艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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夕張の場合(8)

 

停電中の午後。間宮の甘味処。

 

 

「間宮さ・・・うわっ!凄い!満員?」

「いらっしゃいませ。停電のせいで混んじゃってるわね。ごめんなさい」

「あ、二人なんですけど・・・」

「ええと・・・奥のテーブル席で良いかしら?」

「大丈夫だよ!」

 

「えっと、アイス1つください」

「はいは・・え?1つ?」

「はい」

「・・・夕張さん、お金無いんですか?」

「どうして真っ直ぐ私に確定するんですか・・・その通りですけど」

「1コインも無いオケラ状態だもんねー」

「だって、島風さんは良く来るし、ちゃんとしてるし・・」

「ちゃんとしてなくてすみませんです~」

「ホントに・・でも島風さん、食べにくいんじゃない?」

「一口あげる事にしたんです!」

「・・・なんか昔、そんな小説があったわね。一杯のなんとやらって」

溜息を吐きながら間宮は厨房に戻って行った。

 

しばらくして。

 

「はいどうぞ。アイスですよ」

「わぁい、ありがとうございます!」

「それと、これを夕張さんに」

「え?え?頂いちゃって良いんですか?わ!クッキー!」

「お手紙入りクッキーですよ」

「お手紙入り?」

「はい」

「間宮さんからですか?」

「うふふふふ」

意味ありげに笑いながら立ち去って行く間宮を見送り、夕張はじっと皿を見つめた。

「・・・島風ちゃん、1つ食べてみない?」

「毒見役させないでよ!」

「いや、毒は入ってないと思うけど」

「観念して食べなよ。いっただっきまーす!」

美味しそうにアイスを頬張る島風を眺めながら、夕張は覚悟を決めた。

そして恐る恐る1枚つまむと、カリッと半分齧った。

あ、クッキー焼き立てだ。美味しい。もう半分も食べちゃお。

コリコリと噛み進めると、違う食感の塊が見つかる。

「・・ん」

そして口の中から細長い紙をするすると出した夕張は、もぐもぐしながらそっと紙を開いた。

 

 「お小遣いはどこへやった? 提督」

 

夕張は口の中のクッキーを盛大に吹き飛ばした。

「げっ!?てっ・・・・げほげほごほっ!」

「夕張ちゃん汚いなあもう。一体何・・あ」

「もうバレてる!ばらされてますよ!」

「まぁ・・気付いてから1時間も経たないうちにナマゾンに捧げたよね」

「コミック買っただけじゃない!邪教のお布施みたいに言わないでよ!」

「だって2万貰って速攻で2万の物買うってさぁ・・」

「いーじゃない!」

「だから貯められないんだよ・・・」

「んもーう」

むくれたまま夕張は次の1枚を口にし、紙を口から取り出した。

「ん・・」

 

 「来月から6万貯金な 摩耶」

 

「ひでぶっ!」

「あー」

「ひどっ!給料カットされるのに預金額上げられたよ!値下げ交渉しようと思ってたのに!」

「どうせ持ってたら一瞬で消えるし、良いんじゃない?」

「楽しみが、楽しみが消えるわ~」

がっくりした夕張は次の1枚を口にし、紙を口から取り出した。

「ん・・」

 

 「アルバイト大募集中です。借金する前に来てくださいね 文月」

 

「神様仏様文月様!」

「文月さんにまで心配させてるんだね・・・アルバイトって?」

「夜中に兵装開発するの。良い装備が出て来たら他の鎮守府に売るんだよ!」

「夕張ちゃんが行商に行くの?」

「ううん、事務方さんがやってくれるの。で、作者には報酬をくれるのよ!」

「へぇー」

「最低でもレア以上だからかなり失敗するけどね」

「島風もやってみようかなあ」

「結構難しいのよ。でも今度一緒行こうね!」

「うん!あ、最後の1枚だね」

「ああん、クッキー美味しいからもっと食べたいよぅ!」

「おやつはなくても生きていけるってさっき言ってたじゃん」

「あったら人生が潤うって実感したわ!」

「じゃ、おやつ予算残せば良いじゃん」

「うっ・・ブ、ブルーレイにすべきかクッキーにすべきか、それが問題だわ」

「随分安いハムレットだね。あ、そうだ。夕張ちゃん」

「なーに?」

「あーん」

「・・あーん」

・・・・パクッ。

「ふおおおおおおおおおお!アイス美味しい!超美味しい!」

「でっしょ」

「う、うおおお・・・うめぇ・・・一瞬意識飛んだ」

「そこまで感激しなくても。でも美味しいよね、間宮アイス」

「くりぃみぃで良い香りぃ」

「夕張ちゃんが溶けかかってるよ・・はむはむ」

「島風ちゃん!」

「ん?なに?」

「もう一口与えろください」

「だぁめ」

「ええとええとええと・・・あ」

「なに?」

「D型タービンオーバーホールキット、手に入ったんだよ」

「・・・えええええっ!?早く言ってよそれ!でもどこで手に入ったの!」

「ふっふっふーん」

「うぅうぅ・・・ゆ、夕張さん」

「なーにかなー?」

「オ、オーバーホールキット、譲ってください」

「良いよ。使う為に買ったんだもん」

「ほんと!?」

「その代わり、2口」

「うぐっ」

「2口」

「う、う、ううううう・・・良いよ」

「やった!とりあえず買っとくもんだ!」

「とりあえず買うから素寒貧になるんだと思うんだけどな・・・はい、あーん」

「あーん」

「んじゃ、さくらんぼもあげるよ・・あーん」

「わーい!あーん!」

「美味しい?」

「超美味しい!」

「じゃあ来月は1つずつアイス食べられるようにお金残しておいてね!」

「ええ、解ったわ!」

「あ、まだ1つ残ってるんでしょ、食べちゃいなよ」

「そうね!はむっ・・・んー」

 

 「あまり島風さんに心配かけてはダメですよ 間宮」

 

「・・・・」

「ねぇねぇ、何て書いてあったの?」

「・・・ほら」

「あ・・・」

「・・いつもありがとね、島風ちゃん。電気戻ったらすぐタービン補修してあげるからね」

「う、うん。ありがと、夕張ちゃん」

「で、島風ちゃん」

「なあに?」

「アイスもう食べないなら貰うよ?」

「おっ!お話してただけだもん!」

「あ!一気に行った!」

「むふふん」

間宮は厨房の陰でくすっと笑うと、そっと奥に引っ込んだ。

充分、休養は取れたようですね。

 

「ごっちそうさまでした~♪」

「ありがとうございます間宮さん、お手紙、大事にします」

「うふふふ、皆から大切にされてて良かったですね~」

「は、はい。良く解りました」

笑顔で送り出してくれた間宮に手を振ると、夕張のインカムに呼び出しがかかった。

「夕張さん夕張さん、ナマゾン超特急さんからお荷物が届いてます」

 

荷物の包みを見て夕張はうんうんと頷き、島風は目を見開いた。

「でかっ!冷蔵庫!?」

「ねっ!お得でしょ!」

「こっ・・これがマンガ55冊なの?」

「まぁまぁ、ここで開ける訳にもいかないし、部屋に運びましょ!」

 

 


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