艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

195 / 526
天龍の場合(23)

 

 

伊168が応答した後、核シェルター内。

 

 

伊168はインカムの先の天龍に噛み付いていた。

「こんなキツイ任務達成したのに言う事それだけなの!?ひどくない!?」

「空母の一隻でも仕留めて来るかあ?」

「あのねぇ!・・・あれ・・・睦月ちゃん?」

天龍に促された睦月は泣きじゃくりながら応答した。

「ひっ・・・へうっ・・・ごっ・・・ご無事で・・何より・・・です」

「ねぇ、工具バッグの一番下にあるのって何?」

「・・・へっ?どんな形ですか?」

「魚雷っぽいんだけど、なんか、先が幾つも分かれてる」

睦月は怪訝な顔をしていたが、ハッとしたように、

「多弾頭対艦ミサイルです!抜くの忘れてました!」

「なんでそんな物騒なもんが工具バッグに入ってるのよ!しかも剥き出しだったわよ!誤爆したらどうすんのよ!」

「ごめんなさぁい!明日テストする予定だったんですぅ・・・」

村雨がぽつりと言った。

「じゃあ伊168ちゃん、撃っちゃえば?」

「へ?」

「睦月ちゃん、潜水艦からは撃てないの?」

「いえ、弾頭以外は元々酸素魚雷ですから、伊168さんの発射管から撃てます」

「操作方法は?」

「敵の艦影に向けてAIを起動したら発射するだけで、後はミサイルが勝手に考えます」

「多弾頭って事は、複数攻撃できんのか?」

「はい。最大8隻まで・・・の筈」

「筈って!」

「だってだって!明日テストする予定で!」

「まぁ、失敗しても、かすり傷くらい負わせられるんじゃね?」

「あ、えと、破壊能力は700mm鋼板を破れる位の威力があります」

「ちょっと!誤爆したらアタシ即死じゃない!」

「うえーんごめんなさーい!」

「怖っ!めっちゃ怖っ!」

「だったらポイしてこいよ、敵艦のほうにさ」

「ええ、もう、そうする。そうするんだから!」

「あ!敵艦との距離は?」

「推進流でだいぶ流されたから・・・ええと、5km位かな」

「それなら良いです!2km圏内には入らないでください!」

その時、ビスマルクが叫んだ。

「酸素切れのアラートが鳴ったわ!どうすればいい?」

睦月はがばりとモニターに飛びついた。

「・・・もう間近です。操舵桿の上についてる射出ボタンを押してください!」

「了解!青葉、飛び出しなさいっ!」

睦月は振り向いてマイクに叫んだ。

「カプセルが大本営に到達しました!ミサイル発射して良いです!」

「了解!敵の船底に大穴開けてあげるから!」

 

ガシャン!

減圧が済んでハッチが開くと、祥鳳が伊168に飛びついた。

「良かったぁ!おかえりっ!おかえりっ!」

「な、泣かないでよ祥鳳・・ちょ、調子狂うわよ」

「おう、良くやったな」

「あのさ、復帰1回目って、普通リハビリ程度の軽~い奴から始めない?」

天龍は肩をすくめた。

「そこはほら、天龍組だから諦めな」

川内が頷いた。

「暗闇で膝かっくんでバンジーさせるところだよ?」

だが、伊168はハッとしたように、

「それより状況はどうなったの?」

長門と加賀が近づいてきた。

「皆のおかげで最善の展開に出来たと思う。礼を言う。」

「まずは青葉さんが、海面に飛び出した勢いが強すぎて、そのまま中将の部屋に飛び込みました」

「・・・・へ?」

「おかげで執務中だった中将に直接告発文を手渡し、かつ、緊急事態である事を納得頂けました」

呆気に取られる伊168、肩をすくめる衣笠。

「大本営は直ちに3鎮守府に憲兵隊を急行させました」

「8艦隊のうち7艦隊は逃げ戻りましたが、伊168が重症を負わせた艦娘達は帰着が間に合わず・・」

「書類と実状の不一致を確認した憲兵隊は、司令官2人を緊急逮捕しました」

「・・・」

「青葉と憲兵隊が乗った水上機が、その後我が鎮守府に急行しました」

「・・て、提督は無事だったの?」

「お話します」

 

