艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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夕張の場合(5)

 

鎮守府の説明会から二週間後の深夜。夕張の自室。

 

「うぅぅうぅう、島風ちゃんが怖いよぅ」

「泣き真似で島風を落とせると思ったら大間違いだよっ!」

「・・ちっ、手の内がバレてるわね」

「へっへーん!どんだけ付き合ってると思ってんのよっ!」

「・・・だよね、島風ちゃん、ありがとね」

「・・・へっ?」

急に微笑んで真っ直ぐ自分の方を向いた夕張に、島風は眉をひそめた。

熱でも上がったの夕張ちゃん?

「私、ずっと打ち解けられないというか、一人ぼっちだなって思う事が多かった」

「・・・」

「きょ、今日の話を思うと、単に自分の思い込みって気もするんだけどさ」

「うん」

「でも、でもね、姉妹とか戦友とか、そういう繋がりでしか解らない事ってあるでしょ」

「多分、ね」

「私はそういう意味で、どっちも今まで無かったの」

「・・・」

「こんなに頑張って試験したんだよ、実験したんだよって言っても、解んないじゃん」

「・・まぁね」

「そんな時に島風ちゃんは来てくれたじゃん」

「ちゃ、着任時期があの時だったってだけだよっ!」

「でも、島風ちゃんは私と同じっていうか、一人の気持ちを解ってくれるじゃん」

「解るっていうか、島風もそうだったから。タービン1つ取っても皆と違うし」

「だからさ、島風ちゃんには色々本音を素直に言えた」

「・・うん」

「だから私の事、ちゃんと解ってくれてるって思えるし、それが嬉しい」

「・・・」

「私と付き合ってくれて、ありがとね。島風ちゃん」

「・・・わ、私も、一番の親友だから」

「ほんと?」

「ほんと」

「・・えへへへへ~」

「にっ!ニヤニヤしないでよっ!」

「島風ちゃんは可愛いなあ」

「あーうー!弄るなあああああ!」

島風が照れ隠しに、ぬいぐるみをポイと投げた。それは夕張の顔に当たったが、

「痛くないよー・・・あ」

夕張が凍りついた。

「どうしたの?・・・おぉっ!」

夕張が避けた弾みに、持っていたスマホをポチリと押してしまったのだ。

55冊組の漫画の注文確定ボタンを。

 

「はっ!早く注文キャンセルしなさいって!」

「島風ちゃんが飛ばしたぬいぐるみのせいじゃない!きっとこれは運命よ!」

「私別に読みたくないもん!それより鳳翔さんのランチコース行きたい!」

「ランチは1回だけど漫画は一生読めるよ!」

「漫画で美味しい思いは出来ないもん!」

ポーン。

その時、スマホが鳴った。夕張が確認するとメールが到着したという通知で、

「発送完了のお知らせ」

というタイトルだった。

 

「うううぅぅぅうぅう、ナマゾン早すぎるよぅ。普段遅いくせにぃ」

背を向けて体育座りをする島風に、夕張は何て声を掛けたら良いか悩んだ。

注文が確定した以上、提督に貰った小遣いは全額漫画に支払う事になる。

つまり冗談ではなく、

「到着まで楽しみに正座して待つ」

以外の選択肢はなくなったのである。

(自分の給料から出すですって?とっくにカードの引き落としで残高0よ!)

