艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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天龍の場合(30)

 

村雨が1人の女の子と夢中でアイデア合戦をしている午後、白星食品の面接控え室。

 

入室からまもなく30分になろうとする頃。

「・・メタボ対策で全社的に事務用椅子を取り払った。後は何かあるかなあ?」

「もう書く所が無いですよ」

「あ、そっか。貴方のおかげで沢山出たわぁ」

「いえ、私もこんなに楽しく時間を過ごせるとは思ってませんでした」

「それにしても、まだ面接始まらないのかなあ。もう30分近く経つよね」

「あ、あの、村雨さん」

「うん?・・・あれ、どうして私の名前知ってるの?胸のプレートは受験番号だけなのに・・・」

するとその子はポケットから眼鏡を取り出すと、すちゃりと掛け、

「ええと、1次面接は合格です。これから2次、つまり社長面接を受けて頂きます」

村雨はきょとんとしたが、数秒後。

「あ、ああ、貴方、面接官だったの!?」

するとその子はにっこりと笑い、

「はい。とっても楽しい面接でした!」

と言った。

村雨は、ずしゃりと床に座りこんだ。白星食品恐るべし!こんな面接知らないよ!

面接官の子は目を白黒させると

「だ、大丈夫ですか?どこかで座りますか?」

「う、ううん・・あ、お手洗い行っても大丈夫かなあ?」

面接官の子はこくりと頷き、

「大丈夫です。ただ、すみませんが同行させて頂きます。外部との通信は失格になりますから止めてくださいね。」

と言った。

 

お手洗いから第2面接会場に移る間、村雨は面接官の子と話をしていた。

面接官の子は社員で、昨日急に指名されたのだという。

「部屋で眼鏡外して、椅子が無い事を話題に30分お話しして、条件に会えば連れてきなさいと言われて」

「・・・どんな条件で合格になるの?」

「それは、ごめんなさい。言えないんです」

「あは、そうだよね。ごめんね」

「・・・・」

面接官の子は周囲をちらちらと見ると、村雨の耳元で

「社長は今日、ちょっと機嫌が悪いです。話を遮ると悪化するので、じっと聞いて吉です」

と、囁いた。

村雨は驚いて面接官を見たが、面接官の子はにこっと笑った。

「楽しかった御礼です」

そして、1つのドアの前に立つとコンコンとノックして僅かにドアを開け、首だけ突っ込むと

「失礼しまぁす。宜しいですよね?」

と聞いたのだが、すぐさま

「行儀の悪い真似をするんじゃありません!入るなら入る!しっかりなさい!」

という厳しい声が飛んで来た。

面接官の子が一旦部屋に入り、

「ご、ごめんなさい、あの、えっと、受験番号125の村雨さんに入って頂いて良いですか?」

「・・・良いわよ、入りなさい」

というやり取りがあり、出てきた。

村雨はしゅんとする面接官の子の頭を撫でながら、

「元気出してね。貴方のおかげで落ち着いて受けられるような気がするの。ありがとう。」

というと、面接官の子はにこりと笑い、

「うちに来てくださいね!」

と言った。

 

「受験番号125、村雨入ります」

「どうぞ!」

 

部屋に入ると、ビスマルクを中心に、両側に2人座っていた。

そこに対するように、椅子が1つ置いてある。

「そちらにおかけください」

「ありがとうございます」

ビスマルクに促され、一礼すると村雨は席に着いた。

30分立ちっぱなしだった事も重なり、思わず口をついて出てしまった。

「うわぁ、座り心地の良い椅子ですね」

言った後、村雨はしまったと思った。面接で余計な事を言ってしまった。

しかし、ビスマルクはグイッと身を乗り出すと、

「解る!?あぁ、解る人は解るのよね!その椅子は見た目は地味なんだけど名工の作なの」

「お尻の形に合う感じがします」

「そう!そうなのよ!座面の部分の作り方がとっても凝っててね、木の材質が」

 

25分後。

 

「だから、見た目は地味でも良い物は座った瞬間に解る!見た目に騙されてはいけないのよ!」

話が終わるまでの間、左右に座る人物は時折ビスマルクに

 

 「あの、質問を・・・」

 

という視線を投げかけたが、ビスマルクは脇目も振らずに語り続けた。

だが、村雨はビスマルクの言う事を納得して聞いていたし、結論も納得出来た。だから村雨は

「本当にそうだと思います」

と、目を細めた。

ビスマルクはようやく左右の視線に気づいたらしく、ウォッホンと大きな咳払いをすると、

 

