艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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加賀の場合(23)

 

紅白戦の2戦目中、午後。

 

「・・・山城さん、ごめんなさい」

大鳳は遠回りに敵艦隊を回りこむ航路を進んでいた。

赤城が金剛達と居て、最上が轟沈した以上、山城は袋叩きだ。

だが自分は、とても救援にいける位置に居ない。

艦隊が固まっていれば、あるいは。

「私達は私達の目標を遂行しましょう」

大鳳は加賀を見た。加賀は真っ直ぐ、澄んだ目で見返した。

「・・・ごめん。そうよね」

大鳳はキッと空を仰いだ。

「さぁ、やるわ!第六○一航空隊、発艦始め!」

加賀は指示を発した。

「敵、赤城。方位1-8ー0。全機発艦」

加賀の飛行隊が、大鳳の飛行隊が発艦していく。

大鳳が軌跡を睨みながら指示を与える。

「全機全速力を維持、高度8000mまで上昇、そのまま宙返りして敵艦に空爆開始せよ!」

 

「各艦は私を顧みず前進して!敵を撃滅してくださぁーい!」

「頑張ったな山城。だがそこまでだぜ」

「解ってるわよぅ。んもー」

不満げな口調とは裏腹に、山城はニヤリと笑った。

あれだけ赤城から艦載機を引きずり出して、撃ちまくらせた。

後はあの二人が氷山にでも激突しない限り、勝てる。

なぜなら第1次航空隊は全弾打ち尽くしたし、二人はそろそろ海域に着く頃だ。

赤城は補給しているヒマが無い。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

赤城は×印が付いた山城を見ながら呪いの言葉を放った。

あんなデカイ図体して逃げ過ぎだ。

ちょこまかちょこまか航路を変えるわ止まるわ急発進するわ。本当イライラする!

だが、やっと仕留めた。少なくとも最上と合わせて2隻は沈んだ。

敵は見えない。今のうちに艦載機の弾薬を補給しておかねば!

「艦載機の兵装を換装する準備をしてください!」

飛行甲板上に魚雷や爆弾が並べられる。帰艦する艦載機が見える。

・・・ん?

飛行甲板の上を、チラリと影が横切った気がした。

太陽は真後ろの上にいる。影が横切るという事は・・・

「真上・・直上!?」

赤城はぐいと見上げた。

「!!!!!」

赤城の真正面に、まさに爆弾を切り離したばかりの流星の群れが居た。

真っ直ぐこちらを向いている。

「あ」

自爆攻撃かと思ったが、流星はそのまま機首を上げ、海上すれすれを滑るように飛んでいった。

「・・良かった」

「良かねぇよ赤城。空爆命中で轟沈。演習2回目終了。決着も付いちまったぜ」

赤城はにこりと笑いながらヘッドセットを外した。

「艦載機が自爆しなかったから、それで良いんです」

 

