艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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加賀の場合(11)

 

 

加賀が倒れた日の朝。0750時。

 

仁王立ちする赤城に提督は恐る恐る聞き返した。

「えと、あの、なんで私なのかな?」

「今は閑散期です。」

「そ、そうだね」

「閑散期の提督業務代行程度なら事務方で充分可能です」

「あぁ、うん、そうだね」

「本件に携わっていて、他にヒマな方は居りません」

「・・・あの、赤城さん」

「なんでしょうか?」

「もしかして怒ってる?」

「もしかしなくても怒ってます」

「一応、理由を聞いて良いかな?」

カッと赤城は目を見開くと

「親友に恥をかかせてくれたからです!」

「そ、そんな、確かに手を握ったけど愚弄するつもりは全く無いんだよ赤城、私は」

赤城はピッと人差し指を提督に向けた。

「加賀に直接言った諸々の事ではありません!」

提督は赤城のあまりの迫力にのけぞった。

「えええっ!?」

「加賀が倒れた後のうろたえようは一体何なんですか!みっともないにも程があります!」

「ぐふうっ」

「挙句の果てに翌朝まで「どこか打ってないかぁ、心配だぁ心配だぁ」って」

「・・そんな情けない顔してた?」

日向が頷いた。

「してた」

「ぐふっ」

「まったく!提督が情けない事をすればそんな人を夫にしたと加賀まで馬鹿にされます!」

「ぐおうっ」

「今日明日と受付を代わり、立派なダンナだと皆に示してください!」

「うっ・・ううっ・・・そ、それはその通りだけどさ」

「私も比叡も手伝いません!良いですねっ!」

バタン!

提督に一切の反論の余地を与えずに赤城は提督室を出たが、出た後で日向にインカムで囁いた。

やり方は教えてあげてください、時折様子は見てあげてください、と。

赤城からのインカムを聞いた日向はふっと笑うと、提督に言った。

「よし、昨日何を説明したか言うぞ、必要ならメモを取ってくれ」

「すまんな日向」

「なに、昨日のカステーラのお礼だ」

「・・・・美味しかった?」

「美味しかった」

「今度、カステーラの店に一緒に行こうな」

「それは楽しみだが、まずは今日明日を乗り切る事が優先だ」

「そうだな・・・よし、教えてくれ」

「うむ」

 

