艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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天龍の場合(37)

 

鳳翔との夕食後。鳳翔の店の玄関先。

 

「御馳走様でした!」

「またいらしてくださいね」

帰ろうとした面々に、鳳翔はお礼だと言って甘味無料券を1人ずつ手渡した。

「いや、休ませてくれて夕食食わしてくれたんだから良いって」

と、天龍は遠慮したが、鳳翔はにこりと笑い、

「それはそれ、これはこれ、です」

といってぎゅむっと掴ませたのである。

「鳳翔の店の甘味類は割と良い値段するし、悪い事しちゃったなぁ」

川内がにこっと笑った。

「そうかなあ。鳳翔さん嬉しそうだったよ?」

「んー・・そうか?」

村雨が頷いた。

「境遇や苦労を解ってくれる人が居るって本当に嬉しいですから、ね」

伊168が村雨の頭をぐりぐりと撫でた。

「あたし達はちゃあんと村雨の苦労を解ってるからね~」

「あうぅ・・ありがとうございます」

「良い子良い子~」

白雪がくすっと笑った。

「伊168さんて、気に入った子の頭を撫でるのがクセですよね」

「あー、そうかも」

「頭を撫でられると安心しますから、良いんじゃないでしょうか」

村雨がピタリと歩くのを止めた。

「どうしたの?」

伊168の声に振り向いた天龍は、村雨を見てびくっとなった。

村雨が泣きだしていたのである。

 

「お、おい、村雨・・どうした?」

「なんか辛いこと思い出したの?」

村雨をそっと囲む5人に、村雨はしゃくりあげながら言った。

「わっ、私・・・こんなに・・・こんなに楽しい時間を過ごした事なかった・・・」

「伊168さんも、白雪さんも、川内さんも、祥鳳さんも、天龍先生も、皆優しくて、親切で」

「毎日楽しくて楽しくて、あっという間に過ぎていっちゃった」

「しっ、白星食品に・・合格したの・・嬉しいけど・・ここから離れるの・・辛いよ・・寂しいよ」

「今日も・・皆で・・行ってくれて・・嬉しかった・・心強かった・・楽しかった・・」

「時間が・・こっ・・このまま・・止まって・・欲しい・・よ・・別れるの嫌だよ」

そう言うと、村雨はそっと抱きしめた伊168にすがりついて泣きだした。

天龍は目を瞑り、しばらく腕組みをして考えていたが、白雪をついついと突き、ひそひそと話をした。

白雪は聞く途中から

「ええっ!?」

「そ、それは・・出来ますけど・・」

「大丈夫なんですか?」

などと、異を唱えるような言葉を返していたが、最後には

「・・・まぁ、それなら」

といって折れたようだった。

天龍は村雨の肩を叩き、

「まぁ、そうしょげるなよ。でも、思いは解ったぜ。だから最後に一働きしてやる」

「・・・ふえ?」

「成功するかは解らねえ。でも成功しようが失敗しようが、俺達はずっと村雨の味方だぜ!」

ぐいっと親指を立てる天龍に、

「・・・はい」

と、村雨は泣き笑いの顔を返した。

 

その夜遅く。

 

