艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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青葉と衣笠の場合(2)

 

 

提督が命じてから3週間が過ぎた後、工廠。

 

「私がやってるのは手順として、妖精さんに欲しい物をちゃんと伝えてるだけですよ・・運じゃないです」

衣笠から三式ソナー製造率100%は運かと訊ねられた睦月は困惑気味に答えた。

「ええと、じゃあ、どうして私達は出来ないのかなあ?」

「・・例えばレストランで「お任せで」と言って、毎回好きな物が出てくるのは奇跡です」

「そうだね」

「でも、ミートソースが食べたい時、ミートソースくださいと言えば、毎回100%好きな物が出てきます」

「当然だね」

「皆さんはソナーが欲しいと思うだけで、手順としては妖精さんに「お任せで」と頼んでるんです」

「・・・・おおう!」

「青葉さんが50隻も毎日安定してすり抜けなければならないなら、その為の手順が必要な筈です」

「なるほど」

だが、姉が訓練を始めてから変わったのは、夕張から借りてきたカメラで撮影するようになった事だけだ。

カメラで撮った映像だけで姉は本当にそんな無茶を可能にする手順の手掛かりを得ているのか?

それとも単なる偶然なのか?

すっきりしないまま、衣笠は空を見上げた。

空はどこまでも続くような青さだった。

 

衣笠の心配は提督が指示した丁度1ヶ月後の朝に現実となった。

「・・・50!やった!やりましたよ衣笠っ!」

ついに50隻の深海棲艦の間をすり抜けて、かつ無傷を達成してしまったのである。

衣笠はカタカタと震えながらカメラを下ろした。

姉は本当にやってしまった。

そして、50隻をすり抜ける動画を撮った自分がまぎれもない証人になってしまった。

ひとしきり狂喜乱舞した青葉は、放心状態の衣笠を引っ張るように鎮守府へ連れ帰った。

 

「・・・は?」

呆然とする提督の前に、再び

「ソロル鎮守府PRESS」

と腕章を付けた青葉が鼻息も荒く立ちはだかると、

「証明、してきました!」

と宣言したのである。

提督は油切れのロボットのような動作で衣笠に本当かと尋ねたが、衣笠は肩をすくめながら頷いた。

あまりのショックで言葉も出ない提督に、青葉は

「青葉が50隻無傷すり抜けを達成した事について、一言お願いします!」

と、マイクを向けた。

「・・うん、凄いわ。青葉の底力に心底感心したよ。私の負けだ。今日一日取材して良いよ」

「いやっほーい!」

提督棟を飛び出していく姉に、衣笠は問うた。

「ねぇ!一体どうやったの!どうやってあんな事したの!?」

「ええとですねー」

「うん」

「・・・んー、もうちょっと、秘密です」

「えー」

その言葉通り、最初の内は小破する事の方が多く、取材は週に1~2回位だった。

しかし、徐々に成功する日が増え、今や毎日、それもぶちぶち愚痴を言いながらこなしているのである。

たまたま青葉の「訓練」の巻き添えになった元深海棲艦の艦娘いわく、

「物凄い勢いで接近してきてスレスレを掠めていくんです。自分が見えてないのかと心底怖かったです」

と、身震いしながら当時の様子を語る。

今朝方深海棲艦達が目を回していたのはこの為である。

この恐怖体験に背中を押され、東雲の艦娘化作業受付に駆け込んでくる深海棲艦も居る程だ。

 

さて。

現在、衣笠と青葉は広報班でもある。

他の鎮守府から艦娘を募集する集合教育は、深海棲艦の艦娘化と再教育がメインとなった為中止していた。

代わりに、よその鎮守府に異動させた艦娘達を定期的に巡回する仕事をしていた。

この仕事は艦娘の安否確認が主な役割である。教育方の天龍からは、

「イジメられてねぇか、鎮守府に変な気配が無いかしっかり見て来てくれ。信用してるぜ」

と、頼まれている。

ただ、艦娘の様子見だけでは相手の鎮守府に失礼なので、青葉は、

 

 「鎮守府を訪ねて」

 

という小冊子を作り、鎮守府内の写真や司令官へのインタビュー等をまとめていた。

これが結構真面目な内容で、さらりと司令官を持ち上げる内容になっていた事から大変好評だった。

で、今日はその巡回の日なのである。

「ええと、今日は5151鎮守府へ出張ですねっ」

青葉は外洋で高速巡航モードに切り替えた後、斜め後ろに続く衣笠に話しかけた。

「そうだねえ。霞ちゃん達元気にしてるかなあ?」

「もう3年近く経ちますからね」

「そういえば龍田さんから手紙を預かってるけど、今もやり取りしてるんだね」

「たまーにですけど、霞さんからも手紙が来てますよ。他も含めて龍田さん宛の郵便は多いですからね」

青葉の答えに、衣笠はふうんと頷いてから眉をひそめた。

「青葉、なんで手紙が来てる事知ってるの?」

「朝一と昼過ぎに配送室を訪ねてるからですけど?」

衣笠は溜息を吐いた。姉が1日どこに居るかはほとんど解っておらず謎に包まれている。

だが少なくともこれで1カ所は解った。行っちゃいけない筈の所だが。

「手紙の宛先と差出人漁っちゃダメでしょ!そもそも配送室は入室禁止じゃない!」

「漁ってないですよ!配送室の妖精さんに混じって仕分け作業を手伝ってるだけです!」

衣笠は合点が行った。どうして警備の厳しい配送室に入って宛名なんか見られたのか疑問だった。

しかし、仕分け作業を手伝うと言えば、毎日膨大な量の作業をこなしてる配送室の妖精からも歓迎される。

結果、堂々と宛先と差出人の情報を集めているのだ。

これをWinWinの関係と呼ぶべきか、周到な詐欺というべきか衣笠は迷った。

だが、青葉を大根座敷牢に送れば配送室の妖精は手伝いが来なくて困るだろう。

うぅ・・見逃すしかないのかな・・なんでこうギリギリセウト的なラインをこの姉は踏むかな・・・

考え込んでいた衣笠に、進路の先を見つめながら青葉が声をかけた。

「衣笠、高速巡航を解除して私の後ろに続いてください。私が横に移動したら反対に逸れてくださいねっ!」

「え?」

衣笠は真面目な顔で遠くを見る青葉の横顔を見て頷いた。これは冗談じゃないと。

衣笠は大人しく青葉の言う通りに従った。

姉は戦闘の時、実に頼りになる。

実は、現在鎮守府に所属する重巡の中で最もLVが高いのは青葉である。

教育方の妙高姉妹より高いというと驚く人が居るが、事実である。

ちなみに同2位は衣笠である。

姉が無茶な事をしないか心配で付き合ったらLVまで上がったという涙を誘うエピソード付である。

青葉が叫んだ。

「雷撃開始っ!方位0-7-2!水深3!距離1450!いっきますよー!」

パシュウウウウウ・・・・・ドドーン!

「うん、的中したようです!」

「ようですって・・・確認しようよ」

「もちろんです!」

青葉達はそのまま近づいて行った。

 

 


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