11時。

本人は変装のつもりなのだろうが、サングラスをかけて頬かむりをした解りやすい加賀が寮のドアを閉めた。

さささと木立を抜け、集会場の裏口の扉をそっと開け、周囲を見回してから後ろ向きに入った。

しかし。

中には腕組みをして仁王立ちする赤城が居た。

「加賀」

加賀は5cmは飛び上がった。

「ぴっ!」

「何しに来たんですか?」

加賀は滝のような汗をかきながら、やっとの事で振り返った。

「ワッ、ワターシ、カガチガーウヨ?」

赤城はジト目になりながらフンと息を吐いた。

「3文芝居にもなってませんよ。手伝いは禁止と言ったでしょ?」

「ううっ」

もじもじする加賀を見て、赤城は手でうなじを掻いた。

「・・・そこの隙間から覗いて御覧なさい」

加賀は言われた通り、そっと受付の方を覗いた。

果たして大勢の艦娘と提督が居たのだが、レイアウトが昨日とまるで違う。

昨日は長机を4つ並べ、加賀、赤城、比叡、日向が1人ずつに説明し、書類にサインをしてもらっていた。

しかし今日は長机は8つになり、3人ずつ座って黙々と書類を読んだり書いたりしている。

提督はと言うと、壁に大きく書いたケッコンカッコカリの資料を示しながら、大勢の艦娘に説明している。

「・・というわけで、指輪は1種類です。指輪はデザイン中だからお楽しみに!」

はーいという揃った声を横耳で聞きつつ、加賀は赤城を振り返った。

「どういう事なんです?」

赤城は肩をすくめた。

「どうもこうもありません。提督御一人で残り2日間捌いてくださいと言ったんです」

「なんと酷い事を」

「加賀に恥をかかせたのだから当然です」

「わ、私はあれくらい」

「と・に・か・く」

「はい」

「日向さんから説明内容を聞いた提督は、資料を模造紙に大きく書いたんです」

「張り出されてるあれね?」

「はい。で、会場に来た提督は机をあの配置にしてから、艦娘を20人ずつ部屋に入れたんです」

「・・・」

「で、説明を聞いて、想像と違ったら帰って良い、合ってたら長机で仮予約書に名前を書きなさいと」

加賀はふむと頷いた。

確かに説明する内容は同じだし、一緒に聞いて困る物でもない。

聞いたうえで友達と相談して帰るのも自由という訳だ。

ノリで来た子も帰りやすいし、書類の記載項目は名前だけだから間違える物じゃない。

だから書くのは各自でやりなさい、という事か。

加賀は再び提督を見た。

「・・説明は終わり。これで良ければ仮予約書の注意事項を読んで、OKならサインして籠に入れて欲しい」

提督がにこりと微笑むのを合図に、艦娘達がわいわいと立ち上がった。

長机に向かうのは1/3という所で、残りは提督に群がったのである。

その内の一人が提督に色紙を差し出した。

「サインお願いします!」

「うーん、サインなんて署名しか書いた事無いけど、それでいいかな?」

「良いです!」

提督は受け取ったマジックで「念力岩をも通す」と書いた後に自分の名を記し、手渡した。

「わぁっ!ありがとうございます!帰ったら司令官に自慢します!」

「司令官も、自分も、大切にしなさい。思いはきっと、叶うから」

「はい!」

その子の頭をわしわしと撫でた後、

「じゃ、次の20人、入っておいで!」

と、言ったのである。

加賀は頷いて赤城を振り返った。

「提督は御一人で、対応方法を変えて、私達の何倍ものペースで仕事してますね」

赤城はがりがりと頭を掻いた。

「大変さを解ってもらおうと思ったんですけどね、完敗です」

「ええ」

加賀は再び提督を見て目を細めると、

「さすがは私の旦那様です」

と、満足気に呟いた。

 

日が沈む頃には希望者の対応を終え、提督は机の籠に入った書類を整えていた。

「お疲れ様でしたっ」

「提督、見事だった」

振り返ると、にっと笑う赤城と微笑む日向が居た。

「いやぁ、本当に昨日は大変だったんだなって良く解ったよ。やってみるもんだね」

「・・あれ?ぶちぶち文句言わないんですか?」

提督は肩をすくめた。

「元はと言えば私が浜風に承諾し、他の子もOKと言ったからだ。自業自得だよ」

「ふーん」

赤城はじとーっと提督を上目遣いで見た。

「な、なにかな赤城さん?」

「強がりの割合は?」

「じゅ、10%・・・かな。あははっ」

「・・本当は?」

「すいません5割です。すっごい疲れてうんざりしました」

「正直で宜しい」

「恰好位つけさせてくれよ」

「それなら昨晩格好つけてくださればよろしかったのです。大勢に醜態を晒しておいて何を言いますか」

「うげふっ」

「・・まぁまぁ赤城、そういじめるな」

「日向さん、こういう事で甘やかすのは良くないですよ」

「提督も反省しているだろう。な?」

「そうだね。人の目をきちんと気にして、恥ずかしくないダンナとして生活しなきゃいかんな」

「まったくです」

「脱走もみっともないから、金輪際止めるんだな」

「ふえっ?そ、それとこれとは」

「止・め・る・ん・だ・な?」

「・・・はい」

日向の冷たく鋭い眼光にしゅーんと俯きながら頷く提督に、日向はうむと深く頷いた。

「そもそも、提督が旅の供をしろと言えば喜んでついて行くぞ」

「・・そうかなあ」

「私は行く」

「・・そっか」

「そうだ」

赤城はフンと息を吐くと

「まったく、親友を預けて良いのかとっても不安です」

「そ、そう言わないでくれよ」

「・・・と、言いたいところですが、これ以上説教すると加賀が艦載機を繰り出して救援に来そうなので」

「へっ?」

「良いですよ、入ってきてくだ」

入口を振り返った赤城は言葉が引っ込んだ。

加賀が宙を舞っていたからである。

「提督ぅぅぅっ!!!!」

そのまま加賀は、提督に飛び込んだ。満面の笑みで。

「ぐふおうっ!」

全力で飛び込まれた提督は辛うじて抱き止めると

「昨晩は恥をかかせてすまなかったね加賀、うろたえないように気を付けるよ」

「私こそ・・私こそ、お店で気を失うなど、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「良いんだよ加賀」

「大好きです提督。お会いしたかったです」

「私もだよ」

ぎゅむっと抱き合う二人に赤城は溜息を吐いた。

なんか、いくら説教してもあっという間にダメエネルギーを補充してそうな気がします。

リコンカッコマジってないでしょうか?

 


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