 

時は少しさかのぼり、提督室。

 

提督が時折、ひょっと銃を握り直すのに逐一反応していた司令官は疲れ果てていた。

この地味な精神攻撃でも、2時間以上続けばボディブローのように効いてくるのである。

その時。

「んだとぉっ!?勝手な事すんじゃねぇよ!」

突然秘書艦の天龍が大声を上げた。

日向がギヌリと睨みつけたが、秘書艦の天龍は目を白黒させながら叫んだ。

「ふざけんな!憲兵隊が急襲って、お、俺達を見殺しにする気かコラァ!」

憲兵隊という単語に司令官は秘書艦の天龍を見て口走った。

「なんだと・・・今日は・・・憲兵隊は・・・合同訓練で手薄な筈だろ?」

秘書艦の天龍は司令官を向くと

「訓練が中止されて、召集された憲兵隊が出動しやがったらしい。俺達の鎮守府にも向かってるってよ!」

司令官はがくりと椅子の背にもたれた。

居る筈の無い場所に居る事が発覚してしまう。終わりだ。

秘書艦の天龍は声を張り上げて司令官を揺さぶった。

「おい司令官!こういう時はどうすんだよ!寝ぼけてんじゃねぇぞ!」

日向はまっすぐ秘書艦の天龍を見ながら、

「周囲全てに怒りを撒き散らすなど、弱い者だと宣伝するようなものだ」

秘書艦の天龍は司令官を突き放すと、

「へぇ、上等な説教垂れてくれるじゃねぇか。なら最後に決闘しよう・・・ぜっ!」

といい、日向の飛行甲板をすり抜け、提督の頭に刃を振り下ろした。

日向が咄嗟に提督を庇おうとしたその瞬間。

 

タン!タン!タン!

 

小さく乾いた音が、室内に響いた。

秘書艦の天龍は目を見開き、腕をだらんと垂れ下げた。

「俺が・・・遅れを・・・」

そう呟くと、そのままどうと倒れこんだ。

司令官は秘書艦の天龍の骸の先に、硝煙のくすぶるブローニングを構え、日向を庇う提督の姿を捉えた。

呆けていた司令官は、見る間にどす黒い雰囲気を纏うと、

「お・・・お前・・・・俺のっ・・・俺の天龍をおおおおおおおお!」

牙を剥きながら軍刀を抜こうと、した。

 

タン!タン!タン!

 

日向は提督を見た。

司令官は秘書艦の天龍に折り重なるように倒れていたが、提督の銃口は前を向いたまま、小さく震えていた。

「提督、任務完了だぞ」

日向はそういうと、提督の手からそっと、ブローニングを抜いた。

「・・・なぁ、日向」

「なんだ?」

「この司令官と天龍も、絆があった気がする」

「全体的に、どうしようもなく歪んでいたがな」

「私の、お前達への愛は、歪んでいるのかな」

「時折脱線しそうにはなるな。例えば祥鳳の件は危なかったぞ」

「・・・そうだったなあ」

「だが、決定的に違う事がある」

「なんだ?」

「私達は、一から十まで提督に教わろうとは思っていない。」

「・・・」

「提督も弱さを抱え、私達も弱さを抱え、それぞれに思いがあると知っている」

「・・・」

「だから一人一人が出来る事を自立的に受け持つ。その空気を作っているのは提督だ」

「・・・そうなのかなあ」

「そうだ。なぜなら」

「・・・なぜなら?」

「提督の言うままついていくのはとても心配だからだ」

「それ、褒めてないよね」

「ああ、褒めてない。私としてはもう少し規律正しく、脱走せず、甘い物を控えて欲しいと思ってる」

「注文が多いな」

「死してなお最後まで付き従うのだ。あるべき主としての注文は増える」

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。