艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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加賀の場合(27)

第1艦隊と大鳳組の演習は続いていた。

 

「んー、あれは加賀かなあ」

「他には誰が見える?」

「ええとねぇ・・多分赤城、長門、陸奥だね」

「ちっ」

山城は島の木の上から偵察していた加古の報告を聞いて舌打ちをした。

伊勢型戦艦を叩いて扶桑型ここにありと高らかに宣伝するつもりだったのに。

「念の為聞くけど、伊勢と日向は見えないわね?」

「・・・うん。でも、加賀達も相当遠いよ?」

「へっ?」

開始時間からは相当経っている。

加賀と赤城を供にしていたとしても、接近する意思があればもう少し近づいてて良い筈だ。

接近していない・・接近出来なかった・・接近する必要が無かった!

山城ははっとして

「加古!すぐ木から降りなさい!退避行動に入るわ!」

と叫んだ。

「はーいはい」

加古はバッと木から飛び降りると、スタッと着地し、そのまま森の中を走り出した。

 

「視界から消えましたか。解りました。引き続き滞空してください」

「赤城、次の標的はどこだ?」

艦載機との通信を終えた赤城に、長門が尋ねた。

赤城はすうっと目を細め、

「お焚き上げを行いましょうか」

と言った。

 

島の端で4つん這いになった加古は、低い草のスキマから外を覗いた。

「んー・・・誰も居ない、ね」

しばらくじっと観察した後、海に飛び込んだ。

しかし、ジャンプした体が背後から猛烈に押された。

「げふっ!」

直後、次々と爆破音がした。

加古は海面で数回転がった後、立ち上がって自分のゲージを見た。

さっきまで無傷だったのに中破になってる。

だが、加古の口から出た言葉は

「よっしゃラッキ~」

だった。

何故ならつい先程まで身を潜めていた島は、今や火の海と化していたからだ。

あと少し飛び込むのが遅れたら確実に轟沈だった。

それに比べれば。

「中破でも生きてりゃ攻撃出来るもんね~」

加古はニヤリと笑うと、全速力で向かいの島に飛び込んだ。

 

「加古、被害状況は?」

「ごっめーん、トチって中破」

「上出来よ。砲撃方向は見当がつく?」

「長門達だね。間違いない」

「航空機は見えた?」

「零戦21型。でもあれは手錬だね」

山城は理解した。なるほど。だから「近づかなくて良い」のね。

だが、それなら。

「加古、対空的な安全は確保出来る?」

「洞穴に入ってるから平気」

「海は見える?」

「もっちろん」

「そこに居て、目標を達成しなさい」

「都合よく来るかなあ」

「都合は曲げるもの、よ」

「・・もし、山城と通信出来なくなったら好きにさせてもらうね」

「それで良いわ」

「じゃ、任せましたよ~っと」

 

「・・・・」

鈴谷はずっと目を瞑り、32号対水上電探のシグナル音に耳を傾けていた。

加古の居た島が猛攻を受けた事も聞こえた。

さすがに加古の生死は解らなかったが、その確認は山城からの指示にない。

私は私の目標を仕留めるだけだ。

コーン。ココーン。

鈴谷は薄く目を開け、無言のまま傍らの狙撃銃に弾を込めた。

 

赤城、加賀、長門、陸奥の戦略は「超長距離要塞」だった。

赤城と加賀が目一杯積んだ零戦21型を広範囲に展開。

自らの防衛と航空機の迎撃、そして発見した敵位置を「正確に」伝えさせた。

その報告を聞き、射程に物を言わせた長門と陸奥が弾道ミサイルのような軌跡で精密砲撃を行う。

この為、陣形では赤城と加賀が並び、長門と陸奥はぴったり寄り添っていた。

超の付く熟練である長門と同じ位置で打てば良いので、錬度がやや低い陸奥でも問題は無かったのだ。

最初に移動したのは、大鳳達が通る可能性のある海峡を全て射程範囲に収めるギリギリの位置に動く為だった。

敵は遠過ぎて狙えず、こちらは熟練の技で精密に当てる。

距離に物を言わせた戦術は本来大和クラスの戦術だが、赤城は躊躇わず応用した。

だが、零戦が沈黙した。敵が網に引っかからない。

今のままでも大鳳と祥鳳が沈んでいる以上勝利ではある。

待つべきか、仕掛けるべきか。

赤城は迷っていた。

 