「じゃ、どうしてそうだと思うのかしら?」

 

と、聞いた。

 

村雨は少し顎に手を置き、目を瞑って考えをまとめると、ビスマルクを真っ直ぐ見て話し始めた。

「私は今日、ここに居ます。」

「ここに来るずっと前、私は友達だと思ってた子の大きな裏切りに遭い、轟沈してしまいました」

「沈んだ後の深海棲艦の時にも友達の言葉で深く傷つき、艦娘に戻った後も、他の人を信じられませんでした」

「そんな私に手を差し伸べてくれたのは、すっごく怖い天龍先生でした」

「私はずっと、天龍先生は言葉遣いは悪いし、手続きはすっぽかすし、怖い人だって思ってました」

「でも、天龍先生が受け持つクラスメイトは、皆さん凄い人ばかりで、なぜか皆天龍先生を信じてるんです」

ビスマルクが初めて、ほうという顔をした。

「どうしてだろうって思ってたんですけど、付き合っていくうちに何となく解って来て」

「確証したのは、一昨日の事でした」

面接官の3人はじっと聞いていた。

「クラスメイトの伊168さんは怖くて潜れないと先生に告白し、先生は絶対潜らせないと約束してた」

「でも、一昨日の大問題が出た時、長門さんは緊急事態ゆえ、伊168さんに大本営まで潜るよう頭を下げた」

「普通なら鎮守府最高艦娘の頼みで、正当な理由なのだから先生も長門さんの味方をしてもおかしくなかった」

「でも、天龍先生は、伊168さんと長門さんの間に割り込み、一歩も譲らずに依頼を断ったんです」

「その後、伊168さんは工廠長に悩みを解決してもらい、自分の意思で潜ったんです」

「あの時、天龍先生が長門さんと一緒になって頼んでたら、きっと伊168さんは潰れてました」

「そうしなかったから伊168さんは立ち直れた。天龍先生は見た目は怖いけど、中身は凄く温かくて優しい」

「最後まで守り抜くあの姿勢を、私は教えとして守って行きたい」

「そして、見た目で判断してはいけない、騙されてはいけないって思ったんです。良い意味でも、悪い意味でも」

 

話し終えた村雨に、ビスマルクはふむと頷いた。

「良い話ね」

「はい」

「もしマニュアル臭い喩え話をしてきたら徹底的に質問攻めにしてあげようと思ってたんだけど」

「はい」

「そんな話を載せてる本がある訳ないし、一部は私も聞いてたわ。証人が自分じゃどうしようもない」

ビスマルクは肩をすくめると

「良いわ。最後の質問」

「はい」

「貴方はここで何がしたいのかしら?」

左右の面接官がぎょっとした顔でビスマルクを見た。

村雨は真っ直ぐ見てくるビスマルクを見て、唾を飲んだ。

 

 ほとんどの奴が答えたのに不合格にされた。

 

そう、天龍が言った質問だったからだ。

そして天龍は、唯一合格した不知火の答えを教えてはくれなかった。

 

 万が一聞かれた時に口から出たらアウトだからな。

 

そう言っていたが、その通りだと思った。このプレッシャーなら藁をもすがりたい。

でも、答えは本当に知らない。

ならば。

 

 私は、何と答えたいか。

 

すぅと1呼吸すると、村雨は答えた。

 

「私は、この鎮守府があったおかげで、深海棲艦から艦娘に戻り、心の傷も治してもらえました」

「鎮守府には大好きな人が居ます。天龍組の皆も、研究班の皆も、提督も、みんな」

「そしてここは、食品会社です。魚を取り、美味しい物を作って、売る事で、ずっと作っていける」

「食堂で食べたここの蒲鉾はとても美味しかった。美味しい物を作って売り、鎮守府の収入にもなる」

「皆を幸せにして、鎮守府が少しでも長く続く為に役に立てる。こんな良い恩返しはありません」

村雨はすっと息を吸い、身を乗り出すと、

「私を存分に使ってください!」

と言う言葉で締めくくった。

 

村雨が言い終った後も、しばらくビスマルクは村雨を真っ直ぐに見ていたが、やがて目を伏せると

 

「結果は追って知らせます。今日はこれで終わりよ。お疲れ様」

 

と、表情を変えずに言った。

 

村雨は不安だったが、言うべき事は全て言ったと思い直し、静かに頭を下げ、

「今日は、ありがとうございました。よろしくお願いいたします」

そういうと、静かに席を立ち、帰途に着いたのである。


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