艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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天龍の場合(45)

 

 

村雨が入社して1週間目の休日。海の見える高台の上。

 

浜風の問いに、ビスマルクはひょいっと浜風の方を向いた。

「貴方はここで何がしたいのかしら?、ってやつ?」

「はい」

「そうね。1つはマニュアルじゃない答えを聞きたいって事。あとは・・」

浜風と村雨の視線を一身に浴びたビスマルクはにっと笑うと

「仲間に迎えたい位、何かを思ってる奴かって事よ」

ふーんという表情で浜風はビスマルクを見た。

「てことは、村雨さんの回答は仲間に迎えたいと思ったわけですね」

「そうよ。働く事で友達に恩返しなんて面白い事言うなあって」

「不知火さんの場合は?」

「もちろん提督との恋路が気になったからに決まってるでしょ!」

「さっきと目的違ってるじゃないですか」

「仲間に迎えたいという点では一緒よ!」

「ウォッチしたいだけじゃないですか!」

「毎日楽しいじゃない!」

浜風は深い溜息を吐いた。

不知火さんだから心配ないと思いますが、ほだされて迷ってはいけませんよ・・・

「でも、不知火さんったら事務方が性に合ってるんでって言って、全然興味持ってくれないの」

村雨と浜風は黙ったまま頷いた。

「そうだ、村雨さん」

「なんでしょう?」

「どうやったら不知火さんを引きずり・・・いえ、雇えるかしら?」

村雨は即答した。

「提督と恋仲になる決定的な何かがあれば」

「決定的な何かって?」

「有無を言わさずケッコンカッコカリ出来るとか」

がばりと浜風が立った。

「それなら私がっ・・・・あ」

村雨はうっかり反応して呆然と立ち尽くす浜風を指差すと

「ね?」

と言った。

ビスマルクはふーむと腕を組むと

「なるほど・・・食いつかせるには餌が足りないって事ね」

「釣りじゃないんですから」

「似たような物よ」

一瞬、浜風は不知火が無表情のまま釣れている姿を想像し、変なの・・と思った。

「まぁ良いわ、そろそろちゃんと釣りしましょ」

「不知火さんのですか?」

「お魚さんの方よ」

「はーい」

 

 

現在、鎮守府経理方の会議室。

 

「で、釣りをして帰ってくるのが休日の楽しみになったの」

白雪と川内はほうっと溜息を吐いた。

「なんだ、すっかり仲良しさんが居るじゃないですか」

「社長との話は気疲れしたりしないの?」

「んー、釣りの時の社長は社長っぽくないから平気ですね。普段はキリッとしてて怖いんですけど」

「そっか」

「じゃあ、救援隊に出て行ってもらわなくて大丈夫ね?」

「あ、はい。大丈夫です。それに・・・」

「それに?」

「もし、どうしても寂しいと言ったら、きっと薫さんは辞める事を許してくれると思います」

「・・そっか」

「その時は経理方で雇ってください!」

「入隊試験があります」

「うええっ!?」

「バンジージャンプと実弾夜戦演習と、あと何してもらおっか?」

「ちょ・・」

「面接は外せないですよね」

「だっ・・誰のでしょう?」

「とりあえず1次面接は私、2次が不知火さん、3次が文月さん、4次が加賀さん、5次が龍田さん」

「どう考えても落す為の面接というか、生きて帰れないじゃないですか」

「ソロル鎮守府は甘くないのです」

「みー」

白雪はくすっと笑った。

「だから村雨さんは、しっかり今の場所で頑張ってください」

「だよね。皆に一生懸命後押ししてもらってやっと入ったんだもんね」

「はい。それに」

「それに?」

「少なくとも月1回は、私達と会えますから」

「天龍先生とも会いたいなあ」

「あぁ、だったらご飯食べていけば良いじゃないですか」

「2000時までに先生来るかな?」

「連絡したら来ると思いますよ・・ちょっと待ってください」

白雪がインカムをつまみ、話す様子を見て、村雨はおぉと頷いた。

インカムを付けるという事は、受講生等の外部関係者ではなく、鎮守府所属の艦娘になった事を示す。

天龍はずっとインカムを付けていた(滅多に活用しないが)が、白雪達が受講生の間は貰えなかったのだ。

「どうかしましたか?」

白雪の問いに、村雨はにこりと笑うと

「ううん、白雪ちゃん、インカム良く似合ってるよ」

そういうと、白雪は嬉しそうに微笑んだ。

「天龍先生、どうにかして19時には食堂に来てくれるそうですよ」

 

「おっ、なんかOLっぽくなったなあ村雨!」

夕食を人数分用意して待ってると、天龍と伊168が5分位遅れてやってきた。

「OLっぽいってなんですか?」

「大人っぽくなったなって事だよ!」

「で、天龍先生は伊168さんに感化されて遅刻魔になったんですね?」

そう言うと伊168はべーっと舌を出し、

「違いますぅ。明日から受け入れる子達の準備をしてたんだからねっ!」

村雨が天龍を見た。

「私達の後輩ですか?」

「またクセの強そうな奴だぜ。しばらく来ねえから楽だったが、4人同時と来たもんだぜ。マッタク」

村雨が目を細めた。

「その子達も幸せな未来に切り替えてあげてくださいね、先生!」

天龍はにっと笑うと

「おう、この天龍様に任せとけってんだ!」

といった。

「さぁさぁ食べましょう。お蕎麦が乾いてしまいますよ。今晩は天ざるですから~」

ギクリとした様子で天龍が固まった。

「む、村雨・・・頼む。キスの天ぷらだけは勘弁してくれ」

村雨がぱたぱたと手を振った。

「学生じゃないんですからおかず取ったりしませんよ」

「そ、そっか」

「デザートの団子1つで勘弁してあげます」

「!?」

天龍はハッとして自分の膳と他の人のを見比べた。

皆の膳にはデザートの串団子は2串6個、自分は1串3個。

天龍は抗議の声を上げた。

「おっ、おいおいおい、さすがに1つと言って1串まるごとはナシだぜ村雨ぇ」

「私が食べたのは1個だけですよ。串ごとはさすがに」

天龍はジト目で残るメンバーを見たが、ふっと笑った。

「祥鳳、伊168、お前達だな?」

「証拠でも?」

「伊168、口の端に餡子。祥鳳、膳の下に串押し込んでるだろ?」

「!!!」

村雨が声を上げた。

「先生すご~い!正解ですよ~」

「へっへーん。ちゃんと御見通しなんだぜっ!」

「じゃあ天ぷらも当てちゃってください」

「!!?」

天龍が目を向けると、自分の膳から天ぷらが綺麗に消えていたのである。

良く見ると天龍を除く全員の口がかすかに動いている。

天龍が涙目で両手の拳を振りながら言った。

「ちょ!!お前ら!俺の天ぷら盗るんじゃねぇ!」

白雪達は自分の皿から1つずつ天ぷらを天龍の皿に戻すと

「食べてないですよ~」

「お団子も返しますよ~」

「ほらほら、泣かない泣かない」

と、ぐしぐし泣く天龍の肩をぽんぽんと叩きながら言ったのである。

 


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