「・・・まぁ、そうねぇ、それはもっともなんだけど・・・」

と、龍田は言うと、首を傾げながら、

「でも、どうして天龍ちゃんがそんな事に気付いたの?」

と言った。

「えぅっ!?そっ、それ・・は・・」

「それは?」

「・・・」

「・・言いにくい事なのね?」

「・・・うちの村雨がさ、すげぇ悲しそうに泣いたんだ」

「あらぁ?白星食品に合格出来なかったの?」

「いや、合格したんだけどさ、したからこそ俺達と疎遠になっちまうだろ」

「まぁ、そんなに軍と食品工場に接点は無いものね」

「村雨は俺の教室で過ごした時間が、本当に楽しかったらしいんだ」

「・・・深海棲艦になる程、辛い過去だったから余計なんでしょうね」

「初めて、心から楽しい時間を過ごして、いきなりぶっつり疎遠になるのが寂しくて仕方ねぇって泣くんだよ」

「でも・・同じ敷地内なんだし、提督は食堂とか売店とか立ち入って良いって言ってるわよね?」

「そうなんだけどさ・・」

「それを認めちゃったら、他の子も最初は寂しいと思うのよ?」

「それも龍田の言うとおりで解ってるんだけど、なんか、なんか引っかかるんだよ」

「・・・・勘、ってことね?」

「ああ」

龍田は頬杖を突いた。自室で天龍と二人きりだと、龍田もフランクである。

「んー、天龍ちゃんの勘は外れないからなあ」

「甘やかす前例になりかねねぇのも解るんだけどさ・・・」

「天龍ちゃん。ええと、白雪さん達は私情抜きに信用して良いのね?」

「俺は大丈夫だと思う。だが、龍田に確認して貰えれば万全だ」

「1度皆には会ってるけど、しっかりお話したのは川内さんだけだから、もう1度会わないとダメね」

「具体的な話は後でも良い。でも時間があまりねぇんだ。判断だけしてくれねぇか?」

龍田は溜息を吐くと

「良いわ。今度の日曜日は空いてるから面談しましょ。でも・・」

「なんだ?」

龍田は目を細めると

「その子達は清濁併せ呑む事になるから、本気で面談するわよ?」

天龍は頷いた。

「あぁ。後で辛くなるなら最初から没になる方が良い」

「了解。天龍ちゃんの頼みじゃ、しょうがないわねえ」

 

土曜日の夕方。

「た、龍田さんの面接!?白星食品の面接より怖いよ!しかも明日!?」

「ハラショー。川内と一緒に居られる手段が出来るなんて渡りに船だよ」

「本当に話をまとめて来たんですね・・」

「まぁ、100%艦載機と縁が切れるお話ですからそれも良いかと思いますけど・・急ですね」

「あたしだけ元の計画通りかぁ。ま、先生と仕事するんだから良いけどね」

天龍から計画と進捗を聞かされた5人は三者三様の反応を見せたが、

「ま、村雨ちゃんの為に一肌脱ぎますか!」

と、にっこり笑って頷いた。天龍は頷きながら、

「村雨には結果がまとまるまで内緒な。ぬか喜びさせたら可哀想だからさ」

と、人差し指を唇に当てた。

明日、どうか上手く行ってくれ。

 

 

そして迎えた日曜日の朝。

 

「じゃぁ、川内さん、入ってください」

「・・・失礼いたします」

「時間が短いから、悪いけど単刀直入でお話するわね」

川内はごくりと唾を飲んだ。相変わらず視線だけでも滅茶苦茶な迫力だが、村雨と響の為だ。

お姉ちゃんとして、私、頑張る!

 

数分後。

 

「では、失礼します」

一礼してドアを閉めた川内に、4人が近寄った。

「な、なぁ、感触はどうだった?」

「やっぱり銃を突き付けられたのかい?銃声は聞こえなかったけど」

「質問はどんなことをされましたか?」

「ちょ、ちょっと、一度に聞かないで。順番に・・・」

しかし、その時ドアが開くと、

「次、白雪さん、どうぞ~」

と、龍田がにゅっと顔を出しながら言ったのである。

 

御昼の鐘が鳴った。

 

「はぁい、面接はこれで終わり。皆を呼んできて~」

「解りました。龍田さん、休日に時間を割いて頂きありがとうございました」

「いいのよ~」

祥鳳が呼びに行くと、天龍達が部屋に入ってきた。

龍田はしばらく考え込んでいたが、目を瞑ったまま口を開いた。

「1つだけ、お願いがあるの」

白雪が静かに見返した。

「なんでしょうか?」

「始めるきっかけは村雨ちゃんの為だけど、村雨ちゃん以外の為にも全力を注いでくれるかなぁ?」

響がにこっと笑った。

「やるさ」

「じゃあ、ご飯を食べた後、ちょっと知恵を貸してほしいな」

「?」

「提督の説得工作。成功したら合格って事で」

「!」

 

 


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