艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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青葉と衣笠の場合(5)

 

5151鎮守府司令官室、昼過ぎ。

 

衣笠の射る様な視線の先で、青葉は平然と目を覚ました深海棲艦にインタビューを始めた。

「ども青葉です!一言お願いします!」

「縄ガキツイ」

「そこは諦めてください!ところで、どうしてさっきは襲ってきたんですか?」

「・・・アナタ、誰?サッキ居ナカッタワヨネ?」

「居ましたよ!後ろに」

司令官がぽかんとした表情で話した。

「深海棲艦って、話せるんだね。霞達は話した事あるかい?」

「ありません!」

「今初めて喋れる事を知りました」

「だよな・・」

衣笠は手を額に当てた。これが正常な反応というか、一般的な常識だ。

うちの常識を外で使ったらダメだっていつも言ってるのに、このバカ姉っ!

「青葉っ!」

「今インタビュー中ですー」

「中止中止!今は司令官達からお話を伺ってるの!」

「じゃあ衣笠に任せます!私はこの方と外でインタビューしてきます!」

「ちょっ!」

「司令官!後程単独インタビュー受けて頂けませんか!?」

だが、司令官が答えるより先に霞が

「絶対ダメっ!」

と主砲を向けながら凄まじい目で睨みつけたので、

「はいはい、撤退いたしますよぅ」

と、深海棲艦と一緒に出て行ったのである。

振り返った衣笠は、呆然とする3人を見て苦笑するしかなかった。

説明というか弁明と、この異様な雰囲気の立て直しかあ。やれやれ。

 

「縛ルクライナラ、早クトドメヲ刺シテクレ。本当ニ痛イ」

「はいはい、もうちょっとですからねー」

鎮守府の外れにあった小さな磯まで連れて行くと、青葉は深海棲艦の縄を解いた。

「・・・エ?」

「なんですか?」

「縄、外シテ良イノカ?」

「痛いんでしょ?」

「ソウダガ・・・殺サレルト思ッテタ」

「お仲間さんも寝てただけですよ」

「・・・・ナゼ、助ケタ?」

「どうして艦娘の遠征物資を横取りしようとしてるんですか?」

「理由ヲ聞イテドウスルンダ?」

「記事にします!」

「・・・記事?」

「はい!」

深海棲艦はしばらく青葉を見ると、ふっと笑い、

「記事ニナルホド面白イ話カ解ランガナ」

と、言いながら話だした。

 

