艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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加賀の場合(9)

 

提督と加賀が鳳翔の店に向かう途中。2020時。

 

 

「・・・・」

加賀の心拍数は人生最速をマークしていた。

鼓動が大き過ぎて耳元で心臓が動いてるかのようだ。

空腹と重なってくらくらしてきた。

確かに鳳翔さんの店は食堂より遅くまで夕食を出してくれるが、それでも時間に余裕はない。

でも、提督と二人で晩御飯などと言われ、もし手を引かれなかったら一晩は余裕で悩んだ筈だ。

あ、あれ?待ってください。

夜に二人きりで手をつないで歩くって、これは逢引き・・という奴ではありませんか?

今気付きました。

て、てて、提督と二人きりでディナーデート・・・夢を見てるようです。

お願いですから夢オチなんて言わないでください。

あ、手を握る強さはこれで良いのでしょうか?

変に思われてないでしょうか?

へ、変といえば変な顔になってないでしょうか?

ど、どこかに鏡は無いでしょうか?

 

売店の陰で2つの人影が身を隠すように動いた。

川内と響だった。

「提督と加賀さん、どこ行くんだろうね?で、なんで私達隠れなきゃいけないの響?」

「むぅ・・むむぅ・・」

「・・どうしたの?柱を握りしめて」

「デート・・羨ましい」

「あー、まぁデートのようにも見えるね」

「手をつないでる。間違いなくデート」

「え?・・あぁ・・そう・・だね。良く見えたね」

「うぅう・・・リア充爆発しろと言いたいけど、加賀と提督には恩がある」

「そうだねえ。二人のおかげで私達はここで会えたんだもんねえ」

「でも、でも、加賀さんちょっと交代しろ・・いやいやいやいや何言ってるんだ私」

しゃがみこむ響の頭をぽんと撫でると、

「今朝一番に申し込んだんでしょ?ケッコンカッコカリしたら、手をつないでデートすりゃ良いじゃない」

「私はまだLV25だよ。先がどれだけ長いか解るだろう?」

「頑張って出撃したらあっという間だよ!」

「・・・そうかな」

「そうだよ」

「・・・でもその前に手をつないで歩きたい」

「単に手をつなぐだけなら書類でも渡す時に」

「そうじゃない」

「・・・あとは提督やファンクラブと相談するしかないんじゃない?」

むむむうと真剣に考えだす響の頭を川内はわしゃわしゃと撫でた。響はかわいいなあ。

 

迎賓棟の裏で、20回目のシャッターを切り終えた青葉はにまにま笑っていた。

提督も加賀さんも初々しいですねえ。望遠レンズ持って来てて正解でした。

だが、カメラで撮影結果をプレビューして愕然とする。

全部ブレてるじゃないですか!ああこれも!これも!これでは使い物になりません!

昼間は良いのですが、夜は本当にダメですね・・

ふむぅ、これは新しいレンズを買わねばなりません。600mmF4とか!

とりあえずはフラッシュを持ってきましょう。今後の事は衣笠に相談しましょう!

まぁ写真は残念な事になりましたが、週刊連載記事の「噂のあの子」として使えそうです。

もう少し取材を進めましょう!

 

「つ、着いた、ぞ・・」

「はい・・あ」

「ん?な、なんだ加賀?」

「い、いえ、手・・」

「つ、つないだまま入るか?」

「あ、そ、それは、あの、いえ、いいです」

「よ、よし、入るぞ」

チリンチリンと扉が開く鈴の音に鳳翔は振り返った。

そこには真っ赤な顔をした提督と加賀が針金のようにぎこちない姿勢で立っていた。

あらあら、青葉さんの記事は今回誇張無しのようですね。

「いらっしゃいませ、今日は飲み・・ですか?」

「ち、違うんだ鳳翔。加賀の晩御飯を見繕ってくれないか?」

「あら、まだ召し上がってなかったのですか?」

「例の受付で間に合わなかったらしいんだよ。美味しいのを頼む」

「提督とお二人分ですか?」

「私は食べてるんだが、付き合いで軽くお茶漬けでも貰おうかな」

「解りました。お待ちください。席は・・奥のテーブルにどうぞ」

「ありがとう」

 

テーブルを挟んで向かい合った加賀と提督は、カチコチに緊張していた。

「か、加賀・・」

「あ、あの、て、提督、な、なんでしょうか?」

「い、いや、その・・・あ、て、手続き件数はどれくらい・・だった?」

「ま、まだ、数えておりません」

「そ、そう、か」

「い、今から数えてきましょうか?」

「い、いや、いい」

「は、はい」

それっきり、互いに顔を真っ赤にしたまま俯いてしまった。

 

「あー、奥の方に薪ストーブでもあったかしら。ここまであっついわー」

すっかり出来上がっていた足柄はぽつりと言った。

「まぁ結婚2日目だからしょうがないんじゃね?」

隼鷹が返した。

「新婚ほやほや、微笑ましいですね」

高雄も頷いた。

「ああなりたいですか?」

榛名は手に持ったおちょこを足柄にぐいっと向けた。

今日はケッコンカッコカリを申し込んだ者同士という事で榛名も相席していたのである。

「えっ、私?」

「そうです!提督と逢引きするなら、どうしたいですか?」

真剣な眼差しの榛名はともかく、隼鷹と高雄は興味津々といった風情で見ている。

足柄は冗談としてネタに流すか真剣に応えるか迷ったが、

「・・・私が加賀の席に座ってたら、きっと訳の解らない事を喋りまくると思うわ」

と、本音をぶちまけた。

「何故・・そう思われますか?」

「だって、提督と二人きりでじっと黙ってるなんて、恥ずかしくて間が持たないもの」

「それもそうですね」

「なんか取り分けとか一生懸命やっちゃって、肝心な事は何も言えず・・あぁ見えるわ、ショボイ私が!」

「もう少し踏み込みたいけど勇気が出なくて踏み込めないって感じですか?」

「そう!それよ!きっとそう!家に帰った後で一人でうじうじ後悔するのよ!あぁもう嫌!」

「じゃあ踏み込めば良いじゃないですか」

「言ってくれるけどね、そういう榛名はどうなのよ?」

「はっ!?榛名ですか?榛名は良いです。つまらないです!」

「私にこれだけ恥ずかしい事を言わせておいて逃げるの?」

「へうっ」

隼鷹が榛名のおちょこに酒を注いだ。

「ほら、高速戦艦の最高峰はどうなんだよぅ。語ってごらんよぅ」

榛名は数秒間、じいっとおちょこを睨みつけた後、くいと一息で飲み干し、タンと置くと、

「はっ、榛名は・・提督の隣に座ります!」

「隣とな!」

高雄達3人はどよめいた。意外と大胆だ!

「そっ、それで、は、榛名は、榛名は・・・ふーふーしてあげます」

「ふーふー!」

「そして、そして・・・」

榛名はガッと徳利を掴むと中の酒を一気に飲み干して、

「あーんしてあげます!」

度肝を抜かれた3人が復唱した。

「ふーふー、あーんとな!」

「そうです!そっ、そして、そして、そのお箸で御飯を食べます!」

「間接キッス!」

「大胆!」

「計画的!」

「あ、あとは、あとは、しょっ、食後は・・食後は・・」

3人が榛名にぐいと近づいた。

「食後は!?」

榛名は目一杯顔を赤らめると、ぎゅっと目を瞑ったまま、

「ひっ・・・ひざの上で手をつなぎますっ!」

と、言い切ったのである。

 


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