艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

219 / 526
加賀の場合(2)

 

 

現在、朝。鎮守府食堂。

 

「頂きます!」

「いただきます・・」

最初の膳からおかず山盛りの赤城に対し、加賀は軽くよそったご飯とお味噌汁だけだった。

加賀は食事もスロースターターである。少しずつ食べ始め、途中はしっかり、最後は細く。

ご飯にお味噌汁をかけてさらさらと口に運び出した時。

「オッハヨーゴザイマース!」

声で背中を叩かれたかと思う位の元気良い声が飛んで来た。

見なくても解るが、振り向かないのは失礼だ。

「おはようございます、金剛さん・・・おや、今朝は御一人なのですね?」

「オー!加賀良くぞ聞いてくれマシタ!」

「どうしました?」

金剛はしょんぼりとした顔になりながら言った。

「今朝は比叡が当番で、榛名と霧島はまだ帰って来てないのデース・・・」

当番、というのは秘書艦の事だなと加賀は思った。そういえば今日は比叡さんでした。

「榛名さん達は出撃ですか?」

「YES!御昼頃戻ってくる予定デース」

「なるほど。では一緒に召し上がりませんか?」

金剛の表情がぱっと明るくなった。

「良いのデスカー?」

「金剛さんなら、私達とそれほど食事の時間差も無いでしょうから」

加賀が言ったのは訳がある。

赤城や加賀が1回で食べる量は、駆逐艦や燃費の良い軽空母の何倍にもなる。

頑張って早く食べるようにはしているが、駆逐艦達と一緒に食べると長く待たせる事になり、可哀想なのである。

ちなみにその加賀でさえ、赤城が食べ終わるまではゆっくりお茶一杯飲むくらい待つ事になる。

「では、膳を持ってきマース!」

金剛が手にした膳を見た時、加賀はおやっと思った。

「・・朝はサラダだけなのですか?」

金剛はもぐもぐと口を動かしながら、きょろきょろと首を振った後、ごくんと飲み込み、

「違いマース。これはアペタイザーね」

「・・・ええと?」

「これからメインディッシュを美味しく頂く為に、軽く食べ始める物デスねー」

加賀はがぜん興味を示した。自分のペースに合っている食事法かもしれない。

「この後はどうなるのですか?」

金剛はにこっと笑った。

「ご覧に入れますヨー、ちょっとペース上げて頂きますネー」

デザートを食べながら、加賀は金剛に言った。

「前菜、主菜、締め、そしてデザートという順番なのですね」

「そうなりますネー。一般的なコース料理デース」

「コース料理・・・」

「加賀もコース料理が良いなら提督に言えば良いネー」

「そうですね。私は最初から主菜が入らないので」

「今日は比叡ですから補足説明してくれるかもしれませんネー」

「なるほど」

「加賀、おかげで楽しい朝食になりました。ThankYouネー!」

「いえ、こちらこそ良い事を知りました。ごちそうさまでした」

「では、またネー」

ぶんぶんと手を振りながら去っていく金剛を見送ると、赤城は

「金剛さんと一緒に居ると元気をもらえますね」

と、ニコニコ笑っていた。

「そうですね・・・どうしようかしら」

「コース料理への切り替えですか?」

「ええ・・でも私だけはワガママかしら?」

「それなら私も食べましょうか?」

「えっ?」

「私は美味しければ何でも良いですし、加賀さんが美味しく食べられるなら、その方が嬉しいです」

加賀はにこにこ笑いかける赤城を見て照れた。

赤城さんは本当に躊躇なく懐深く飛び込んできます。

「あ!蒼龍ちゃーん!飛龍ちゃーん!」

赤城が二人を見つけると席を立ち、

「コース料理食べませんかー?」

加賀は思った。補足説明をどこから始めるべきか。きっと二人は頭の上に疑問符が付いている。

振り返って頷いた。やっぱり。

 