「伊勢、張り切りすぎるなよ」

「大丈夫よ。2つ先の海峡交差地点で落ち合いましょう」

「・・・解った。焦るなよ」

伊勢と日向は海峡に侵入し、主砲を構えながら進んでいった。

隣接する海峡に1隻ずつ分かれ、敵に見つかっても、もう1隻が援護射撃出来るようにである。

海峡を半分ほど進んだ時、伊勢は尋ねた。

「・・・そっちはどうよ、日向?」

だが、日向の応答は無かった。

「!?」

砲撃音も爆発音も航空機の音もしていない。通信機の故障か?

だがその時、伊勢は島越しにはっきりと音を聞いた。

ターン。

伊勢は激しく頭を回転させた。日向に通信を送った後に狙撃音がした。

だが、日向は応答しなかった。すなわち既に仕留められていたという事だ。

音の方が後から来るという事は・・・超遠距離狙撃!

しまった!あっちには狙撃の名手、鈴谷が居るじゃない!

「くっ!」

海峡を1本ずらして突入していれば、日向は狙撃されずに済んだ。

だが今からのこのこ出て行くわけには行かない。

伊勢は長門への回線を開いた。

「長門、日向が遠距離狙撃された。狙撃された日向の位置を知らせるから、砲撃をお願い」

 

長門は伊勢からの通信に応じていた。

「了解。位置を聞こう」

「日向の推定轟沈位置は、マップのA7。詳細位置は」

「・・・詳細位置は?」

だが、伊勢からの応答は無かった。

長門はマップでA7付近を確認した。島が2つ、海峡が3本ある。

「この辺りの索敵部隊は?」

加賀が応えた。

「うちの部隊が間もなく到着します」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

山城は肩を揺すりながら息を切らしていた。

まったく心臓に悪い。悪すぎる。

直前に鈴谷から狙撃達成の報を聞いた山城は浮き足立っていた。

これで伊勢と勝負出来る。

LVも似通った所で、何かにつけては比較された伊勢と、やっと勝負出来ると。

陽動の為に海峡を渡り歩いていた山城は、通信中の伊勢とばったり至近距離で出くわした。

山城も伊勢も主砲に実弾を装填済だったが、山城は調整せず一斉射と告げた。

伊勢がインカムから手を離し、調整後砲撃と命じた僅かの時間差が運命を分けた。

山城の弾を受けながら発射した伊勢の弾は僅かに逸れ、山城の主砲の1本を吹き飛ばした。

小破対轟沈。

同じ戦艦クラスの勝負としては、見事に決まったといって良いだろう。

「山城、応答出来る~?」

「・・加古、やったわ。伊勢を仕留めたわよ」

「おおう、じゃあ伊勢を待ち伏せしていた僕はどうすれば良いんだい?」

「陽動行動は終了する。こっちも大鳳と祥鳳がやられてる。長門達本陣を1隻でも叩きたいわね」

「互いに2隻ずつ失ってるから、LVを考えればうちらの勝ちじゃない?」

「あんたが中破してあたしが小破してるから戦術敗北よ」

「あっ。そっかぁ」

「ええと、最上?上手く捕らえた?」

「辛うじて、だね・・・」

最上は電子双眼鏡を最大限拡大しながら舌打ちをした。これはもっと拡大倍率を上げられるよう改造要だ。

あ、前にも夕張からそんな事を言われてた気がする。今思い出した。

「捕らえてはいるの?」

「うん」

「・・・」

山城は迷った。41cmで46cmに立ち向かえるか?

だが、やらねば時間切れで敗北だ。

「加古、鈴谷は待機」

「うえー」

「了解。」

「最上、私が姿を晒さず砲撃出来る位置へ案内して」

「ええと、38400m地点だね。じゃあ現在位置から案内するよ。まずは前進」

山城は慎重に進み始めた。残時間との勝負だ。

 

 




1箇所誤字の訂正入れました。毎回すみません。

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