艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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加賀の場合(22)

 

紅白戦の1戦目が終わった休憩時間、午後。

 

休憩時間に入った直後、白組の面々は一言も喋らなかった。

思考に全精力を集中しており、喋る暇がなかったのだ。

 

 一体、何が起きた?

 

「皆サーン!ちょっと話聞かせてくださいネー」

金剛がメンバーに呼びかけた。

「そうね。同じ事しても同じ事になりそうな気がするのね」

伊19は溜息をつきながら返した。

「比叡、さっき何を言いかけましたカー?」

比叡が泣きそうな声で応答した

「お、お姉様」

「比叡、まだ1回先行されただけデース。それにこれは、スポーツですネー」

「・・・スポーツ?」

「仮想演習では死にまセーン。楽しみましょう!」

比叡は呆気に取られた。金剛に悲壮感は全く無い。

そうだ。金剛お姉様はこういう人。だから何度も助けられてきた。

お姉様に勝利を。その為には。

「私、さっき轟沈する直前に、噴進砲みたいな物が見えたんです」

「噴進砲・・・」

「噴進砲は速度が遅いです!だから、敵の前に砲撃出来れば命中させつつ回避出来る筈です!」

「霧島、何が有効デスかねー?」

霧島が口を開いた。

「噴進砲なんて奇抜な物を使うのは最上に決まってます。弾着観測射撃で仕留めましょう!」

「なら、第4スロットを電探から水上偵察機に変更しまショー!」

金剛は伊19を見た。

「伊19は山城を見つけましたネー?」

「見つけたけど、仕留める前に仕留められたのね」

「僚艦は見えましたカー?」

「最上だと思うのね」

「山城と最上が噴進砲を持ってるなら、輪形陣は危険です!」

「そうですネー・・・赤城」

「なんでしょう?」

「攻撃機で索敵可能ですカー?」

「ええ、可能です」

「それではお願いしマース!今度は一緒に動きましょうネー」

「解りました。通信可能範囲に居てください」

「あと、第4スロットはダメコンにしてクダサーイ」

「何故ですか?」

「万一の時、敵を討ってクダサーイ」

「・・・解りました」

「伊19は何か変えたいですカー?」

「本気で行くから、甲標的を酸素魚雷に変えるのね!」

「じゃ、天龍をコールしますネー!」

 

「なんだ金剛?」

「兵装交換リクエストネー」

「よし、言いな」

「私、比叡、榛名、霧島の第4兵装を水上偵察機に変えマース」

「解った。他には?」

「赤城の第4兵装をダメコンにするネー」

「他は?」

「伊19に酸素魚雷を持たせマース!」

「これで全員交換不可だぜ?」

「OKネー」

「・・よし、交換完了。トイレとかはねぇな?」

「ありまセーン!」

「紅組のほうは兵装交換はねぇか?」

「ありません!」

「うっし。第2戦、開始10秒前!アラートで開戦だぜ!」

「わーかりましたー!」

 

ピッ・・・・ピッ・・・・ピピッ・・ピピッ・・ピピピッ・・ピピピッ・・ピー!

 

「始め!」

伊19は開始直後、金剛に行動計画を確認した。

すると金剛は申し訳なさそうに

「ソーリーです。他に思いつかないのです」

と返した。伊19は頷いた。

確かに、身を隠せるような都合のいい場所は他に無い。

だが。

上から来る可能性があるなら、上も索敵しておけば良い。

2度と意表はつかせない。

 

伊19は所定位置についた。

上空を索敵するには、僅かに水面から出なければならない。

ギリギリ海面に浮上した伊19は、慎重に狙撃銃を構え、魚雷を込め、安全装置を外した。

敵が見える前からの安全装置解除はセオリーに反するが、その分発射までの時間を短縮できる。

万一再び上から降ってきた時、今度こそ相打ちまで持ち込んでやる!

だが、伊19は全身にぞわぞわっと鳥肌が立った。

「!?」

何か解らないが、とてつもなく嫌な予感がする。

全く理由にならない理由だが、本能的に伊19は岩陰を離れ、沖合いに出た。

すると。

ドドドドドドドドドドーン!

