艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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夕張の場合(2)

 

鎮守府の説明会会場、ソロル鎮守府が出来た直後の4月末。

 

「維持費じゃと?」

集会場に来た工廠長は異様な雰囲気に戸惑いながら、龍驤に聞き返した。

「維持費をどっか節約できんかいなという話題やねん。毎月なんぼかかるん?」

「妖精達の食費とかは抜いて良いのか?」

文月が頷いた。

「定期船で補給される分は抜いてください」

工廠長はふうむと言いながら帳簿を取り出した。

「そうさの・・天龍とか摩耶が設備を壊さなければ毎月200万コインという所じゃよ」

途端に艦娘達の殺気立った視線が天龍と摩耶に注がれた。

「わ、悪かったよ・・ほ、ほんと、もうやんないから睨まないでくれ」

「ちょ、ちょっと出撃でむかつく事があったんだって・・・わ、悪ぃ。ほんとごめん」

龍驤は更に聞いた。

「200万の内訳は?どんな所で費用がかかっとるん?」

「一番は電気代かのう」

「電気代・・・」

「電気はあらゆる所で使い、規模が大きくなり、離島になって基本料金も上がったんじゃよ」

「むー」

「電気代が200万の内、150万くらいを占めとるよ」

「げっ」

「後は修繕に使う工具が摩耗した時に買い替える分じゃな」

「そっ・・それは削れへんなあ」

「直す時に、費用節約したいから完全修理では無くて小破で良いと言われても無理じゃからな」

「そりゃそうやし、そんなの嫌やし」

「というわけじゃが・・節約するなら週4日勤務とかにしようか?非稼働日は電気代が減るぞい」

「代わりに修理出来ないって事やろ?」

「兵装への弾薬補給もな」

「それはすっごく困るから勘弁して」

「残業0でも構わんぞ」

「出撃や遠征の帰りが夜になる事も普通にあるんよ・・朝まで待つのはしんどいんや・・」

「勿論知っとるよ」

「いけずな事言わんといて」

「節約するという事は何かが不便になったり困る場面が出てくるもんじゃよ」

「そっ、そりゃあ、そうやけど・・」

「無駄の削減は常日頃から行っておる。あまりわしらを悪者扱いせんでほしいのぅ」

「いっ、いや、工廠の皆には感謝こそすれ悪者扱いする気はないんよ」

他の艦娘達も一斉に頷いた。

「ま、それは冗談じゃが。そういう状況じゃよ」

「よぅ解った。おおきにね」

「・・折角じゃし、関係する事もあるかもしれんから最後まで聞いていくとしよう」

工廠長は不知火が用意した椅子によっこいしょと座った。

「そういえば提督はおらんのか?」

文月がおずおずと工廠長に言った。

「お父さんに言ったら、お父さんは絶対自腹を切ると言い出すので・・」

「そうじゃろうな」

「でも半年で2400万~3000万コインも出してもらうなんて余りに残酷です」

「自宅を売るか退職金を前借するしかないじゃろうな」

「ですから!」

「わ、解った文月、そう興奮するな。泣くな!」

「うぅうぅうう」

ずっと考え込んでいた夕張が、工廠長に尋ねた。

「ねぇ工廠長さん、電圧系統別の費用割合は解るかしら?」

工廠長は帳簿を開いた。

「んー、ダントツは100V系じゃな」

「100V系・・・」

「電動工具、照明、清掃機器類など、使ってない方がおかしい物ばかりじゃからな」

「他は?」

「次が200V系じゃな。空調や揚重用小型クレーンとかに使っとる」

「特別高圧は?」

「戦艦や正規空母が大破した時にメインクレーンを動かすのに使うが、ほとんど無いのう」

さすがだという艦娘達の賞賛の視線が集まったが、

「あぁ、定期船からボーキサイトとかを積み替えるコンベアに使うか。毎日膨大にあるんでな」

という一言で、赤城にジト目が集まった。赤城は

