艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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夕張の場合(4)

 

 

鎮守府の説明会から二週間後。夕張の自室。

 

「う・・・」

夕張が目を覚ますと、自室の布団の上だった。

「・・・!?」

掛け布団を頭の上まで引き上げると、夕張は自問した。

あれ?部屋にいつ戻って来たっけ?まさか私、夢で働いてただけで寝てた?

「あ!起きたね!」

そっと目だけ覗かせた夕張が声の方を見ると、島風が立っていた。

「良く寝てたね!気分どう?」

「え・ええと、良く寝たって感じ」

「あははっ!だよね。もう夜だもん!」

ガバッと夕張が身を起こすと、窓の外はとっぷり日が暮れていた。

「あああああ・・・やっちゃったぁぁぁぁ」

「何が?」

「今日は電力会社の人と最後の打ち合わせをする日だったのに・・・」

「それは工廠長さんが代わってくれたよ」

「え?」

「ラボの方は最上さんがやってるよ」

「え?」

「発酵用の生ごみ収集方法は、間宮さんと不知火ちゃんでまとめてるよ!」

「へ?」

島風はにこりと笑うと、

「それと、皆から伝言預かってるよ」

「な、なんて?」

「一人でやらせてごめんね、皆で代わるから具合良くなるまでゆっくり寝てて、だって」

「ひぃいぃぃいい」

夕張はがばりと布団を被って倒れ込んだ。

やっぱり起きてたんだ。夢じゃなく、提督室出た直後から記憶が無いって事は・・・

「・・・島風ちゃん」

「なーに?」

「・・私がこの部屋に運ばれるまでの経緯、知ってる?」

「うん!」

「・・教えてくれるかしら」

「えっとね、まず文月さんが研究班に緊急連絡してきたの。提督棟で夕張ちゃんが倒れたって」

「うううぅぅぅう」

「私達全員で提督棟に行って、高雄さんと摩耶さんが担架でここまで運んだの」

「ふおおおぉぅ」

「工廠長さんが医療妖精さんと来て、過労と極度の寝不足だって診察結果で」

「・・・・」

「摩耶さんが、無茶し過ぎだって言って、工廠長さんもそうだなって返して」

「ひうううう」

「工廠長さんが、夕張ちゃんはラボを楽しみにしてるから、止めたら可哀想だって」

「・・・え?」

「だから私以外の研究班の皆で、話が分かりそうな人と代行の交渉をしていったんだ」

「・・・」

「私は夕張ちゃんの傍に付いててやれって摩耶さんが言ったの」

「・・・そっか」

「うん」

「・・・・・代役の条件とか、大変だったんじゃない?」

「んー、詳しい事は島風見てないけど、高雄さん達は1時間もしないで帰って来たよ」

「ふうん」

「えーと、あ、明日の朝になったら代行役の人がここに来るよ!」

「そうなの?」

「うん。夕張ちゃん、絶対どうなったか気にするだろうからって」

「あはは・・・何でも御見通しだね」

「だね!」

「おっ・・・御見通し・・・だよね・・・」

「・・・何で泣いてるの?」

「だっ、だってさ、私、発電所早く作らなきゃいけないの解ってるのにさ・・・」

「うん」

「工場でラボ用の半導体製造設備見つけて浮かれちゃってさ」

「うん」

「発電施設だけなら毎日確実に寝られるのにさ、バカみたいに両方同時に進めちゃってさ」

「うん」

「挙句の果てに倒れたのに、提督も、皆も、誰も怒らないんだもん」

「んー」

「挙句に代わって貰っちゃってさ、迷惑かけまくりじゃん」

「・・・」

「バッ、バカだよね・・私」

「んふふん。提督は大当たりだね!」

「・・・何を?」

「提督はね、起きたら絶対夕張ちゃんは自分を責めるに違いないって言ったの!」

「ぐ」

「そうなったらこれを読ませなさいって」

「?」

そういうと、島風が差し出した封筒を夕張は受け取り、封を切った。

 

夕張へ

 私がもう少し早く気付けば良かったね。

 倒れるまで働かせてすまなかった。

 体調管理は今後厳に行って欲しい。

 そうでないと私も心配で休めない。

 今日の事、私は誰にも何も命じてない。

 でも、日頃の夕張の頑張る姿を見てるから、

 皆は自主的に立ち上がってくれたよ。

 夕張が重要な役割を担ってるという私の話を

 信じてくれる気になったかな?

 島風の当番も、夕張の当番も、今日明日と

 外しておいた。

 あと、お小遣いを入れておくから、

 二人でゆっくり休息を楽しみなさい。

追伸:

 もし深夜アニメを延々と見て体調崩したら

 今度こそ摩耶が罰を与えます。

提督より

 

「うっ、ぐすっ、て、提督、摩耶さんに罰則頼むなんて酷いよ。怖すぎるよ」

島風は夕張から手渡された手紙を読んで、んふふんと笑った。

「提督も他の子も、夕張ちゃんの事、普段からちゃんと評価してるんだよ?」

「う」

「でも夕張ちゃん、意外と自分の事聞くの苦手でしょ」

「うぐぅぅ」

「一人で研究するの大好きだからあんまり噂話も聞けないし」

「ひぅううぅ」

「だから改めて言われて、びっくりして、照れて恥ずかしいんだよね?」

「ちょっ!そんなまっすぐに言わないでっ!」

「んふふん」

「・・・・うー」

「合ってるよね?」

「・・・・・・・あ、ああああ合ってるわよ、もぅ」

「へへへっ。あ、ねぇねぇ、幾ら入ってたの?お小遣い」

「え?あ、ああ」

夕張が封筒の中を見て固まった。

「2万・・・入ってる」

「ふええええええっ!?にっ!2万!?」

「あのコミック買えちゃうわ、一式頼むしかないわね・・・・って痛っ!殴らないでよ」

「なんでマンガなのよ!」

「全巻セット2万コインのやつ、欲しいんだもん!」

「高っ!」

「新品55冊組で送料無料なんだよ!ちっとも高くないよ!」

「二人で使えって書いてあるじゃん!」

「二人で読もうよ!絶対楽しいよ!」

「なんで折角のお休みに二人で部屋でマンガ読んでなきゃいけないの!」

「私の休息だから!」

「・・・夕張ちゃん、策を弄したつもりだね」

「ふっふっふ」

「だけどね夕張ちゃん、それは致命的な欠点があるよ」

「なによぅ」

「その漫画が今日明日で届くのかなっ!」

「のおおおぉぉぉぉおおぉぉおお」

「お休みは今日と明日なんだよ。しかも今日はもう2200時を回ってるんだよ!」

「は、早く!早く注文しないとっ!」

「スマホ出すな!だからダメだって言ってるじゃん!」

「な、ナマゾン超特急のメンバー専用航空便で頼めば・・ほら!明日中に届くって!」

「それまでどーすんのよっ!」

「た・・楽しみに正座して待つ」

「あほかーーーー!」

 

隣の部屋では木曾が二人の様子に気づいていた。

どうやら夕張が目を覚ましたようだが、覚ました途端大騒ぎだ。

ま、ちゃんと起きて喧嘩出来るなら大丈夫だな。

「ふわぁぁぁ・・・そろそろ寝るか」

隣が夜中に騒ぐのは諦めたと言うか慣れた。

「今日も変身とか叫ぶのかねぇ・・まったく」

 


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