「正規空母の食事を、コース料理に変えたい?」

提督は比叡に承認した書類の束を手渡しながら、説明をした加賀と赤城に聞き返した。

「はい」

「どういう流れでそうなったんだい?」

「今朝、金剛さんが御一人で食堂にいらっしゃいまして」

バサバサバサッ・・・・

3人が音のした方を向くと、書類を取り落し、涙をほとほとと流している比叡が居た。

「私とした事が・・お姉様可哀想・・お話しながら食事するのを何より楽しみにされているのに・・」

加賀が慌てて

「で、ですから御一緒にどうですかとお誘いして、一緒に頂いたんです」

光の速さで加賀に寄り、ぎゅっと手を握った比叡は

「ありがとうございます!お姉様が寂しい思いをしなくて済みました!この御恩は必ずお返しします!」

「あ、いえ、ど、どういたしまして」

提督は手をパタパタと振りながら、

「あー・・比叡、解ったから書類拾っといて。それで、金剛が関係あるのかな?」

「は、はい。金剛さんはコース料理じゃないですか」

「まぁ金剛というか戦艦は全員そうだね」

加賀がもじもじし始めたのを見て、赤城が継いだ。

「加賀さんは、食べ始める時に山盛りのおかずを見ると、胸焼けがして食べられなくなるんです」

「私は赤城が食べ終わった後の皿の山を見ると食欲がなくなるけどね」

「それは置いといて」

「まぁ慣れたけど」

「それで、金剛さんの前菜、主菜と徐々に食べる食べ方の方が嬉しいと」

「ふーん」

加賀は俯き加減に頬を染め、人差し指をもじょもじょと絡めていた。

こういう仕草はあまりしないので、提督は可愛いなと思って眺めていた。

「・・提督?」

「んえ?」

「んえ、じゃなくてですね、コース料理に変えても良いですか?」

「加賀の理由は解ったけど、赤城達はそれで良いの?」

「私は美味しければ良いですし、飛龍達もご飯が減らなければ良いと」

「・・・比叡、文月を呼んでくれ」

「はーい」

 

「お父さん、お呼びですか?」

「解るかどうか解らないんだけど、赤城の1食の内容とコース料理ってどっちが高いの?」

「赤城さんの1食に勝てるコース料理なんてないですよ?」

「即答だね」

「即答です」

「ええと、次の質問ね」

「はい」

「赤城が食べる分をコース料理にした場合、今とどっちが高い?」

ついに赤城が口を尖らせた。

「提督っ!どうして全ての基準が私なんですかっ!加賀さんの悩みなのに!」

きょとんとした顔で提督と文月が赤城を見返すと、

「だって・・なぁ」

「一番高額な方で算段を付ければ、後は減らすだけなので」

「うん」

「当たり前のように私が一番食べるって!証拠はあるんですか証拠は!」

「赤城・・・」

「なんですか提督?」

「文月の情報収集・集積能力を甘く見るなよ?」

「え?」

文月は目を瞑り、人差し指を立ててそらんじた。

「赤城さんが先月購入した、ボーキサイトおやつの量は28.6kgです」

「どうしてそんな事をすらすらと!?」

「余りにも衝撃的な量だったので覚えてました」

「そもそもどうして個人別の量を知ってるんですか?」

「間宮さんのマーケティングデータは完璧なので」

提督は頬杖をつきながら

「ちなみに2位は?」

「確か・・瑞鶴さんが2~3kg位です。ただ、多分翔鶴さんと一緒に召し上がってるので・・」

「何その桁違い」

「他にも鳳翔さんの所で、食後にあんみつを桶に盛らせて15人前召し上がったとか」

「何故知ってるんですか!」

「直後に鳳翔さんのお店に行って、あんみつを注文したら売り切れと言われたので訳を聞いたんです」

「げっ」

「メニューに「桶盛り」を作った方が良いでしょうかと真剣な眼差しで聞かれました」

「何て答えたんです?」

「赤城さんしか食べないから特注扱いで良いだろうって言いました」

「通常メニューになれば安くなったかもしれないのにぃ」

だが、赤城を除く全てのメンバーが声を揃えて

「間違って頼んだら大変な事になるからダメ」

と、拒否したのである。

「となると、赤城ベースで考えても仕方ないか。突出し過ぎてるね」

「赤城さんが召し上がるという要素も踏まえつつ、という意味で考えると」

「そっか。じゃあ加賀さんくらいの普通の人を基準にすればいいんだな」

「私は何なんですか?」

「聞きたいかね赤城さん?」

「なんか嫌な予感しかしないから良いです」

「賢明だね」

「正確な単価ベースやその他の事情も考えると、間宮さんに確認した方が良いと思いますよ」

「ふむ・・じゃあ聞きに行く方が早いか。この時間だと昼の仕込みをしてる頃だろうしな」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。