艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

215 / 526
天龍の場合(43)

 

村雨の入社から1ヶ月経った後。鎮守府経理方の会議室。

 

「休日に一人黙々と釣りって、かなり寂しい絵じゃないですか?」

白雪は完全に眉をひそめていたし、

「平日で気を遣い過ぎて、一人になりたいとか?」

と、川内も心配そうな表情に変わった。

しかし、村雨は手を口に当てると、

「あ、違う違う!一人じゃなくて、社長と、浜風さんと3人だよ!」

白雪達は首を傾げた。

「どういうつながりで?」

村雨はうーっと唸った後、喋り出した。

「さ、最初、最初はね、川内ちゃんの言った通り、毎日すっごく気疲れしてたんだ」

「やっぱり」

「でね、1週間終わった土曜日に、工場沿いの海辺を散歩してたんだ」

「縦線背負ってとぼとぼ歩いてる姿が容易に想像つきます」

「抱え込まないで相談してきなよって言ったのに」

「だ、だって、いきなりそんな事言ったら心配させちゃうじゃない」

「入社式の夜の電話の時点でバレバレです」

「うぇっ!?」

「だから天龍さんと村雨さんを取り戻しに行く可能性も検討してました」

「ふえええっ!?」

「・・・・で?」

「えっ・・ええとね、散歩して、島の裏の方まで行ったんだ」

「結構足場が悪く無かったですか?」

「ううん、砂利の細い遊歩道みたいなのがあったよ?」

「おや、いつの間にそんな道が」

「その道沿いに歩いていったら、浜風さんが居たの」

「ほうほう」

「何してるんですか~って聞いたら、これから釣りをするんだって」

「へぇ」

 

 

村雨が入社して1週間目の休日。海の見える高台の上。

 

「これから釣りをする所ですよ」

浜風は袋から折り畳み椅子を取り出しながら言った。

「随分重装備ですね」

村雨は浜風の周りを見た。幾つもの袋やバッグがある。一人で持って来るには多すぎる。

「ボスは快適にしたがるので。あ、ボスは今、忘れ物を取りに行ってます」

「ボス?」

「あぁ、ええと、ビスマルク社長です。ボスは深海棲艦時代の呼び方なんですが、その方が慣れてるので」

「なるほど」

「そうだ、これから時間はありますか?」

「えっ?私?」

「はい」

「あ、大丈夫ですけど」

「なら、一緒に釣りをしてみませんか?村雨さんのお話聞きたいなって思ってたんです」

「え?私の事ご存じなんですか?」

「ええ。ボスがあの問いを仕掛けて突破した2人目の人ですからね」

村雨は一瞬考えて、はたと思い出した。

「あ、面接の」

「です」

「あの答えは見事だったわ!」

村雨と浜風が声の方を向くと、私服姿のビスマルクが居た。

「わあ、可愛いですね!」

村雨のコメントにビスマルクは目をキラキラさせると

「そう!?そう?!普段がちょっと露出高い制服だから、休みの日はロングスカートとか良いなって」

「お洒落なお嬢様って感じです」

「もー上手いんだからぁ、しょうがないわねぇ、椅子もう1つ持って来るわね。そこに座ってなさい!」

と、パラソル付の椅子を指差すと、元来た道を帰って行った。

「あっ、手伝いますよ!」

浜風がついて行こうとしたが

「大丈夫よ~!すぐ帰ってくるから~」

そう言いながら、ビスマルクは軽やかな足取りで行ってしまった。

「なんだか申し訳ないですね・・・」

浜風はにこりと笑うと

「いえ、ボスは喜んでましたし、良いと思いますよ。じゃあサイフォン出すの手伝ってください」

と言いながら、折り畳み式テーブルを広げた。

「解りました!」

 

戻ってきたビスマルクを挟む格好で、3人で座った。

「浜風はね、深海棲艦の時、ずっと私を守ってくれたのよ」

ビスマルクがそう切り出すと、浜風は少し頬を染めながら返した。

「その前に、私を拾ってくれたのはボスじゃないですか」

「最初の出会いは凄かったわよねぇ」

「ど、どんな感じだったんですか?」

村雨がそっと尋ねると、ビスマルクはマグカップのコーヒーを啜ってから答えた。

「浜風さんはタ級で、私はリ級だったんだけど、最初にあった時は酷く怒ってたわよね?」

ビスマルクがそう言うと、浜風はバツが悪そうに海の方を向きながら言った。

「あまりに悔しい戦いで轟沈したので、敵にも味方にも腹が立って腹が立って、気付いたらタ級でした」

「私はその時、既に結構長い事深海棲艦をやってたし、軍閥を率いてたけど、たまたま一人の時だったの」

ビスマルクは水平線の先を眺めながら言った。

 

 

遙か昔。

 

「ソコヲドケ!」

タ級(今の浜風)は苛立っていた。

今の何かに苛立っているのではなく、自分が沈んだ経緯に苛立っていたのだ。

納得が行かない。とにかく納得が行かない。沈んだ事にも、深海棲艦になった事にも。

リ級(今のビスマルク)はタ級に言った。

「ドクノハ構ワナイケド、オ話聞カセテクレナイカシラ?」

タ級はギヌロとリ級を睨みつけた。

「・・・ナニ?」

しかし、リ級は全く動じなかった。

「ナンデ、ソンナニ、イライラシテルノ?」

「・・・関係ナイ」

「ソウネ、全ク関係無イワ。ダカラヨ」

「・・・ダカラ、ダト?」

「タ級ニナルッテ、余程ノ怒リガ無イトナラナイモノ」

「・・・」

「私モ阿呆ナ司令官ノセイデ、燃料切レデ停泊シテタ所ヲ袋叩キニサレテ沈メラレタ訳ダケド」

タ級がリ級を二度見した。

「ナ、ナニ!?燃料切レ?」

リ級は肩をすくめた。

「ソウヨ。阿呆モ良イ所デショ?」

「信ジラレナイ阿呆ダナ」

「ソレデモ、リ級ナノヨ。タ級ニナルッテ、何ガアッタノカナッテ、ネ?」

「・・・司令官ガ、主砲ノ弾ヲ積ミ忘レタ」

リ級は目を見開いた。

「ハー!?」

「私ハ単縦陣ノ最後尾ニ居タカラ、ボス戦マデ出番ガ無カッタカラ気付カナカッタンダ」

「ソレデ?」

「私ハ帰還シヨウト必死ニ回避シタ。デモ、隣ノ艦ニ当タッテ進路ガ変ワッタ魚雷ガ私ニ直撃シタ」

「エー!?」

「モット早ク気付イタラ!主砲ニ1発入ッテタラ!後チョット魚雷ガズレタラ!回避出来ル距離ガアッタラ!」

「・・・ソリャ、納得デキナイワネ」

「デショ!モウ悔シクテ悔シクテ!」

「解ルワァ。私モ後チョット燃料ガアレバ港ニ逃ゲ込メタモノ」

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。