4月2日昼過ぎ ソロル本島
「こんな時じゃなかったら、何日か滞在したいわね~」
大和は長門に続いてソロル本島の砂浜を歩きながら言った。
描かれたような、これぞ空色というべき陽気な空。
ぽこんと浮かぶ白い雲。負けず劣らず白い砂。
アクアマリンの語源はここかというような海の色。
見えてきた草で編んだ屋根に木組みのログハウスが景色に似合っている。
「大和も何か悪さをしてソロル送りになれば良い。歓迎するぞ」
長門が悪戯っ子のような笑みをよこす。
「退役しないと無理よ」
大和がくすくす笑いながら返す。
警護の重巡達は二人をにこやかに見ていた。まさに楽園だ。
「そ、粗茶なのです!」
「ありがとう、電ちゃん」
皆に冷茶を配ると、電はぺこりと頭を下げて出て行った。
ここは長門の部屋である。
足を崩して座り、一息ついた大和は口を開いた。
「さて、何から話したら良いのかしらね」
「私からも追加の報告が幾つかある」
「じゃあ長門の話から聞いて良いかしら?」
「うむ。それなら大和、護衛部隊の方々」
「なにかしら?」
「先に、冷茶を飲み干してくれないか?あとで御代わりは運ばせる」
「なぜ?」
「茶を浴びる趣味は無いからな」
大和達は首を傾げながら、長門に続いて冷茶を飲み切った。
その後、長門の家から絶え間なく大和の絶叫が聞こえていた。
青葉は隣の部屋で記事を書いていた。
大漁です!大漁旗掲げないといけません!記事が選り取り見取りです!
ソロル新報創刊号は増刊扱いでいきますかね!
この絶叫騒ぎにはなんてタイトルをつけましょうか。
「阿鼻叫喚の叫び!大和達は何を見た?!(か?)」
手伝っていた衣笠がジト目で青葉を見た。
ダメだ。この姉は再教育が必要だ。
しかし、ふとエンタメ欄の原稿に目が留まる。
「長門の乙女な秘密、ついに真相判明!」
ほう。
衣笠は遠くを見ながらそっと原稿を引き抜いた。
あ、あくまでも!誤字とかの確認なんだからね!
長門が満足げにうなづいた。
うむ、茶鉄砲の被害なしだ。他山の石というやつだな。
大和は口をパクパクさせながら、酸欠で悲鳴を上げている脳に酸素を送っていた。
か、艦娘の売買?
売られた艦娘は深海棲艦に魔改造?
こちら側にも斡旋か内通している者がいる?
厭戦的で元に戻りたいと泣いてる深海棲艦が居る?
提督が深海棲艦からこれらを聞き出し、親交を深めた?
更にあの大艦隊の総攻撃から、たった5人で数十人のLV1艦娘を全員救った?
提督の藻染めなんてこの際超どうでも良い。
お、落ち着くのよ大和。落ち着くの。大和ホテルの名にかけて。
何言ってるんだ私。
重巡達はぽかーんと聞いていた。
あまりにも異次元の話過ぎて現実として受け入れられない。
それとも、この長門は何かの病に侵されているのか?
そういえば鎮守府らしき棟も無いし、この島全体が隔離病棟か何かなのか?
