艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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file19:艦娘ノ願ヒ

3月31日夜 現鎮守府

 

ドタバタだった宴が奇跡的に落ち着き、最後の長門をナデナデし終えた提督は改めて皆を見た。

皆、こちらを向き、目がキラキラしていて、とても眩しく見えた。

仲間に出来る艦を全て揃えた訳ではないが、それでも大所帯になった。

騒がしくて、しょっちゅう激論を交わし、提督に「ナデナデして!」と命ずるような艦娘達。

だが、提督や仲間と心を通わせ、守りあい、強大な戦力として一緒に戦ってきた艦娘達。

私の大切な大切な宝物。

 

提督は目を瞑って一息吐くと、口を開いた。

「では私から、最後の言葉を伝えたいと思う」

しんと静まり返った。本当に、本当に良い子達だ。

「まず、恐らく最もユニークな戦法、訓練、運用をする我が鎮守府に従ってくれた事に感謝したい」

ちらりと五十鈴を見て、向き直る。

「私は大本営が言う、艦娘に過度に傾注するな、兵器として使えという指示を受け入れられなかった」

「私と大喧嘩した者は覚えているかもしれんが、私は、君達を兵器として扱うのを特に嫌った」

「私に従ってくれる以上、仲間として、失ってはならない者として扱いたかった」

「それ故に、君達には守る戦法をいかなる時にも課した」

「己を、仲間を危険に晒す形で戦った者には、たとえS勝利であろうと叱り飛ばしたのはそういう事だ」

「この世には複数の長門が、文月が、加賀が、比叡が、響が、そして皆がいる」

「しかしながら、今宵の宴を知っているのは、今私の目の前にいる君達だけだ」

「君達は唯一であり、かけがえのない私の宝物だ。それは私の中で永久に変わらない」

「私は過去の過ちを克服出来ず、その為に北方海域に出撃できず、故に謹慎の身となる。自業自得である」

「そして、明日から君達が新しい司令官にどう扱われるか心配で一睡も出来なかった弱い人間である」

「この先、私はどのような処分を受けるか解らないが、その前に、これだけは自信を持って言える」

「君達は最高の戦力と、判断力と、仲間を守る意味を体得した最強の組織である。自信を持ってほしい」

「私は君達が終戦まで生き残る事を、そして生きている間に幸せを1つでも多く得る事を強く願う」

そこまで一気に言い切ると、一呼吸し、目を瞑りながら再度口を開いた。

「さらばだ、諸君」

目を瞑りながら反芻する。

言えただろうか。言い切れただろうか。

本当にこれで最後なのだから。

そっと目を開ける。

 

あれ?

なんか反応薄い?

変な事言ったかな?

上手く伝わらなかったか?

 

扶桑が口を開く。

「提督」

「なんだ」

「先日申し上げた事、もう一度申し上げますね。」

「なんだい?」

「私は、この鎮守府のやり方に誇りを持っています。提督は提督らしく、最後の日まで私達にお命じください。

 胸を張ってお引き受け致します、と」

「ああ。君の思いとして、ありがたく受け取ったよ」

「違います」

「え?」

「私達、この鎮守府全ての艦娘の思いであり、願いです。そうですよね皆さん?」

全艦娘が、ビシリと直立不動になる。そして、

「はい!私達全ての願いです!」

と、言った。

五十鈴と夕雲は驚いた。ここまで強力な統率は見た事が無い。普通、少しは乱れるものだ。

 

提督はついに嗚咽を上げた。

「君達と、出会えて良かった。思いを、示して・・くれて、ありがとう。ありがとう」

加賀が口を開く。

「提督、中将の言葉を忘れないで。提督は異動である、決して早まらないでほしい、と」

「加賀・・・」

五十鈴が口を開く。

「道中は私達があなたを懸命に守るんだから、勝手に鎮守府で命を絶たないでね」

「五十鈴さん・・・」

摩耶がニッと笑って言う。

「約束だぜ!提督っ!」

なんて感動的な最後だろう。

もし自分が深海棲艦に半身を喰われても響は逃がす。皆の所に。絶対に。

 

予定より大幅に遅れた2300時に、提督を乗せた五十鈴、夕雲、響は鎮守府を出航した。

 

波止場で船を見送っていた北上が、ふと呟く。

「ねぇ、大井っち」

「どうしたの北上さん」

「あれだけさぁ、提督ボロ泣きしてたじゃん」

「そうねえ。色々ダダ漏れって感じだったわね」

「明日、騙された事に気付いたら凄く怒りそうな気がするんだけど」

「騙してないわよ、言ってないだけで」

「あれだけ泣かされた翌日にさ、以前から計画してて付いて来ましたよ~で済むかな?」

「泣いたのは、私達が提督を信じてるって事を実感したからでしょ?」

「まぁ、そう・・まぁ、そうね」

「だから、皆で迎えて、おかえりなさいって言ってあげれば良いのよ」

「おかえりなさい、か」

「ええ。おかえりなさい、って」

「ご主人様って付けた方が良いかな?」

「それは薄い本になるから止めた方が良いわ」

「え?薄い本?なにそれ」

「ううん。気にしなくて良いわ」

「え~、大井っちなにさ~」

「秘密~」

 




「ねぇル級さーん、そんな事言わないで採用してくださいよ~爆破したいです~」
「私ヲ可愛ク書クナラ採用シテモ良イゾ」
「前向きに対応を検討したいと思う所存で、来年度折衝にて」
「YESカNOカ」
「・・・・黙秘します」
「不採用」
「えー」

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