「あ、あのさ、島風ちゃん・・・ごめんね」

「うぅぅぅううぅぅぅう」

「き、きっと気に入ってもらえると思うんだ・・全額突っ込んじゃったのは悪かったけど」

「・・・・」

「ア、アニメで見てすっごい面白いなあって思ったんだ」

「・・・」

「同じようなアニメ、島風ちゃんも喜んでくれたし、多分・・・」

「・・良いよ」

「えっ?」

「今日と明日のお休みは夕張ちゃんの休息がメインだもん」

「・・・」

「変に電気街とかうろついたりしてたら意味ないもんね」

「・・・・あ、あああああああ」

「へ?」

「しまったああああ!電気街行くって手をすっかり忘れてたわ!」

「・・・」

「2万も予算あったらあれも、ああ、あれもこれも買える!」

「・・話聞けー」

「い、今からキャンセル出来ないかしら・・ええとキャンセルキャンセル・・不可だ」

「・・ぷふっ!」

「なによー」

「あははははっ!良かったね夕張ちゃん!ぐっすり眠れるよっ!」

「うー」

「せっ、正座して待つんでしょ!」

「むー」

「良いじゃん55巻セット!二人で喋って待ってようよ!」

「しくじったと解った途端ガッカリ感が半端ないわね・・」

「んふふん、ぽちったのもキャンセルしなかったのも夕張ちゃんだからねっ!」

「わ、解ってるわよぅ」

「じゃ、届くまで長い事かかるだろうから、お話してようね!」

「解ったわよぅ。それで、何話す?」

「今日はもう終わり。続きは明日だよっ!」

「なんでよ!私起きたばっかりだよ!」

「だってもう2300時だよ?」

「なんとっ!」

「明日だってランニングあるんでしょ?」

「え、あるの?」

「摩耶さん、別に休みにするとか言ってなかったよ?」

「あ、あわわわわわわ。早く寝ないと起きられないよ」

「じゃ、一緒に寝ようよ」

「・・・そうね、それ楽しいかも!」

「うん!じゃあ布団持って来るねっ!」

「あ、予備あるわよ」

「・・・なんで?」

「研究室で貫徹でやる時に持ってこうと思って」

「研究室で寝泊まりしちゃダメだって言われてるじゃん」

「だから持って帰って来たのよ」

「・・・ぷふっ」

「なによぅ」

「無駄な出費が多いよねっ!」

「だって買った後で禁止されたんだもん!」

「あはははっ!じゃあそれ貸して!」

「良いわよ~」

 

「こうして真っ暗な部屋で寝ると、修学旅行みたいだよねっ」

「そうね、暗い中で色んな話をしたりとか、枕投げたりとか」

「ま、枕投げは明るい所でやんない?」

「えっ?」

「でないと誰が何だか解んないじゃん」

「・・・枕投げで相手を認識する必要があるかしら?」

「うわ、無差別ボンバーじゃん!」

「ボンバーって」

「ボンバー♪ボンバー♪夕張ボンバー♪」

「くっつけるな!」

「あははっ」

 

翌朝。

 

「島風、お前がついていながら何やってんだよ」

「すいませぇん」

「眠い・・眠いわ・・」

目の下に真っ黒なクマを作った二人を前に、摩耶は溜息を吐いた。

「一体何やったんだよ。ゲームか?」

「そ、それがその、寝ようとして、2300時過ぎに二人で布団に入って」

「おう」

「そのままお喋りしてたら朝になって、摩耶さんの声がして」

「・・・・・はぁーあ」

摩耶は溜息を吐いた。

確かにドアの前で呼ぶ前から二人の声がした気がする。

時間前に起きてて感心感心と思ったが、寝てなかったのかよ。

「まったく、一晩も何話してたんだよ?」

二人は顔を見合わせた。

「何って・・・」

「特に大事な話は・・ないよね」

「・・・お前ら・・」

「ひっ!」

二人は摩耶から拳骨が飛んで来るものとばかり思い、目を瞑って身構えた。

が。

「・・・・ほんと、仲良いんだな」

摩耶はくすっと笑った。

「あ、あの・・・はい」

「アタシもさ、天龍と居ると時間忘れんだよ」

「・・・」

摩耶は空を見上げると、

「アタシは天龍と着任が近くてさ、まだ慣れてない頃は二人で海辺とかで話したんだ」

「へぇー」

「楽しくて楽しくてさ、夕方に話し始めたのに気付いたら満天の星空でさ」

「ありゃー」

「良く姉貴達に叱られた」

「摩耶さんがですか」

「おう。だから気持ちは解る」

「ありがとうございます」

「でも、夕張、お前は倒れたんだから、体を休めろよ」

「・・すみません」

「・・しょうがねぇな。今朝はランニング免除してやるから、今からちゃんと寝ろよ」

「はい」

「島風も、自分の部屋で寝ろ。また二人で居ると喋るからな」

「うん。そうする。ごめんなさい」

「良いって事よ。じゃな!」

立ち去る摩耶の後ろ姿を見ながら、島風は言った。

「摩耶さんて普段怖いけど、なんだかんだ言って優しいよね」

「普段怖すぎるけどね」

「普段は怖いね」

「じゃあ怒られないうちに帰って寝ようか」

「うん!じゃあ起きたらまた行くね!」

「じゃあね!」

「・・・行って良いよ夕張ちゃん」

「行って良いわよ島風ちゃん。私が見えなくなるまで見送るから」

「島風が見送るから良いよ夕張ちゃん。早く行きなよ」

「・・・・ぷふっ」

「じゃ、一緒に出発!」

「うん!」

こうして島風と夕張は、それぞれの自室に戻ったのである。

 


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