日向が物凄く遠まわしに告白した後、提督室。
提督は目をパチパチさせた後、ぽそっと呟いた。
「・・・日向」
「なんだ?」
「お前は、私に死してなおついてきてくれるのか?」
「当たり前だ。ただ、私だけではなく秘書艦や、所属艦娘の多くはそう思ってるようだがな」
「こんな提督なのに?」
「こんな提督だから、心配でならないのだ」
「・・・日向」
「なんだ?」
「今更だが、飛行甲板は盾じゃないんじゃなかったか?」
「・・・まぁ、そうなるな。」
「盾に使うならケブラー層を作れよ」
「・・・提督」
「なんだ?」
「・・提督が私を守ってくれた姿、格好良かった・・ぞ」
「練習って大事だなって思ったよ」
「そうだ。明日から基礎体力訓練に参加するといい」
「謹んで遠慮する」
「なぜだ!」
「その間、射撃訓練しているよ」
「・・・先程の銃撃は、既に相当の腕前だったぞ」
「そ、そう?」
「だが、そのニヤケ顔で冷める」
「すいません」
日向がくすっと笑ったその時。
「うおー!憲兵隊の突撃ですぅぅぅ!!大人しくしろぉぉぉぉ!!・・・・あれ?」
「青葉?何してるんだ」
「何って!」
「この2人なら私に襲い掛かってきたから射殺したよ」
「・・・誰が?」
「私がだよ」
「・・・二人も?」
「・・・そうだが?」
青葉が更に口を開こうとしたとき。
「提督殿!憲兵隊であります!」
提督はスッと敬礼を返すと、
「この二人がそれぞれ刀を振って襲い掛かってきたので銃で反撃した。私が行った」
「ご無事で何よりであります。おい!遺体を運び出せ!」
「はっ!」
「部屋の外で、お話しましょうか」
提督棟の休憩所で、憲兵隊のリーダーは出されたコーヒーを啜った。
「実は数ヶ月前からあの鎮守府には良くない噂があり、内偵を進めていたのです」
「ほう」
「その担当官が、白雪でした」
「!」
「白雪が訓練中の事故で轟沈したと聞き、我々は相当に調べたのですが、どうしても証拠が掴めなかった」
「・・・」
「今日届いた告発文が白雪が知る暗号に従って書いてあったので、調査員の白雪と確証した」
「・・・」
「本当に惨い殺され方だったようです、白雪は」
「差し支えなければ、どのように?」
「訓練と称し、数名で押さえつけられ、死ぬまで水中に頭を沈められたと」
「・・・なんと惨い事を・・・」
「けれど、白雪はこうも書いてました」
「?」
「この鎮守府で、今はとても幸せだと」
「・・・そうですか」
「無重力はとても気持ちがいいと言ってましたが、素潜りの事ですかね?」
提督は天龍の報告を思い出した。
「海中ではなくて、空中、ですね」
「あ・・・バンジー?」
「きっと、水にはまだ触れたくないのでしょう」
「・・・ええと、こちらでは出撃させてないのですか?」
「ええ。全く」
「彼女は戦術、砲術、操術全てにおいて最高成績を納め、洞察力も鋭い天才ですよ?」
「だとしても・・・」
提督はにこりと微笑むと、
「私は、娘がやりたい事をさせてあげようと思うんです」
「娘?」
憲兵隊のリーダーがきょとんとする様を見ながら、青葉はにっこりと笑っていた。
そうなんです。うちの提督は、とっても変わった、自慢の提督なんです!
