鎮守府の研究室、夕刻。
2人目が出て行った後、1人目は他の深海棲艦達から質問攻めにあっていた。
「ド、ドンナ感ジデ艦娘ニナルノ?」
「地面に丸い輪が書いてあって、そこに立つの」
「フンフン」
「で、そのままじーっと立ってると眠くなるの」
「ホウホウ」
「で、気づいたら艦娘になってるの。超びっくりしたよ!」
「イ、痛イトカナイノ?」
「うたた寝してたから覚えてないけど、痛くなかったよ?」
「気持チ悪クナッタリトカ無イ?」
「全然!むしろすっきりした感じ!」
青葉は勢いよくメモを取っていた。
これはどうしましょう。艦娘化の生の感想なんて貴重な美味しいネタです。
夕刊ワイド?特大号?いっそ臨時特大号?
1時間少々で4体とも順調に艦娘へ戻った。青葉は
「これは明日の特集ですね!記事書いてきます!」
と、勢い良く飛び出していった。
衣笠は溜息をついた。また中途半端に放り出すんだから。
だが、姉は記事を書いてる間は大人しい。しばらくはほっといて大丈夫だろう。
衣笠は高雄に向かって聞いた。
「ええと、高雄さん。艦娘化作業は終わりでしょうか?」
「今後の事をお話しますから、明日の朝9時にまたこちらに来てくださいね。」
愛宕が鍵を手渡した。
「皆さんは当面、205の部屋を使ってください。ええと、案内は衣笠さんにお願いして良いかしら?」
「良いですよ!無理を聞いてくれてありがとうございました!」
「こちらこそ助かります」
その時、艦娘に戻った子の一人がポツリと言った。
「・・艦娘に戻っても、お腹は空いたままだったね」
くぅ~っとお腹が鳴る音を追うように、チャイムの音が鳴った。
「あっ、皆ラッキーだね!丁度夕食の時間だよっ!」
がばっと衣笠を見る艦娘達。
「えっと、あの、私達ご馳走になって良いの?」
不安げに見上げる艦娘に、衣笠はパチンとウインクして言った。
「衣笠さんにお任せっ!」
「美味しい!」
「凄い!ご飯がつやつやで味がある!」
「・・前の鎮守府より美味しいわ」
まず食堂に案内した衣笠は、鎮守府で人気の料理を艦娘達に紹介した。
一口目を口に入れた艦娘達は目を輝かせ、次々と称賛の言葉を発したのである。
「充分食べましたか~?」
「はぁーい」
「まだ入るかな~?」
「はぁーい」
「じゃ、デザート行きますか!」
「デザート!」
衣笠はインカムをつまみ、青葉に話しかけた。
「青葉、そろそろ休憩入れない?」
「良く書き上げたの解りましたね」
「これから皆で鳳翔さんのお店行くんだけど、青葉も一緒に行かない?取材費で落とせるよ」
「直行しますっ!」
そして鳳翔の店の前で合流したのである。
中は程々に客がいたが、上手い事テーブル席を見つけ、水を運んできた鳳翔に青葉は言った。
「鳳翔さん、あんみつ6つお願いします!」
「あら、今日は可愛い子達をお連れなんですね青葉さん」
「はい!さっき深海棲艦から艦娘に戻ったばかりなんですよ!」
青葉がそう言うと、元深海棲艦の子がぎょっとした顔になった。
しかし。
「そうでしたか~じゃあオマケしてあげますね~」
「やった~!」
鳳翔が去る姿を目で追いながら、元深海棲艦の子が青葉に尋ねた。
「こ、ここでは深海棲艦は敵ではないの?あっさり言うから周りから攻撃されるかと思った」
「秘密にするような事喋ってないですよ?」
「元深海棲艦ってのは充分秘密でしょ!」
「そんな事無いですよ・・・・ええと・・・あ、あそこにいる人」
皆が見た先には隼鷹達とゲラゲラ笑いながらジョッキを傾けるビスマルクが居た。
「ビスマルクさんは元深海棲艦で、隼鷹さんとかは普通に艦娘です」
「・・・・」
「混ざって飲んでるでしょ?」
「そう・・ね・・・」
「ちなみにビスマルクさんは社長です」
「・・・はい?」
「窓の外に見える、あのおっきい建物見えますか?」
「白星食品て書いてある建物?」
「そうです。あの会社の社長さんです」
艦娘達は建物を凝視したまま絶句した。艦娘が会社経営してるの!?
「あ・・え・・も、元深海棲艦で、鎮守府所属艦娘で、社長さんなの?」
「はい、そうです」
元重巡の深海棲艦だった子は、ビスマルクを優しい目で見つめた。
「・・楽しそう。ほんとに、差別とか無いんですね」
「無いですよ?」
「・・・そっか。でも、外では言わない方が良いんだよね」
「ええと、ここじゃない鎮守府でも、我々は最初からオープンにしますよ」
「そうなの?」
「最初は隠すよう司令官さんに頼んだ頃もありましたが、あとで解る方がギスギスするんです」
「・・・」
「ただ、オープンにしようと隠そうと全ての鎮守府で上手く行くわけではありません」
「そうよね」
「なので、上手く行かなかった場合は他の鎮守府に異動させたり、うちに引き取ってきます」
「ええっ!?」
「・・なんか変な事言いましたっけ?」
「い、異動を無かった事になんて出来るの?」
「詳しくは言いませんが、出来ます。実際連れ戻した例もあります」
「・・・」
「そして異動先で楽しくやってるか、私達が定期的に確認しに行きます」
「・・へぇ」
「だから安心して、うちの卒業生として赴任すれば良いのです!」
「そっか」
ようやく、テーブルを囲むメンバーの顔に安心した表情が戻って来た。
青葉は頷いた。
なるほど、深海棲艦から艦娘に戻った子の中には、過去を秘密だと感じる子も居るのですね。
これは記事に追加しなくてはなりません!
衣笠は何となく周囲を見回していたが、ふと鳳翔がニコニコしているのに気がついた。
目が合うと、鳳翔はうんうんと頷き、厨房に戻っていった。
「お会計安くて助かりました。鳳翔さん、ありがとうございます」
財布に領収書をしまいながら、衣笠は鳳翔に礼を言った。
「うふふふ。青葉さんが良い事をしたご褒美ですよ」
「そういえばさっきニコニコされてましたね」
「青葉さんがお話した事で、あの4人の子達はきっと勇気付けられたと思いますよ」
「・・・そうかも、しれないですね」
「青葉さんは際どい記事とか、普段の派手な行動が目立ちますが、根は優しい方ですから」
鳳翔の言葉に、衣笠はにこっと笑った。
「ええ。大好きな姉ですから」
店の外に出た時、衣笠は自分が部屋まで案内するといったが、
「まぁまぁ、あんみつのお礼です。ここは青葉にお任せっ!」
と言って、鍵を手にスタコラ行ってしまった。
一行が見えなくなると、衣笠は急に眠気を覚えた。
そういえば5151鎮守府まで往復して、戦闘して、取材して、艦娘化を手伝ったんだっけ。
「ん~、衣笠さんおねむです」
衣笠はゆらゆらと自室に向かった。