艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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天龍の場合(32)

 

例の質問にどう答えたかを村雨が説明した直後、教室棟。

 

祥鳳は村雨の内容をじっと聞いていたが、やがて白雪の方に向いた。

白雪と祥鳳はうむと頷きあった時、天龍は村雨に尋ねた。

「それで全部か?敷地出るまで他に無かったか?」

村雨は考えていたが、

「後は面接会場の棟からゲートまで最初の面接官の子が送ってくれましたけど、それは・・」

白雪がハッとしたように顔を上げた。

「むっ、村雨さん!その話、詳しく!」

「えっ!?ええっと、社長面接終ってホッとしてたのであまり覚えてないんですけど」

「覚えてるだけでも!」

「ええとええと、面接官の子が薫ちゃんていう名前だって聞いて、その子も深海棲艦だった元艦娘で・・」

考え込む村雨に、白雪がそっと尋ねた。

「社長面接の事、何か聞かれましたか?」

「あ!うん!聞かれた!良く解るね白雪ちゃん」

「何て答えましたか!?」

「えうっ!?え、えと・・言いたい事は言えたつもりとか、受かるかどうかはビスマルクさん次第とか」

「悲観的な事や悪口は言ってませんね!?」

「・・・それは無いです。薫ちゃんと一緒に仕事したいねって言ったの覚えてます」

「その方の特徴は?」

「艦娘の頃が皐月ちゃんだったってだけあって、金髪で、ちっちゃくて可愛い子です」

「薫さん・・・薫さん・・・どっかで聞いたような・・・・」

白雪がガタリと立った。

「天龍さん、ソロル新報のバックナンバーは?」

「んお?確実にあるのは青葉達の所か、提督のとこだな」

「青葉さんの所に行きましょう!」

 

コン、コン。

「はーい」

「おっす、衣笠。邪魔したか?」

「大丈夫だよ。明日の原稿も決まったし」

「悪ぃけど、バックナンバーで調べたい事があるんだよ」

「記事検索ならそのパソコンでやったら?使って良いよ」

「ほんとか?どうやるんだ?」

白雪が飛び出てパソコンの前に座ると、

「やり方教えてください!急いで調べたい事があるんです!」

と言った。

白雪の真剣な様子に衣笠は席を立つと、一通りきちんと教えてくれた。

「ありがとうございます!」

しばらくタカタカと打っていた白雪は、1枚の記事をじっと見つめた後、

「村雨さん!この人じゃないですか!」

と言った。

村雨が画面を覗き込むと、昨日親しく話した子の顔があった。

「あ、そうそう。この子だよ。なんか緊張してるねこの写真。実物の方が可愛いよ」

「あの、む、村雨さん、ここ・・・」

白雪が指を震わせながら、写真の下を指差した。

全員が白雪の指先を負うと、そこには

 

 経理部長 柳田 薫

 

と、書いてあった。

「え?え?何?この子がどうしたの?」

不思議そうにする衣笠を除き、5人は硬直し、白雪は溜息を吐いた。

最初に村雨に声をかけたのは天龍だった。

「お、おい、村雨・・・しっかりしろ」

ふるふると揺さぶったが、村雨は放心していた。

 

「あはは・・部長捕まえて頭撫でちゃったよ・・・終わったよ私。」

 