「ではまず、天龍から聞こうか」

提督室に戻った面々は、提督の声に促され天龍の方を向いた。

「えっと、2戦とも白組は全艦轟沈。紅組は山城と最上が1回ずつ轟沈。あとは無傷だ」

天龍は肩をすくめた。

「ルール違反者双方なし。文句のつけようがねぇ。紅組の勝利だぜ」

「次、白雪。検証結果はどうだった?」

白雪はふうむと顎に手を当てながら

「一部運の要素もありましたが、紅組の戦術が一枚上手なのは確かです。ただ・・」

提督はおや、という表情をした。

「ただ、何だね?」

「この戦術をそのまま採用というのは無理でしょうね」

山城が食ってかかった。

「どういう事よ!」

白雪は肩をすくめた。

「AI自律誘導の多弾頭墳進砲なんて、ここにしかありませんし」

「うっ」

「そもそも山城さんがあんなに身軽なんてチートですし」

「そっ!それは提督が欠陥を治してくれたから!」

「加古さんが山を登る事も?」

「人間、山登り位出来るっしょ~」

「祥鳳さんが一回の砲撃で岩山を正確に倒して潜水艦を攻撃する事も?」

「じゃあ今やって見せた私はなんなのよ!現実にだってあれ位訳無いわ!練習すれば出来るわよ!」

「流星が高度8000mまで登って、そのまま海面すれすれまで宙返りしながら急降下する事も?」

「かっ、加賀さんの飛行隊は今日初めてで出来たよ?」

「加賀飛行隊の錬度がどれだけ化け物かご存知の上で言ってますか?」

「うぅうぅぅう」

「一言で言って、皆にとっては離れ業過ぎるんです」

大鳳はがくりと頭を垂れた。訓練に明け暮れすぎた。またやってしまった。

「役に立たない戦術じゃぁ、提督に捧げる意味は無いわね・・」

しょぼんとする大鳳に、提督は声をかけた。

「ありがたく貰うし、役に立つと思うよ」

「え?」

提督はちらりと白雪を見た。

白雪はにこりと笑った。

「そのままの採用は難しいですが、セオリーを変えていくチャンスです」

提督は頷きながら言った。

「セオリーは常に最新の常識と技術に基づかねばならん。しがみつけば時代遅れになる」

「例えば今日、金剛達は面白い事をしたな」

金剛が顔を上げた。

「何かしましたデスかー?」

「速力を落として赤城と併走し、赤城の艦載機からの索敵結果を元に砲撃しただろう?」

「は、ハイ」

「今までやってたかね?」

「いえ、やった事無いデース」

「何故やったのかな?」

「あんまりにもショッキングな負け方をして、何とか挽回したかったのデース」

「うむ。それはとても良い考えだね」

「良い考えデスかー?」

「そうだよ。今までのセオリーを壊してでも、さらに強くなろうと考えたってことだ」

「・・・」

「大鳳だって、セオリーは解ってるだろ?」

「提督の蔵書は全て読ませて頂きましたから、その範囲では」

「充分だよ。だが、大鳳はセオリー以上を目指した」

「は、はい」

「今はとても高い技量や技術が必要な策だが、使える要点がある筈だ」

「さらに、今の戦術と向き合う事で、金剛のように前向きにより良くしようと考える子も出てくるだろう」

「・・・・」

「そのまま役に立とうがどうしようが、鎮守府に新風を呼び込む為に必要な戦術なんだよ」

「提督・・」

「だからありがたく頂くよ、大鳳。よくまとめたね」

「あ、でも、私の戦術は私と加賀さんでやった部分で、他はそれぞれ皆さんが立てたんですよ」

「そうなの?」

加古がニヤリと笑った。

「レ級の頃は好き放題戦術試せたし、重巡が潜水艦と戦えたらかっこいいよねって」

山城も頷いた。

「艦隊戦は艦を見てるんじゃなくて、艦影を見てる。その盲点を考え続けてたのよ」

祥鳳はくすっと笑った。

「空母が砲撃で襲って来たらびっくりするでしょ?意表をついて無力化するのは私の理論の要です」

大鳳は祥鳳に向かって言った。

「敵が撃てないようにすれば良い。それは私の戦術も一緒です!」

「大鳳さん、貴方とは良い論議が出来そうね」

「ええ。また時間があったらお話しましょう!」

提督は榛名の方を向いた。

「榛名は戦ってみて、どうだった?」

「とっても不謹慎ですけど、わくわくしました」

「わくわく?」

「セオリー通りに互いが戦えば、如何に相手のミスを誘うかが主眼になります」

「まぁそうだね」

「それだと、足の引っ張りあいみたいでつまらないです。今日は何がどうなってるんだろうって!」

「意外な戦術に、驚きつつも新鮮だったって事か」

「はい!でも、次はこんなにボロ負けしません!」

伊19が頷いた。

「戦い方はまだまだ沢山あるのね。もっと勉強して、強くなるのね!」

霧島が眼鏡をくいと上げた。

「今回の紅白戦により、霧島の戦術力が向上しました!感謝しますね」

提督が手を打った。

「よし!じゃあ互いに握手して終わりにしよう!」

「今回は完敗デース!でも次回は負けないネー!」

「こ、こっちも頑張るから、負けないよー」

「加古さん、強かったのね!」

「レ級の時に会わなくて良かったねー」

赤城は大鳳に言った。

「艦載機が海面すれすれで起き上がったのは、偶然ではないのですね?」

「はい。計画通りです」

「特攻計画だったら平手打とうかと思ったけど、違うなら良いです」

「あんなに苦楽を共にした搭乗員を簡単に殺したりしません!」

「はい。それでこそ、うちの空母です!」

「み、認めて、くれるんですか?」

赤城はすいと人差し指を大鳳に突きつけた。

「前みたいにワガママで周囲を振り回したら許しませんよ?」

「ううっ・・気をつけます」

「うむ、よろしい。じゃあ歓迎会しなくてはなりませんね、提督っ!」

「んえ?」

「んえ、じゃあありません!ほら、鳳翔さんの店に予約して!」

「何でだよ。食堂で歓迎会がセオリーだろう?」

「セオリーは常に新しくなるのです!」

「財布の中身が変わらないからダメです」

「新しくしてください!」

「それは大本営に言ってください!」

「早速行ってきます!」

「行くんじゃありません」

加賀は大鳳に話しかけた。

「ごめんなさいね。これがいつもの事だから」

「ううん。やっぱりここは、楽しそうだわ」

「楽しいですよ」

「た、ただいまって、言って良い?」

加賀はにこりと笑った。

「おかえりなさい、大鳳さん」

 


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