艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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天龍の場合(21)

 

日向が提督の本気を確かめた直後、提督室。

 

 

司令官の視線は銃口に釘付けだった

「こ、攻撃する意図は、無い。ひ、引き上げるだけだ」

提督は低い声で返した。とても低い声で。

「引き金はウルトラフェザーだ。私の指が怒りで痙攣しないよう、せいぜい祈れ」

司令官のこめかみを脂汗が流れた。

 

 

時は少し戻り、核シェルターの中。

 

白雪達がシェルターに到達すると、衣笠が待ち構えていた。

「白雪ちゃん、貴方何を知ってるの?大本営に告発したいんだけど、話せる?」

祥鳳が庇う形で進み出ようとしたが、白雪が制した。

「私はその為に帰って来たんです。全部お話しします。正確に書き写してください」

 

衣笠が文章として書き終わる頃、睦月が長門を説得していた。

「し、しかし、今完成したのだろう?大丈夫なのか?」

「テストをしている時間はありません!」

長門は悩みぬいた揚句

「よし。後は運だな。青葉!」

「・・・へ?」

「乗れ!」

「え!?何何!?何の話ですか!?」

衣笠が2つの封筒を手渡した。

「これが私が書いた告発状、そして白雪ちゃんの告白文よ。爆弾級のスキャンダルだからね」

「えっ!?読んで良いですか!?」

睦月が青葉をカプセルに導いた。

「もちろんです!さぁこの中でどうぞ」

「ありがとうございます!・・・って、なんですかこれ?」

「青葉、提督室の中の写真は撮ったわね?」

「あいつらを凶暴そうに撮っておきました!」

「よっし!それも持ってるわね!」

「はい!」

「じゃあカプセルを閉めます!開いたら大本営に向かって突っ走ってください!」

「ま、待って!睦月ちゃん!」

「なんですか!時間が無いんです!」

「あの、これ、いつテストしたん」

バタン。

一同が呆然とする中、睦月が力いっぱい蓋を閉じた。

中でドンドンと叩きつつ何事かを叫ぶ青葉を完全に無視し、妖精達が試験用魚雷発射管にカプセルを押し込んだ。

少し離れた所では、夕張がこわごわ装置を覗き込んでいた。

「ええと・・・睦月、これ、何?」

夕張は睦月から仮想ディスプレイ用のゴーグルを貸して欲しいと言われ、数分前に手渡していた。

今、そのゴーグルはビスマルクがかけており、剥き出しの機械の中の椅子に座っていた。

「説明より見てください!ビスマルクさん!準備オッケーですか!」

「良いわよ!シャッターが開いて海中が見えたわ。オールグリーン!新装備ってワクワクしてくるわね!」

「右手が操舵、左手が出力です。視界は前方向140度のみ。後退は微速しか出せませんからね!」

「艦載機のようなもんでしょ!解ったわ!」

天龍と天龍組の面々は目を白黒させていた。何が始まるんだ?

