艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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加賀の場合(21)

紅白戦の準備がすんだ後、午後。

 

「全員演習装備は身につけたな?ベルトはしてるな?」

ヘッドホンから聞こえたのは天龍の声だ。

「今回のマップ、説明するぜ」

「うんざりするほどの浮遊氷山のオンパレードだ」

ゲッという表情になる金剛。氷山は常に位置を補足し回避し続ける必要があり、難易度が格段に高まる。

「気温は氷点下5度、もたもたしてると凍っちまうぜ?」

「中央に3つ、岩山が並んでる」

提督はマイクを握る天龍を見た。お前、このマップは・・・北方・・

「シンプルなもんだろ?じゃ、開戦!」

天龍は言い終えるとスイッチを切り、白雪を向いた。

「終了まで、俺が環境調整や判定とか仕切って良いんだよな?」

「ええ。私は評価作業に集中します」

提督は天龍に厳しい顔を向けた。

「天龍。どういうことだ?」

天龍は澄ました顔で言った。

「北方海域で勝たなきゃ、大鳳は勝てねぇだろ?」

「何にだ?」

「負けて怯える自分に、さ」

提督は苦悩の表情を浮かべた。

「な、何も、今でなくても・・・」

「提督。俺に任せてくれたんじゃないのなら、すぐ中止するぜ?」

「・・・そうだな。すまん」

「絶対、これは必要なんだ。今」

「・・・天龍が言うのなら、要るのだろうな」

「提督。思い出して辛ければ提督室で待ってても良いぜ?」

「・・・大鳳が戦うのに、私が逃げてどうする」

「・・無理だけはするなよ。俺が長門に怒られちまう」

「気をつけるよ」

 

大鳳は目を疑った。

あの時、敵艦隊に沈められた海域。北方海域が、目の前にそのままある。

大鳳は俯いた。あの時の私の戦術はことごとく通じなかった。

敵編成はあの時より輪をかけて強い。

・・・でも。

私だって、強くなった。理論は完成した。完成させた!

大鳳は顔を上げ、声をかけた。

「第2第3小隊長、目標を達成せよ!加賀、彩雲を!」

加賀が頷くと同時に、山城達第2小隊、祥鳳達第3小隊はさあっと散って行った。

 

「!?」

天龍は紅組の動きに釘付けになった。ありゃ何の陣形だ?

白雪は12隻の動きを、未来を、スクリーン越しに見続けていた。

 

「ふふふん。ねぇ祥鳳」

「こういうのを神の恵みっていうのかしらね、加古さん」

「どう見てもあの影だよなぁ」

「ええ。加古さんの勘がばっちり当たりました」

獰猛な目で加古と祥鳳が見つめる先は一番端の島の端の、小さな岩山だった。

「じゃ、ちょっとダイヴしてくるわー」

「ここで監視してます」

「ダメだったらよろしくねー」

「1発だけでも当ててくださいね!」

「まっかせなー」

加古はそっと、氷山に身を隠しながら岩山に向かった。

岩山の周囲はこちら側が浅瀬と砂浜、向こうは急に深くなってる。海の色で解る。

伊19はそこに居る。

加古はするすると岩山を登り出した。

 

ピッピーッ。

鳴り出したワーニングアラートに気付き、天龍は提督の方を向いた。

「提督、確認。艦娘は島に上陸して良いのか?」

「違反とは言ってない。アリだ」

「・・解った」

天龍は設定を無効にしつつ、苦笑した。

おいおい、常識外れも良い所だ。このまま行きゃ岩山の先は伊19の真上だぜ?

