5151鎮守府司令官室、昼過ぎ。
「おぉ!君達か!久しぶりだなぁ!いらっしゃい!その節は本当に世話になったね!」
「司令官!随分貫禄が増しましたね!」
「太ったって言いたいのかい?当たってるけど最初からそれか!ひっどいなぁ」
「違います!なんというか、歴戦の猛者というか、武人の雰囲気が!そこはかとなく!」
「そうか?いやーはっはっは!参ったなぁ」
5151鎮守府の古びた司令官室に居るのは、司令官、霞、吹雪、青葉、そして衣笠である。
これに眠ったままの深海棲艦1体が居るが、寝てるので数えない事にしよう。
司令官と吹雪は青葉達を覚えており上機嫌で迎えたが、霞は1ミリも気を許していなかった。
実弾を装填した12.7cm砲と10cm高角砲を全門まっすぐ深海棲艦に向けている。
「ところで司令官!」
「なにかな?」
「早速インタ・・・いたたたたっ!」
用件をすっ飛ばして取材を始めようとする青葉の靴を踏みつけると、衣笠が横から口を挟んだ。
「ええと、2通手紙を預かっておりまして、こちらが提督から司令官に」
「ほうほう、や、頂きます」
「こちらがうちの龍田から霞さんに、です」
「おぉ、霞の話題に良く出る龍田さんか」
「えっ?具体的にはどんなお話が!?」
「うん?いや、霞は色々私達に教えてくれるのだが、よく龍田さんはこう言った、と言うんだよ」
霞はかああっと顔を赤らめた。
衣笠はにこりと笑って霞を見た。
「龍田さんの教えをしっかり守ってるんですね」
「そ、そうよ。私自身が蓄積したノウハウもあるけど、龍田さんの教えはとても役に立つわ」
「とても怖いけど?」
「そうそう、とても怖いけど・・・って何言わせるのよ!」
「ふむふむ」
「何メモ取ってるのよ!止めてよ載せないで!」
「青葉、ここはカット」
「エンタメ欄に・・」
「ダメ」
「わかりました・・・」
渋々消す青葉を見て、霞は1ミリだけ衣笠を信じても良いかもしれない、と思った。
衣笠は引き続き霞に尋ねた。
「霞さん達は、こちらの生活には慣れましたか?」
「えっ?ええ、司令官が良くしてくださるから精一杯お仕えしてるわ」
「うん、霞達には感謝の気持ちで一杯だよ」
「し、司令官は異動した子も、建造した子も分け隔てなく平等に接してくれてますから」
「当たり前だよ。それに霞はいつもほんと頑張ってくれるしなあ」
「あ、あ、ありがとうございます」
「司令官殿」
「おう」
「もし、またうちの鎮守府から艦娘を異動しても良いかという話があったら、受けますか?」
「もちろんだよ!こんなにちゃんとした子達が来てくれるなら大助かりだ。話があるならぜひ頼みたいね!」
「それは良かったです」
「そんな話があるのかい?」
「生い立ちは違いますが、霞さん達のように再教育を受け、異動を希望する子達は居りますので」
司令官の表情が曇った。
「艦娘を大事にしないなんておかしいとしか言いようが無い。一人でも多くの子が幸せになって欲しいよ」
「私達も同じ思いです。そう仰って頂けると心強いです」
「うちでは霞達も居る。安心して来なさいと伝えて欲しい」
「解りました。ちなみにご希望はありますか?」
「どの子でも歓迎するけど、まだ小規模で設備も少ないし、燃費の良い子の方が助かるかなあ」
「正規空母や戦艦より駆逐艦や軽巡ですか」
「軽空母もありがたいね」
「こちらのクラスだと正規空母でも運用出来ると思いますけど・・」
「それがね・・」
吹雪が口を挟んだ。
「実は少し前から赤城さんが着任されたのですが、日々の消費量が急拡大しまして」
「赤城さんは良く働いてくれるし、今も出撃してるのだけど、もう1隻赤城さんが来たら・・」
霞が溜息をついた。
「私達は赤城さんの食料集めだけで日が暮れてしまうわ」
衣笠はふうむと自分の顎をなでた。確か・・
「ええとええと・・あ、やっぱりあった!」
「なんだい?」
「ええとですね、輸送用ドラム缶、良かったら少しお譲りしましょうか?」
司令官が眉をひそめた。
「輸送用ドラム缶て・・高いんじゃないの?」
霞も頷いた。
「私もたまに兵装の電子市場を見るけど、とても手が出る値段じゃないわ」
衣笠がぽりぽりと頬を掻いた。
「うちの鎮守府で開発の専門要員みたいな子が居るんですけど」
「ほうほう」
「その子が毎日のようにドラム缶を開発するんです」
「なんとうらやましい」
「で、うちで使う分はとうに確保してるので、最近では異動する子にも持たせてるんです」
「おぉ」
「霞さん達の頃はまだ量が充分じゃなかったので、お渡ししてなかったんです」
「なるほど。でも卒業生全員に配るのは厳しくないかい?」
「全部は無理ですけど、こちらでそんなにお困りなら」
ふうむと司令官は考えた後、ニコッと笑って答えた。
「いや、ありがたいけど遠慮しておくよ。ズルは良くない」
「そうですか?」
「うん」
「じゃあ・・レシピをお伝えするのは構いませんか?」
「ドラム缶の?」
「はい」
「オール10じゃないのかい?」
「それより燃料と弾薬を30にした方が良いです。」
「へぇ」
「あと、必ず駆逐艦で、出来れば鎮守府最高LVの子から始めて、同じ子で1日3回以上回さない事」
「3回とは厳しいね」
「出る時は大体最初の1~2回に集中するようなんです」
「ふうむ。霞、日々のメニューにドラム缶開発をもう1回追加してくれるかい?」
「かしこまりました。駆逐艦の日課として対応します」
「助かるよ」
吹雪がおずおずと口を開いた。
「あのう、ちょっと興味があるので、3回だけ回してきて良いでしょうか?」
霞が素早く答えた。
「回せるだけの資源の余裕はあります」
司令官が頷いた。
「よし、私も興味がある。いっといで」
「行って来ます!」
吹雪が出て行った後、司令官が口を開いた。
「霞は鎮守府の資材状況も把握しているし、知恵袋的な存在だ。この鎮守府に無くてはならない子だよ」
「あ、あの、か、感謝致します」
「感謝と言えば感謝の気持ちは君達に届いているかな?私はちゃんと君達に礼を言えているかな?」
「へうっ!?あ、あああの、ちゃ、ちゃんと届いてるわ・・よ・・」
衣笠はにっこりと微笑んだ。如何に大事にされてるかが良く解る。
うちの卒業生が異動先で切ない思いをしていれば助けたいし、楽しく過ごしていれば嬉しい。
目を瞑ってうんうんと頷いていた衣笠が目を開けた時、司令官達の視線は後ろの1点に釘付けになっていた。
嫌な予感がしてばばっと振り向くと、青葉がマイクを向けていた。深海棲艦に。