「と、いう感じでしょうか」
加賀からすっかり話を聞き終えた伊168は、ぺたんと床に座った。
「じゃ、じゃあ、私のミサイル攻撃も役に立ったんだね」
「ええ。港に居る筈の艦娘が敷地に居ない上に大破して帰ってきたのです。言い逃れのしようがありません」
「提督も無事だった」
「ええ」
そこで伊168はぎゅいんと白雪の方を向くと、
「ていうか!白雪ちゃん探偵なの!?」
「いえ、あの、私は大本営の事務員でしたよ?」
「えっ!?でも、内偵・・・」
「私は元々、普通に建造された艦娘だったんですけど、先が読め過ぎる事で司令官から気味悪がられて」
「あ・・・」
「だから色々な鎮守府をたらいまわしにされた後、大本営でずっと事務員をやってたんです」
「・・・」
「事務員をしてると色々な人の論文を読む事も多かったので、それで戦術とかを覚えました」
「そうなんだ・・・」
「ええ。だから私はごく普通の艦娘です・・・・・なんで皆さん首を振るんですか?」
「将棋で加賀に参りましたと言わせたのはお前だけだからなあ」
「え、だって、詰め将棋を覚えてるだけですよ?」
「何通り覚えてるんだよ?」
「500通りくらいですけど・・普通ですよね?」
「だから普通じゃねぇっての」
「1km先で隠れて寝てる川内さん見つけるし・・・」
「え、あれは、見えたから見つけたと・・」
「私、間際まで気付かなかったです・・・」
祥鳳がぽんと白雪の肩を叩いた。
「まぁ、普通かそうでないかより、白雪ちゃんが幸せならそれが一番じゃない」
すると、白雪は顔を真っ赤にして
「・・・暴露されてしまいました」
と言った。
天龍はうむっと伸びをすると、
「よっし、あとは村雨を白星に放り込めば任務完了だな~」
と言ったのだが、白雪はきょとんとした顔で
「え?解散・・・なんですか?」
「あ、ああ。だって苦しい原因は取れただろ?」
「私、進路決めてないですけど」
「あ・・・そうか。何が良い?行きたい先とかあるか?」
「そうですね・・」
白雪は数秒考えた後、
「天龍さんの助手がいいです」
「え・・・俺の?」
「はい」
「そ、そりゃ、凄く助かるし嬉しいけど・・・良いのか?」
「勿論」
にこにこする白雪に、伊168が
「バンジーの設備あるからでしょ?」
というと、
「そうそう。こんなに近くでタダで飛び放題の所なんて無・・・・あ」
「お前・・・・」
「あっ!えっと!素敵な素敵な天龍先生と一緒にお仕事したいなあ」
「超棒読みじゃねぇか!俺はおまけかよ!」
「失礼ですね。お菓子ならおまけが主目的なんですよ?」
「おまけにもならねぇって言いたいのか!」
「ちっ!違います!私はただバンジーが好きで、さすがに毎日遊び呆けるのは申し訳ないので、仕方なく手伝いを」
「何も違わねぇじゃねぇか!」
「でっ!ですからっ!どうせ手伝うなら天龍さんの元でと」
「・・・・なんか取ってつけたような感じだなあ」
「そっ!それを言うなら伊168さんはどうするんです?」
「アタシに逃げないでよ」
「同じ天龍組じゃないですか」
「まぁ・・・そうね。もう潜れるようにはなったけど、このスーツがないとやっぱり嫌だし」
「うちの艦娘として所属してれば良いんじゃね?滅多に出撃ないし」
その時、文月がくすりと笑った。
「潜水艦さんが増えると、オリョールクルージングがもっと回せますねえ」
「!?」
文月の策に気付いた伊168は
「わっ!私も天龍先生の助手になりたいなー!」
「・・・・はぁ?」
「なっ!なりたいなっ!」
「何でだよ?」
「何でって!何か冷たいわね!これからも大変なんでしょ!?」
「ま、まぁ・・そうなるかも、だけどな」
「じゃー良いじゃない。それとも何?祥鳳や白雪は欲しいけどアタシはいらないって言うの?」
「そんな事言ってないだろ。お前も来てくれるんなら嬉しいぜ!」
「・・・ふ、フン。だから行ってあげるわよ」
「解ったよ」
そして天龍は村雨に向くと、
「うっし!じゃあ明日は総復習、明後日本番だぜっ!」
と言ったのである。