 

「山城、やっぱり全部僕の装備に変えるべきだったんじゃないかな?」

最上の指摘に苦々しく応える山城。

「だったらちゃんと動くって保障しなさいよ」

「世の中に100%なんて無いんだよ山城」

「アンタの兵器は動くか動かないか半々じゃないの!姫の島のミサイルのように」

「だーいじょうぶだって。魚雷版は伊168が試験して大成功だったんだから」

「・・お喋りは終わり。見えたわよ」

「んー・・・あーあ、よりにもよって比叡中心の輪形陣なんて可哀想に」

「知った事じゃないわ。全て運よ」

「山城は怖いね。じゃ、用意は良いかい?」

「全AI起動済みよ」

 

「流星とはいえ、本当に耐え切れるのですか?」

「実証済みよ。搭乗員さえビビらなきゃね!」

その一言に、不安がっていた加賀飛行隊隊員達は色めきたった。

鎮守府で最高錬度の搭乗員しか乗艦を許されない、文字通りの最強空母、加賀。

大鳳の飛行隊に後れを取るなという檄が飛び、力強い返事が返ってきた。

加賀は空を仰いだ。自分に反論する対抗策は無い。赤城は自分が知ってるあらゆる策を知り尽くしてる。

そう。付け入る隙はそこしかない。

 

 自分が知ってる策が世の全てだという、隙。

 

加賀はぞっとした。それはすなわち自分の隙でもあるからだ。

加賀は妖精達に話しかけた。

「皆聞いて。これは新しいセオリーになるかもしれない重要な実験よ。後で必ず意見を聞かせて」

ビシリと敬礼で返す搭乗員達に、加賀は微笑んだ。

「行きましょう」

 

「艦隊が4隻しかいない?それもバラバラ?」

放った水上偵察機からの報告を聞いて、金剛は事態が理解出来なかった。

まだ始まって5分も経ってないし、戦闘もしていない。

霧島が肩をすくめた。

「早々に氷山に突っ込みましたかね」

榛名がたしなめた。

「大鳳さんはともかく、山城さんは高LV艦娘ですし、他の方々だって」

「祥鳳さんも加古さんもうちに着たばかりよ。仮想演習に慣れてるとは言いがたいわ」

比叡は金剛に言った。

「私もおかしいと思います。2隻は別のどこかにいると思います」

「潜水艦を別動隊にするのは私達もやりましたから解りマスけど、分散させる理由が解りません」

「・・・」

「艦隊は固まって集中攻撃するからこそ威力が増しマス。これセオリーね」

金剛の言葉に、比叡はハッとした。しまった。

「金剛お姉さま!すぐに陣形を」

だが、比叡は最後まで言葉を発せなかった。海原に浮かぶ点を見つけたからだ。

「あ」

 

伊19はスコープの照準を慎重に合わせなおした。

山城の艦橋は大きくて解りやすい。充分遠くから撃てる。

シャクッと狙撃銃の弾を装填し、安全装置を解除する。

山城、終わりなのです。せめて1発で仕留めてあげるのです。

だがその時、真上から、音が降ってきた。

「!?」

その音は良く知った、極めてまずい音だ。だが、ありえない。

 

 魚 雷 発 射 音 だ

 

スコープから顔を離し、伊19はとっさに真上を向いた。

加古が上から落ちてきながら魚雷を発射していた。

伊19は固まった。

 

「は?」

赤城は放った彩雲からの報告に耳を疑った。

金剛4姉妹が猛攻を受けた。少なくとも比叡は大破したと。

赤城は航空機が何機居たかと問いかけたが、彩雲は0だと答えた。

加賀と大鳳が居るのに空爆しなかったというのか?何を積んだんだ?

赤城はマイクに向かって呼びかけた。

「伊19、山城は仕留めましたか?」

だが、応答は無い。

赤城は顔をしかめた。伊19と金剛4姉妹は別方面に展開した。

自分は金剛達の後を追う航路だが、最悪、動けるのは自分一人の可能性がある。

彩雲に捕捉している敵艦隊位置を尋ねると、2箇所の答えが返ってきた。

どちらに最上がいるかと訊ねた。可哀想だが一番LVが低いのは彼女だ。

確実に仕留められる相手から仕留めて弱体化させる。それがセオリーだ。

彩雲が返した最上達の座標に、赤城は進路を取り直して言った。

「第一次攻撃隊、発艦してください!」

だが、そこで天龍からの通信が入った。

「赤城、空爆命中で轟沈。演習1回目終了だ」

赤城はぽかんと口を開けた。

そう思った瞬間、自分のではない艦載機が背後から通り過ぎた。

一体何が起きたというのだ?

 




誤字、というか書き間違いを訂正しました。
ご指摘ありがとうです。

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