艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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加賀の場合(5)

 

 

臨時特大号が発行された日の夕方。陸奥の工房。

 

「ほんとに・・仕事にならないわね」

陸奥は「閉店」と掲げても尚、常にガタガタと揺らされ続ける玄関や窓を見て溜息を吐いた。

「本気で・・怖い・・です。戦艦に囲まれる、より。あのうめき声が・・」

弥生は自分の周りを作業机で囲み、バリケードのようにしている。頭に修復バケツを被っているのが可愛い。

「なんかゾンビの襲撃を受けてるみたいよね」

「こっ・・怖いこと・・言わないで・・・ください・・・今夜・・寝られなく・・なります」

「あら弥生、ホラー映画は嫌い?」

「大嫌い・・です」

「サスペンスとかも?」

「キライ」

「ふーん」

陸奥はにやりと笑うと、

「あっ!弥生の背後の床からゾンビがっ!」

「にゃあああああああ!!!」

50cmは飛び上った弥生に満足した陸奥だったが、飛び上った場所を見て固まった。

「陸奥さぁぁぁぁん」

そこには本当に、床板を外して現れた扶桑が居たのである。

「ぎぃやぁぁぁぁぁああああぁぁあああぁぁ!」

蒼白になった弥生と陸奥は抱き合ったまま床にへたれこんでしまった。

 

「やり過ぎです」

「も、申し訳ありません」

提督室に居るのは秘書艦の比叡、広報班の衣笠(青葉は販売に追われている)、そして加賀と扶桑である。

秘書艦当番ではない加賀がこの場に居るのはお察しの通りである。

「まったく、いつもは超の付く常識人の扶桑なのに、どうしたと言うんだ」

提督の発言に扶桑を含めた全員が提督を見た。信じられないと言う目で。

「え?え?なんだ・・皆して変な目で見て」

「どうしたって・・・そりゃあ・・・」

「ケッコンカッコカリしたいからですよね、扶桑さん」

扶桑はこっくりと頷いた。

提督は数回パチパチと瞬きをした後、

「それなら・・本当は秘書艦当番の時に渡そうと思ってたんだけどね・・」

といって、引き出しから指輪の箱を取り出した。

「へっ!?」

「あれっ?ケッコンカッコカリ、受けてくれるんでしょ?違ったのかな?」

「あ、あの、提督から頂けるんですか?」

「扶桑がどうしても贈りたいっていうなら貰うけど?」

「あ、いえ、あの、その、予想外で・・・付けて頂いても、良いですか?」

「勿論だよ。今までありがとう。これからもよろしく頼むね」

「はい・・・はい・・・」

加賀は薬指のリングを嬉しそうにくるくると回しながら言った。

「提督は他にどなたへ差し上げるおつもりなのですか?」

提督は満面の喜びを讃える扶桑の左手に指輪を嵌めると、加賀の方を向いた。

「なんで?」

「その方に連絡してあげたら扶桑さんのように苦労しなくて良いじゃないですか」

「なるほど。そういえばそうか」

「で?誰なんですか?」

「やたら身を乗り出しましたね比叡さん」

「気合!入れて!聞きます!」

「現時点でLV99っていう時点で相当絞られるでしょ」

「ええと、秘書艦では長門さん、日向さん、加賀さん、扶桑さんですね」

「後は・・文月さん、龍田さん・・・ええと」

衣笠がぽんと手を叩いた。

「あ、経理方の白雪さんもです」

提督は苦笑いした。

「良く知ってるね・・それで全部だよ」

「全員にあげるんですか?」

「白雪は違うかな。面識もないから向こうが面食らうだろ。ちゃんと説明するけどさ」

「日向さんは?」

「貰って欲しいなあ。勿論用意してるよ」

「文月さんと龍田さんは?」

「何故にセット扱いするのかな?」

「じゃあ龍田さん」

「・・・・凄く悩んでます」

「別にケッコンカッコカリしたからと言って魂まで捧げるわけじゃ・・・」

「というか、龍田は私を良く思ってるのかなあ?」

「え?」

「な、なんだよ・・・だってあんなに怖いんだよ?」

「あんなに気を遣って、手を尽くしてくれてるのに」

「表向きの言葉だけで判断するなんて提督もまだまだですね」

「大真面目な話、怖くないですか比叡さん?」

「否定はしません」

「でも・・」

「何だね加賀さん」

「プラチナ会員2号さんですから」

「1号は?」

「私です」

「へぇ・・・って、龍田さんプラチナ会員なんですか!?」

「衣笠がっつり食いついたねぇ。青葉に似て来たね」

「止めてください提督」

「しかし、龍田が、そうか、プラチナ会員だったんだ・・・」

「新たな発見ですね」

「そだね」

「で、それを踏まえたうえでどうされるんですか?」

「・・・聞いてみるよ」

「「指輪要りますか?」とか、間抜けな質問したら間違いなく手を切り落とされますよ?」

「そうなの!?」

「当たり前じゃないですか。そんなこと言われたら私だってお姉様譲りの主砲撃ちますよ?」

「そ、そうか。じゃあ何て聞けばいいんだ?」

「正直に告白すりゃいいじゃないですか。ダメなら振られるだけです」

「超絶恥ずかしいじゃないか。その後しばらく気まず過ぎるし」

「切り落とされるより良いじゃないですか」

「そりゃそうだけど・・・うーん」

「だから迷われているのですね」

「うん」

「・・・加賀さん、提督に甘々になりましたね」

「もうちょっと鍛えても良いと思います」

だが、加賀は提督の手をきゅっと握ると

「きっと指輪のせいです」

と、頬を染めた。

「と言ってますけど扶桑さんは・・・うおわっ!?」

比叡は提督の机の隣でしゃがみこみ、

「うふふふふふふ」

と、指輪をうっとりと眺め続ける扶桑を見つけたのである。

「指輪の威力、凄いですね!」

「まぁその、こんなに喜んでくれるなら何よりだよ」

「で、文月さんは?」

「あの子もどうしたものか迷ってるよ。私をお父さんと呼んでるしね」

「父としてはOKでも夫としてはナシとか?」

「外見的にもそうだろうなって自覚はある」

「養子縁組カッコカリだったらピッタリですよね」

「うん、それならしっくりくるね。文月が承知してくれるか解らないけど」

「既に実の子のようなもんじゃないですか」

「私はそう思って接してるけど・・・」

「文月さんは本当は役職として呼んでたりして」

「うおう」

「で、指輪渡すんですか?」

「ますます悩ましくなりました」

「じゃあ龍田さんと文月さんには渡さないと」

「龍田の場合は渡しても渡さなくても怖いから渡す、文月の場合は渡したいけど憲兵が来そうで怖い」

「別に憲兵さんは来ないと思いますけど。認められてるんですから」

「雰囲気的に、だよ」

「まぁ文月さんに渡した時の青葉さんのヘッドラインはすぐ思い浮かびますよね」

「なんだよ」

「「ロリコン提督、ついに文月にまで手を出す!」」

「そこで2人でハモらないように。それとどんだけ歪曲してるんだよ。報道のありかたに問題がある」

「でも、どう考えても売れそうなタイトルですよね」

「やっぱり!とか言って買って行きそう」

「やっぱりってなんだやっぱりって!」

「まぁまぁ、とりあえず誰に渡すかは解った訳ですけど、指輪はもうあるんですか?」

「用意してあるよ」

ふうむと比叡は考えていたが、

「なら、渡しちゃいませんか?!」

と言った。

 


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