睦月がビシリと妖精達を指差した。

「モーター始動!発射用意!」

天龍が歯を食いしばってのけぞった。まさかこれ、あの・・・

「てーーーっ!」

パシュウウウウウウウウゥゥゥウゥゥウゥゥ・・・・・

カプセルが発射されたらしき音と共に、巨大なドラムリールからケーブルが勢いよく引き出されていく。

ビスマルクの傍らにあるモニターに、小さな赤い点がポワンと点いた。

点は急速に中央から遠ざかっていく。

睦月がマイクを掴んだ。

「青葉さん!聞こえますか!」

雑音の後にスピーカーから青葉の悲鳴が聞こえてきた。

「ちょっ!怖っ!もうちょっと上!上を進んでください!海底が見えてます!」

ビスマルクは眉をひそめた。

「操舵がシビア過ぎるわ。もう少し中央付近をマイルドにして!」

睦月が背後の装置を弄った。

「これでどうですか?」

「んっ・・・・良いわ!ガンガン行くわよ!」

モニター上の点は赤から青に変わったが、青葉の悲鳴は一層増した

「うひゃ!かっ!海底!海底に居るカニまで見えてます!岩っ!怖っ!ひえええええええ!!!」

睦月がビスマルクに言った。

「索敵範囲外の水深に達してます。左のスロットを手前に戻せば速力を下げられますよ?」

ビスマルクが平然と返した。

「この位平気よ!もうすぐ1個目の難関よ!捉まりなさい青葉!」

「ひええええええええ落ちるうううううううぅぅぅ!!!!」

ポーンという音と共にモニターの点の色が青から黄色に変わり、左下の数字が150から下がり始めた。

睦月はマイクのスイッチを切ってからビスマルクに言った。

「ビスマルクさん、深すぎます。カウンターが0になったらカプセルが圧潰します」

一同はぎょっとした顔で睦月を見たが、二人は真剣そのものだった。

「まだ135ある!この谷を抜けた方が早いのよ!」

「少しだけ速力を下げてください。ダメージが減ります」

「解ったわ!」

一同はモニターを見つめていた。カウンターの下がり方は穏やかになったが、既に110を切っていた。

「よし、一気にショートカットしたわ!上の谷に出るわよ!」

その時、スピーカーからブツンという音がして、ビスマルクが悲鳴を上げた。

 

「ちょ!何も見えなくなったわよ!」

「スロットルを下げてください!」

 

村雨が震えながら、指を指した。

「む、睦月ちゃん・・・ケーブル・・・切れてるよ」

全員が村雨の指先を追うと、さっきまで勢いよく出ていたケーブルがだらりと垂れさがっていた。

睦月が目を見張った。

「そんな・・・切れる筈が・・・」

衣笠が睦月を揺さぶった。

「ケ、ケーブルが切れたらどうなるの!?」

睦月が渋い顔をした。

「非常事態が発生した時はモーターが停止し、生命維持装置が最優先に働きます」

「それで!?」

「生命維持装置がバッテリー切れになるか圧潰寸前の段階でカプセルだけ浮上させ、強制的に海面でドアが開きます」

衣笠がモニターを見た。

「今、青葉はどこに居るの!?これじゃ解んない!」

ビスマルクはゴーグルを取ると、机に海底図を広げた。

全員が覗き込む中、ビスマルクは1点を指差した。

「下の谷を抜けた直後だから、ここに居るわ」

「結構・・・遠いね」

夕張が声を上げた。

「ちょっと待って!そこは、あいつらの艦隊のど真ん中だよ!」

衣笠が睦月を揺さぶった。

「バッ!バッテリー!バババババッテリーは何時間持つの!」

睦月が申し訳なさそうに言った。

「2時間・・・です」

衣笠が崩れ落ちた。

「た、単に海上を行くなら余裕で行けるけど、それじゃ・・・敵艦隊をやり過ごすのは無理だよ・・・」

ビスマルクの表情が曇った。

「もし、着底先が下の谷なら、限界深度を遥かに越える事になるわ」

「そ、それじゃ、すぐにカプセルが浮上しちゃうじゃない・・・」

衣笠がギッと伊168を見た。

天龍が間に入る間もなく、衣笠は伊168の肩を掴んだ。

「た・・・助けて・・・助けて伊168さん・・・お願い・・・姉さんが・・・・死んじゃう・・・」

伊168の目が揺れ、ぎゅっと目を瞑った。

「こ、怖いんです・・・戦闘海域で・・・機雷に肌が触れて・・深手を負うのが・・・」

工廠長が伊168に声を掛けた。

「うん?肌に触れるって、どういう事じゃ?」

伊168はするりと軍服の上着を脱いだ。

「おっ、おい!」

天龍は止めたが、伊168の肩から背中には、大きな火傷の跡が見えた。

 

 

 


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