「う、うぅ、ご迷惑をおかけします」

と、小さくなった。

「ま、特別高圧の分は100V系に比べれば微々たるもんじゃよ」

「てことは100V系と200V系を何とかすればかなり電気代が下がるんですね?」

「それはそうじゃが、どうしようと言うんじゃ?」

「発電所作っちゃいましょう!」

夕張の一言に、艦娘達は「またか」という表情で諌める目を向ける。勿論龍驤も向けた。

「ただでさえ財政ピンチ過ぎやねんから・・傷口広げたらあかんて」

だが、夕張は首を振った。

「ガスタービンなら安いよ。発電機も艦船用で行けるし」

「ガスタービンてなんや?」

工廠長がふうむと顎髭を撫でた。

「ガスタービンは作れなくもないのう・・じゃが、燃料はどうするんじゃ。大量に要るぞ?」

夕張がにいっと笑った。

「艦載機の航空燃料で行けるじゃない」

工廠長がさぁっと青ざめた。

「おっ・・お前・・・定期船に運ばせるつもりか?」

「だって、定期船の分は大本営持ちでしょ?」

「それはそうじゃが・・・」

「後、ガスタービンだから可燃ガスならOKでしょ」

「まぁな」

「それだったら発酵タンク作ってくださいよ」

「何を発酵させるんじゃ?」

「不知火さん」

「はい、何でしょうか?」

「今は植栽で切った枝とか、刈った後の雑草とかどうしてるの?」

「可燃の産業廃棄物として植栽業者に引き取ってもらってます」

「それが0になれば節約になるでしょ?」

「そうですね。ええと、月1万少々は減らせます」

「後、鎮守府内で出る紙ごみと食材の廃棄分もバイオマス燃料の原料として使えるわ」

工廠長はじっと考えていたが、やがて目を開けると

「給湯用のボイラー室と変電室を改造して中型コジェネレーションにしてしまうか」

「隣接してるんでしたっけ?」

「部屋は異なるが隣同士じゃ」

「なら好都合ですね。一応、商用給電に切り替えられるようにはしておきましょう」

龍驤が両手を上げた。

「ちょ、もうついていけへん。その辺は夕張と工廠長に任せてええか?」

「良いわよ。後でゴミの運用変更だけお願いが出ると思うけど」

「決めてくれたら従うで!」

工廠長が席を立った。

「じゃ、後は工廠の事務所で話そうかの、夕張」

「はい!」

 

「と、いう感じじゃの」

「仕切り壁に配線が無いのは運が良かったわね。思い通りに削れるわ!」

「まぁの。問題は新旧機材の入れ替えにかかる約8時間は停電し、湯が使えなくなる事じゃ」

「そこは合意が必要よね」

「提督に相談してみるかの」

 

「コージェネ化するんですか?」

「まぁ、ちょいと研究したいんじゃよ」

工廠長はあえて費用の話を言わなかった。文月が泣くと思ったからである。

「構わないですが、工事とかで停電とか起きませんか?」

「どうしても8時間は停電し、湯も止まるんじゃよ」

「ええと、その間一切電気使えないのですか?」

「うむ。全ての場所でな」

提督はちょっと考えた後、

「大本営からの通信を受ける通信設備とか、停電が許されない物にも予備電源が無いんですね」

「そうじゃな」

「丁度良い機会です。大本営に頼んでディーゼル発電機も設置してもらいましょう」

「ふむ」

「コージェネで電気と湯を作り、非常時はディーゼルに切り替わる。それで良いでしょう」

「一般的なバックアップ電源じゃな。特に問題ないじゃろう。それじゃ、良いんじゃな?」

「ええ。隠れていた問題が明らかになって良かったです。ありがとうございます」

「じゃから、提督はそう簡単に頭を下げる物ではないと言っておろうに」

「そうでした。夕張もすまないけど、頼むね」

「お任せください!」

 

 




一人称の間違いがありましたので訂正しました。

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