5151鎮守府に隣接した海底は、ささやかな地下鉱山がある程度の貧しいエリアだった。

しかし、深海棲艦達もほとんど居なかった為、平穏に暮らしていた。

だが、周辺にあった複数の海底鉱山が掘り尽くされて枯渇し、流れ着く深海棲艦が増えたのだという。

「ダガ、元々ココモ資源ガ豊富ナ訳デハナイ」

「ふむふむ」

「アットイウ間ニ資源ガ底ヲツイテシマッタ」

「なるほど」

「飢エ死ニシナイ為ニハ、海上ヲ航行スル船舶ノ、積ミ荷ヲ狙ウシカナカッタノダ」

「他所に行こうとは思わなかったのですか?」

深海棲艦は肩をすくめた。

「長距離ヲ航行スルホド燃料モ残ッテナイシ、移住先ノアテモナイ」

「あれば移動したいですか?」

「シタイ・・・イヤ、深海棲艦デ居ルノハ辛イカラ、移動シナイカモシレナイ」

「じゃあ深海棲艦で居る方を何とかしたいですか?」

「ソッ・・・ソリャ、何トカデキルナラ何トカシタイガ」

「じゃあうちに来ませんか?深海棲艦から艦娘に戻せますよ?」

「ハア!?」

疑念の目を向ける深海棲艦に、青葉が続けた。

「うちは深海棲艦を艦娘に戻す仕事をずっと行ってるんです。復帰後の教育施設もありますよ」

「ソ、ソンナ話、聞イタ事モ無イゾ?」

「そう言われても、間違いなくあるので・・・」

「・・・」

疑いながらも動揺の目で見る深海棲艦に、青葉は続けた。

「じゃあこうしましょう。もしうちがそんな事をしていないと解ったら、燃料を満載してあげます」

「!?」

「それならうちが気に入らなくても他の移住先を見つけられるじゃないですか」

「・・・」

目を瞑ってしばらく熟考していた深海棲艦は、ぱちりと目を開けると、

「解ッタ。ダガ部下ガ本当ニ寝テイタダケカ確認シタイ」

「一緒に連れて来たら良いじゃないですか」

「!?」

「来る皆さん全員分の燃料差し上げますから」

「・・・ホントダナ?」

「はい」

その時。

「おぉ~い、青葉ぁ、用事終ったよ~帰ろうよ~」

青葉が声の方を向くと、衣笠がぶんぶんと手を振る傍に、艦娘が30人ほどいる。

鎮守府から送り出したのは確か12名。元々居た2名を加えても、倍に増えたという事か。

「幸せそうで良かったです」

青葉はにこりと笑うと立ち上がり、パンパンと服に付いた砂を払い、

「さ、一緒に行きましょう!」

と、深海棲艦に手を差し伸べたのである。

「!?」

青葉の様子を見ていた5151鎮守府の艦娘達は後ずさった。

重巡級の深海棲艦と青葉が手をつないで歩いてくる。どういう事!?

「あー、怖くない。怖くないですよー」

そして青葉は霞の目の前に立つと、

「また今度お話聞かせてくださいねっ!」

という言葉を残し、そのまま深海棲艦を連れてスタスタと外海に向かって進み始めた。

「あっ!ちょっ!待っ!待ちなさいって~」

その後ろを衣笠が追っていくのを、霞達は呆然とした表情で眺めていた。

 

「・・・本当ニ戻レルンデスカ?」

「戻れますよ?」

「戻レルナラ戻リタイヨゥ」

「じゃあ行きましょう!手をつないでください!」

重巡級の深海棲艦と部下の計4隻は青葉を先頭に一直線に並んだ。

「さぁ~参りましょう!引っ張ります!」

衣笠は思った。深海棲艦を4隻も曳航する青葉。

他の鎮守府の艦娘に見られたらどう思われるんだろ・・・まぁ・・良いか。

 

「今日の受付は終わってますけど、4体位ならすぐ出来ますよ。どうぞお入りください」

鎮守府に着いた早々、青葉は研究班の戸を叩き、高雄に事情を説明した。

「とりあえず戻すにあたって幾つか聞きたいことがあるので、こちらへ来て頂けますか?」

高雄が手招きをし、愛宕と二人で手早く4体分の問診票を作っていく。

その間に睦月と東雲がドタバタと出て行き、出来たばかりの問診票を手に、夕張が声を掛けた。

「じゃ、始めるわね。番号札1番の方、外に来て」

「ハ、ハイ」

駆逐艦の1体が不安げに研究室の外に出て行った。

他の深海棲艦達は研究室で出されたお茶を前に、じっと座って待っていた。

だが、5分程経った時、ついに重巡級の深海棲艦が耐え切れなくなった様子で青葉に向かって尋ねた。

「ア、アノ」

「なんですか?」

「シ、深海棲艦ノ艦娘化ッテ、コンナ簡単ニ済ム物ナノカ?」

「うちの鎮守府ではそうですよ?」

「他デハ、ドコデヤッテルンダ?横須賀辺リカ?」

「世界でここだけですよ?」

しんと、一瞬の沈黙が場を支配した後、

「・・・ェェエェェエェェェエェエ!?」

と、飛び上る勢いで驚いた。

その時。

ガチャリ。

「ほっ!本当に!本当に戻っちゃったよ!」

深海棲艦達は戸口に立ち、興奮気味に腕をぶんぶん振り回す艦娘に釘付けになった。

「エエッ!?」

「モウ!?」

「ウソ!10分経ッテナイヨ!?」

しかし、駆逐艦級の深海棲艦の1体が、ジト目で艦娘を見た。

「オ前ガ本当ニ俺達ノ仲間カ確認スル」

「う、うん」

「ヨシ。昨日ノ昼飯ハ?」

「シシャモの塩焼きと酢こんぶ」

「好物ハ?」

「ソーダ水」

「・・・俺ノ口癖ハ?」

「とりあえずいってみっか」

「・・・本物ノヨウダナ」

「認めてくれて嬉しいよ」

その時、ドアの外からひょいと顔をのぞかせた夕張が、

「はぁい、じゃあ番号札2番の方、来て」

と言った。

 

 


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