と呟きながら。

伊168は優しい目で村雨の肩を叩いた。

「どうせどう足掻いても明日は来るんだよ」

川内が村雨の頭を撫でた。

「しゃーない!ケーキバイキング奢ってあげるよ!」

祥鳳はそっと肩に手を置いた。

「そうよ、事務方に就職って手段もあるかもしれないわ」

白雪が頷きながら言った。

「いっそ天龍先生の助手になって私達と仲良くやりましょう」

天龍が眉をひそめた。

「お、おいおい。待てよ。結果を見ずに諦めるな」

村雨が振り返ったが、既に涙目だった。

「だって!部長ですよ!知らなかったとはいえ頭撫でて友達口調で話しちゃったんですよ!」

「それでも、だ。もう結果は決まってる。やれる事はやった。だから腹括って明日見てこい」

「う、うぅぅぅぅ・・・怖いよ~」

天龍は溜息を吐くと、村雨に笑いかけ、

「しゃあねぇなあ・・・んじゃ明日は全員で行こうぜっ!」

「・・・へっ?」

「お、良いですねそれ」

「工場入った事無いんだよね~」

「発表は工場のゲートのすぐ内側ですよ?」

「ちょっとでも入れれば良いの!」

「もし村雨さんが落ちてたら、皆でそのままヤケ食いしましょう」

「良いね良いね!明日は確か、鳳翔さんの店で串カツバイキングやってるよ!」

天龍が後ずさった。

「お、おいお前ら。俺は鳳翔の店で6人分奢れるほどの金なんて持ってねぇぞ?」

村雨がすっと振り向いた。

「じゃあこうしましょう。私が合格してたら5人で先生の分を奢ります。ダメだったら私達に先生が奢ってください」

白雪達もこくりと頷いたが、天龍は冷や汗をかきながら

「ま、待て村雨。今から自暴自棄になるな。ていうか物凄く不利じゃねぇか俺」

「・・・や、やっぱり先生、私が落ちてると・・・」

「ぐっ!い、いや、そうは言ってねぇんだが・・・」

「受けますか!」

「わ、解った・・・解ったよ・・・ATM何時までだっけ・・・」

祥鳳が何か言いたげに口を開きかけたが、白雪にしーっと人指し指を当てられた。

「じゃ、そういう事で。明日はそれじゃあ鳳翔さんの開店時間に合わせましょう」

「ええっと、11時開店だよね!」

「そうです。というわけで、10時45分に白星食品正面ゲート前に集合しましょう」

「はい!」

天龍は無意識にガシガシと親指の爪を噛んでいた。

龍田からみっとも無いから止めろと言われているのだが、極度に緊張した時にどうしても噛んでしまう。

5人が衣笠に挨拶して出て行った後も猛烈に思考回路を働かせていた。

村雨自身は落ち込んでたが、俺の見立てでは、村雨は合格してる気がする。

もし村雨の事を落とすなら、どうでも良いのだからゲートまで送る理由がねぇ。

そしてそこまで腹黒い奴を部長に据えるほどビス子は阿呆じゃねぇ。

多分、多分大丈夫。大丈夫なんだが・・でも万が一。

一人ぽつんと残った天龍に、衣笠が話しかけた。

「あの、大丈夫?」

「な、なぁ・・・衣笠」

「なぁに?お金なら無いよ?」

「ちげーよ・・・鳳翔の串カツバイキングって一人幾らだ?」

「ん?ええとねぇ・・・」

衣笠はチラシの山をペラペラとめくると、

「あった!ええとね、一人税込2700コインだって。まぁ鳳翔さんの店としては破格だよね」

すうっと青ざめる天龍。全員で2万弱じゃねぇか・・・

がくりと肩を落として帰ろうとする天龍を見て、衣笠は思い出したようにゴソゴソと机を漁り始めた。

「ちょっとだけ待って!」

「あー?」

「あった!」

とてとてと近寄って来た衣笠が手渡したのは、鳳翔の店の割引券だった。

「これで2割引になるよ!期限も切れてないし大丈夫!あげる!」

天龍は涙目で、無言のまま衣笠をぎゅっと抱きしめた。

部屋の外では青葉がメモを取るか取るまいか悩んでいた。

天龍と衣笠の恋路なんて特ダネだ。でも姉としては妹の幸せを祈りたいけど百合の道?でもジャーナリストとして・・

思いつつそうっと覗き込んだ青葉を見つけた衣笠は

「あ、姉さんおかえり。ほら天龍、いつまでも泣いてないで!村雨ちゃんが合格してりゃ良いんでしょ!」

と、パンパンと背中を叩いた。

青葉は首を傾げた。百合展開にしては軽すぎますね。私を見ても驚かなかったし。

しばらく様子を見ましょう。証拠固めが大事です。

 


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