艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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加賀の場合(24)

紅白戦から2週間が経過した。

 

「焼きそ~ば!焼きそばだクマ~・・・はいよ~1つ350コインだクマ!」

「たこ焼き焼けたにゃ~!沢山あるから心配しないで良いにゃ~」

仮想演習場は今日も盛況だった。

加賀は球磨達から大人しく買い求める艦娘達の姿を見て、うんうんと頷いてから演習棟に入った。

ほんとに大変な事を任されてしまいましたが、何とかなって良かったです。

 

仮想演習棟に連日並ぶ列を見て、ピンと閃いたのは龍驤だった。

黒潮を説き伏せ、共同出資して出店の屋台を始めたのである。

具体的には鳳翔から食材を買い付け、間宮から出店のセットを借りてきた。

最初、文月は黒潮を出す事に渋い顔をしたが、

「まぁ、飲み物とかを売って熱中症予防に貢献してくれるなら・・あ、月末には帰ってきてくださいね?」

と、条件付で承知したのである。

そして龍驤が焼きそばを、黒潮がタコ焼きを作って売る事にした。

飲み物はソーダ水か麦茶で、買った人にサービスであげる事にした。

屋台を立て始めた頃から既に列に並ぶ艦娘達はざわざわし始めた。

これはいける。当たる予感がビンビンするでぇと、龍驤は笑みがこぼれた。

二人が作り出し、辺りに暴力的なソースの匂いが漂いだすと、艦娘達の刺さるような視線を感じた。

出来上がった焼きソバをパックに詰めながら、龍驤は努めて冷静に売り文句を口にした。

「えー、たこ焼きぃ、焼きソバぁ、どっちも350コイン~。美味し~い美味・・ちょ!ひぃぃぃぃ!!」

売り始めた途端、艦娘達が津波のように買い求めてきた。順番がずれて小競り合いまで生じた。

狙いは超ストライクだったわけだが、ここまで凄い事になるとは全く予想していなかった。

龍驤は騒ぎを起こした事について加賀からこってり絞られたが、提督はふむと頷くと、

「今のやり方は加賀の言う通りダメだけど、需要はあるんだね。もう少し工夫したら営業再開して良いよ」

と言ったのである。

ゆえに二人は必死で知恵を絞った。

宝の山が目の前にあり、週単位のレンタル費用だって馬鹿にならない。

一過性のブームなら列が消える前に1個でも売らねばならない。

そして思いついた。買いに来させるから列が崩れる。列に並んだまま買えれば良いのだと。

「バイトせんバイト?」

と、龍驤が方々探し回った時、たまたま時間が開いていた球磨と多摩が手を挙げた。

黒潮のアイデアで球磨と多摩は鎧と鉤爪を装備し、商品の入った籠を首から下げて売り子になった。

この二人が地上戦でどれだけ恐ろしいか知っている艦娘達は、大人しく従ったので騒ぎは無くなった。

しかし。

「鎧兜フル装備での売り子はあっついクマ!何とかして欲しいクマ!」

「行列が崩れず平穏に済んでるのは私達のおかげにゃ!」

と、ソーダ水飲み放題と言う労働条件の追加と、賃金に関する大幅な譲歩を呑まされる事になり、

「とほっほぅ・・濡れ手に粟とはいかないよっと・・・」

と、龍驤は小さく溜息を吐きながら焼きそばを焼いている。一方黒潮は

「ぼちぼちやからええやん。もうちっと休みが取れるとええねんけど、贅沢な悩みやなぁ」

と、さほど気にも留めず山のようにたこ焼きを焼いている。

 

そもそも、なぜ仮想演習場がこんなに混雑しているのか。

 

仮想演習は大型の鎮守府ではどこにでもある。

鎮守府内外での演習を通じて艦娘に経験を積ませる為だ。勿論経験値が溜まればLVも上げられる。

しかし、今までは仮想演習と聞くと嫌がる艦娘も少なからず居た。

それは天龍の

「実弾演習と仮想演習は違うんだよなぁ・・緊張感が続かねぇし揚げ足取り合戦みたいになるしさぁ・・」

というコメントが状況を要約している。

仮想演習では、両軍共にセオリーに忠実に従って戦う事が絶対条件と信じ、それを繰り返していた。

この結果、特に鎮守府内演習では相手がセオリーに反するミスをしない限り引き分けになる事が増えた。

ガチガチに決まりきった戦術は飽きてしまうし、引き分けだと経験値も僅かしか入らない。

ゆえに、互いにミスを誘うという事に凝りはじめてしまい、演習後の雰囲気もあまり良くなかった。

それが、大鳳達と金剛達の紅白戦で一変した。

 

時は紅白戦の直後に遡る。

 

金剛は興奮気味に、

「大鳳達との仮想演習はとっても面白かったデース!奇想天外で強いネー!私達負けちゃったデース!」

と、あちこちで話して聞かせた為、

 

「ほう・・金剛姉妹がやられた、と?」

 

と、すぅっと目を細めた艦娘達が続々と対戦を申し出たのである。

金剛4姉妹は鎮守府の主力部隊の一翼を担っている常勝組だ。それがやられたとなれば只事ではない。

提督は大鳳に問うた。

「申し込みが多数来ているそうだけど、困ってるなら私から止めろと言ってあげるよ?」

「いえ!戦術の検証にこれ以上適した事はありません!出来ればやらせてほしいです!」

「メンバーは?」

「先日の紅白戦でご一緒した方々が嬉しいですね」

提督はしばらく考えた後、

「2艦隊以上編成し交代で行う事。君達も楽しんでやる事。現実に出来る事だけする事。守れるかな?」

「はい!」

そこで、いの一番に相談された祥鳳は白雪に打ち明けた。バンジーから帰って来たばかりだった白雪は

「思う存分、艦載機無用論を試せるチャンスじゃないですか。満足したら帰って来てください」

と笑いながら通常業務から外し、祥鳳を送り出した。

大鳳と祥鳳は寸暇を惜しんで議論を重ね、演習で検証を繰り返し、自らの理論を猛烈な勢いで強化していった。

増員には隼鷹と飛鷹に訊ねたところ、

「面白い事してるなぁって思ってたんだ。にひひっ」

「私達、結構やれるんだから!」

と、二つ返事で協力してくれることになった。

最上は仮想ながら無制限で新装備のテストが出来ると喜び、増員は誰が良いという問いに夕張を指名。

予算が無くて没にされた兵器のアイデアを次々とテストし始めたのである。

そして程なく伊19に核弾頭SLCMを持たせた事で艦娘達から大顰蹙を浴びる。

「開始早々、敵すら見えず艦隊ごと沈まされる気持ちにもなってよ!チートどころかトラウマよトラウマ!」

この為、抑止力として三隈と島風が招集され、最上は三隈と、夕張は島風と組む事になる。

最上と三隈のやり取りの一部を聞いてみよう。

「魚雷作る位なら大型対艦ミサイルの方が良いと思うんだけどなあ」

「大本営はまだSLCMもICBMも認可してくれてませんわ。残念ながら酸素魚雷の改造までですわ」

「AI無しの熱線誘導なんて時代遅れだよねぇ・・・たくもう」

「陳情書、今晩も書きましょうね」

「うん、そうだね!」

 

 


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