃除までするとは思わなかったよ!」
「・・島風ちゃん、最後にいつ掃除した?」
「んー・・・・・」
「・・・」
「引っ越した日!」
「1ヶ月以上前じゃない!雑巾もバケツも真っ黒じゃない!」
「あー」
「んもー、せめて週1回は掃除しようよぅ」
「じゃあ週1回夕張ちゃんが泊まりに来ればいいんだよ」
「なんでよ」
「その時一緒に掃除してから寝ようよ」
「あのねぇ・・・ああっ!2200時回ってる!」
「わわっ!早く寝ないと!」
「とりあえず雑巾とバケツ片付けて来るね!」
「じゃあ島風は寝るね!」
「よろしくねっ・・・っておい!」
「バレた」
「ゴミの袋ポイしてきて!」
「はーい」
こうしてドタバタの挙句、島風の部屋で夕張と島風は眠りについたのである。
2230時の事だった。
「・・・槍が降るか?」
「起きて待ってたら最初の一言がそれですか!?」
「そこまで呆然としなくて良いじゃん!」
両手をだらりと下げてぽかんと口を開けた摩耶を前に、島風と夕張は口を尖らせた。
二人とも、1日に2回も長時間寝た為、今朝は0430時に目が覚めた。
摩耶は夕張の部屋に起こしに来るので、急いで支度し、夕張の部屋の前で待っていたのである。
「・・よ、よし、じゃあランニングするぜっ!今日は久しぶりに10周だっ!」
「し、島風も?」
「おうよ!」
「・・・とんだ巻き添えだよー」
「はっ、はっ、よっ、世の中っ、諦めはっ、必要だよねっ」
「ていうか夕張ちゃん、おっそーい!」
「な、なんで、そんなに余裕なのよっ!」
「島風、ちゃんと基礎体力訓練はしてるもんね~」
「ぐうううう」
「あとは元々の違いだと思うよ?島風は高速の駆逐艦だもん」
「ど、どうせ・・実験用の、軽巡ですよーだ!」
「だから高速は出せないけど、我慢強いんでしょ?」
「兵装もっ!一杯!積めるわよっ!」
「それで良いんだよ、出来る事が違うってだけなんだから!」
「・・・そっか」
「ペース合せてあげるから、10周しよっ!」
「・・・うん!」
二人が会話しながらも周を進めていくのを見て、摩耶はにっと笑った。
島風をペーストレーナーにするのは良いアイデアかもしれないな。
島風はぞくっと寒気がした。嫌な予感がする。