そびえ立っていた目の前の岩山が崩れ落ち、ついさっき自分が居た場所に岩石の雨が降った。

伊19は海面に出たまま、顎をガチガチと鳴らした。体の震えが止まらない。

対潜水艦攻撃で山を崩すなんて聞いた事が無い。

だが、あの音は間違いなく岩山を砲撃した。それも偶然じゃなく、狙い澄まして。

あんなのを喰らえば対機雷ウェットスーツなんかじゃ到底太刀打ち出来ない。

それに、あんな強火力を持つのは一体誰だ?

「よっ」

ビクリとして振り向いた伊19の目の前に、加古が居た。

「・・あ」

「バーン」

ウインクしながら、加古は20.3cm砲を伊19の鳩尾にぴたりと当てた。

伊19はがくりと頭を垂れた。発射されたら間違いなく大穴が開いて轟沈だ。

「ええと、解ってるみたいだな伊19。轟沈だ」

天龍の声に伊19は

「完敗なのね」

と、呟いた。

加古がマイクに向かって話しかけた。

「良い砲撃だったよ祥鳳ちゃん!」

祥鳳はふんと鼻を鳴らした。

「艦載機なんて要りません!」

 

「あー、今度は赤城さんも来たわね」

山城は手をかざして言った。前回は最短航路、今回は迂回航路だ。

「向こうの航路は一緒・・ね」

最上が多弾頭噴進砲のAIを起動しながらニコッと笑った。

「巻き添えは運が悪いんだよね、山城?」

山城は肩をすくめた。

「そうね。じゃ、仕留めましょうか」

「了解!」

 

「航空機のレーダー反応あり!左舷方向!」

赤城が叫ぶと、金剛達が素早く水上偵察機を飛ばした。

「見つけました!方位2-9-・・2!距離25!砲撃用意!てー!」

ドドドドン!

榛名の指示通りに金剛型4隻が主砲を一斉射した。

 

「ああっ!」

「解ってるな最上。轟沈だ」

「くっそお、あと少しで噴進砲発射出来たのにっ!」

「戦闘終了までお喋り禁止。良いな?」

「解ってるよぅ・・・たくもう」

僚艦の最上を失いながら、山城は即座にプランを変更した。

敵は自分の真正面に居る。すなわち敵から自分の艦影は真正面の形で見えてる筈だ。

最上に当たり、私が方位を変えないなら、私が接近すると思って次弾の着弾距離は短くするのがセオリー。

ならば方位を変えず、後退すればハズレるって事よ。

私の欠陥は提督が治してくれた。だから私は、急停止が出来る。

「両舷!反転ギア装填後、後退原速黒18!」

そして、続けざまに叫んだ。

「多弾頭噴進砲!全弾水平発射!」

墳進砲の特徴の一つに、水平飛行が可能という事がある。

もちろんあまり長い間飛べばやがては着水するが、僅かな差なら関係ない。

そして、相手の測距を狂わせるには、仰角を必要とする砲弾を撃ってはならない。

水平に飛ばし、点のように見える噴進砲は、相手の測距儀の目くらましには丁度良いのだ。

90発の噴進砲が残した白い煙を、山城は見つめた。

全員、沈みなさいな。

 

「夾叉・・いえ、最上に命中!直撃!」

榛名はにっと笑った。勘が冴えてる。ならば次弾も速やかに撃つ。山城も沈めて一気に叩く!

「第2射用意!方位2-9-2!距離20!砲撃用意!てー!」

ドドドン!

だが、その時赤城の航空隊は緊急報告をしてきた。

「噴進砲が発射されたようです!回避行動に移ってください!」

数十もの白い点を確認し、全艦が一斉に散開した、が。

「なっ!?」

噴進砲が、追いかけてくる!?

「天龍だ。金剛4姉妹轟沈。赤城、お前はダメコン発動で戦闘再開。これでダメコンは使用不能だ」

赤城は歯を食いしばった。

「一航戦の誇り、こんなところで失うわけには」

だが、攻撃機は伊19の轟沈を知らせてきた。

つまり僚艦は全滅。たった一人というわけだ。

ならば目の前の敵を叩く。

「攻撃隊、山城に空爆開始!」

 

 


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