重巡達は少しずつ部屋の隅の方ににじり寄っていった。
私達、何も見てません、何も知りたくありません。早く帰りたいです。
やっと呼吸を落ち着けた大和が言った。
「長門だから信じるけど、提督だったら有無を言わさず入院させたわね」
「身の安全を考えれば入院させても良いかもしれないがな」
「艦娘達にハレンチな事でもしてるの?」
「違う。大切な提督の身の安全を考えてだ」
「あら。長門がそんな事言うなんて」
「おかしいか?」
大和が一瞬黙り、上目遣いで長門を見た。
「ホの字ね」
ボンという効果音が見える位瞬間的に顔を赤らめた長門が、しどろもどろになって反論する。
「ち、ちがっ!いやいやいやいやいやいや!ない!ない!絶対ないからな!」
「へー」
「うっ、疑うのか?!私は戦艦だぞ!この鎮守府の規律を保つ重責を、あれだ」
「支離滅裂よ?」
重巡達はうなづいた。ここは隔離病棟だ。間違いない。
部屋が落ち着きを取り戻した頃、長門と大和は互いの情報交換を済ませていた。
「そうか、大本営以下、私達は全滅したと認識されているのだな」
「すり替えの話も公になってないし、避難先も無い筈だから」
「そうだな」
「この話、五十鈴には話すわよ」
「ああ。五十鈴は深海棲艦の部分は知っている。あと、中将にも話しておいてくれないか?」
「中将のお茶と煙草を取り上げないといけないわね」
「いっそ禁煙させたらどうだ?」
大和が目線を逸らした。
「あんまり、嫌いじゃないのよね」
「ほっほう」
「なによ?」
「大和はああいうのが好みか」
「おじさん提督にホの字の長門に言われたくないわね」
「誤魔化せぬぞ」
「どうするのよ?」
「青葉に話す」
「それだけは止めて」
「じゃあ私の話も内緒だぞ」
「取引成立ね」
青葉は窓の外でサクサクとメモを取っていた。
ここは楽園ですか?宝の島ですか?特大ネタがごろごろ転がり過ぎです。
二人とも隙だらけです!次のメモ帳を早急に手配しましょう!
ふと、裾が引っ張られた。
「なんですか?青葉、今忙し・・ひっ!?」
笑顔の文月と不知火が立っていた。
「ちょっと、そのメモを見せてほしいのです」
「い、いや、情報源は秘匿しないといけないのです」
「青葉さん」
「な、なんでしょう?」
「紙と印刷所の予算、外しますよ?」
「そっ、それだけはご勘弁を!」
「記事の発表時期を相談したいだけなのです。」
「削除とか封印はないのですね?」
「そんな恐れがあるほどエグい記事があるんですね?」
「うえっ!?」
「ちょっと、文月の部屋でお話しましょう」
「い、今ですか?後で行きますから、今は」
「ソロル新報、発行取り消されたいですか~?」
「やめてくださいお代官様」
「代官じゃなくて事務方です。不知火さん、連れてきてくださ~い」
「了解しました」
「あっ、やめて!短パン引っ張らないで!脱げちゃうのです!」
長門と大和は青葉の断末魔の叫びを聞いた。
しまった。既に嗅ぎ付けていたか。
「長門」
「うむ。後で詰問し、取り上げよう」
大和と長門はうなづきあった。
青葉の広報能力は計り知れない。早急に対処しないと地の果てまで知れ渡る。
ふと、大和が重巡達に振り返った。
「貴方達は秘密を守れるわね?」
二人とも、笑顔なのに目が全く笑ってない。圧力に装甲が耐えられません!
「命にかけて喋らないと誓います!」
「よろしい。長生き出来るわ」
重巡達は顔を見合わせた。私達はとんでもない事を聞いてしまったらしい。
1人がそっと呟いた。
「王様の耳はロバの耳~」
残る3人はぷっと噴き出したが、
「記憶を失えば話す事もないな」
と、長門の41cm砲を向けられ、真っ青になって両手を上げ、頭をブルブルと振った。
「命は大事にね」
大和さん超怖いです!もう感染してしまったのですか!?
その後、大和は長門からソロル本島と大本営の間の通信手段を確認すると、長門に暇を告げた。
「遠路はるばる来たのにもう帰るのか?」
「昨日の事もあって中将が心配してるしね。この子達をつける位に」
「待っている人が居るのは嬉しいよな」
「ふふ、そうね。長門も提督と仲良くね」
「道中気を付けてな」
「あなたも気を付けて。じゃ、急ぎの場合は通信で」
「解った。港まで送ろう」
「ありがとう」
青葉「作者さーん!」
作者「なんですか?」
青葉「青葉、立場弱すぎです!なんとかしてください」
作者「頑張って弄られてください」
青葉「ちょ!酷い!待遇改善を要求します~!」