艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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天龍の場合(17)

 

 

川内が響と衝撃の再開をした夜、浜辺。

 

川内は響の告白を聞き、そっと手を握り返すと、

「私はずっと響が心配だった。だから深海棲艦になって、本当にあらゆる海域を捜し歩いたんだ」

「6307鎮守府は取り潰されてしまったから、響の生死も解らなくて」

「ここには艦娘に戻れる鎮守府があるって聞いたから来たんだけど、響が居てびっくりした」

「でも、響は暁達と話してて楽しそうだったし、ちょっと調べたら上手くやってるって解って」

「私は帰って来れたけど司令官は蘇らないし、一人残った後に辛い事もあったんじゃないかって思ってさ」

「だから、何も言わずに、気付かれないまま出て行こうって思ってたんだ」

川内は響の手をぎゅうっと握ると、意を決したように言葉を紡いだ。

「でもさ、卒業後の希望する道を書こうとするとね、どうしても響の顔が浮かんで来るんだ」

「私は響が心配だったのか、寂しくて響と一緒に居たかったのか、もう解んないんだ」

そして響を見ると

「だって、こうして二人でいると凄く嬉しいんだもん」

響は再び川内にぎゅむっと抱き付いた。川内は響の頭を撫でた。

「・・・弱いお姉ちゃんで、ごめんね」

「違う。川内はずっとずっと、私を忘れずにいてくれた。だからまた会えた」

「そう・・かな・・」

「絶対そうだ。異議は認めない」

「・・・そっか」

「だからまたどっか行っちゃうなんて絶対に認めない」

「思い出して辛くならない?」

「ならない」

 

龍田はすっくと立ち上がると、

「じゃあそろそろ、私達は帰りましょうか~」

と言い、天龍達も立ち上がった。

「だな。後は姉妹仲良く過ごせば良いさ」

「後で教室にお握り置いといてあげるから、話した後、二人で食べれば良いわよ」

川内が伊168を見て微笑んだ

「ありがと・・ね」

「どうって事ないわよ」

村雨が腕を伸ばしながら、

「よぉし、じゃあバンジーの用意を片付けま・・」

と、言いかけた時。

「ひゃぁあああぁぁああぁぁああああ・・・やっほぉぉぉぉぅ!」

浜に居た面々はごくりと唾を飲んだ。

何となく、何となく上を見たくない。

天龍がぽつりと言った。

「・・・ええと、川内がダイヴしてから更に暗くなってるよな」

伊168が脱力した様子で答えた。

「もう月明かりが頼りのレベルなんですけど」

村雨が言った

「砂浜でも足元がおぼつかないですよ・・・」

祥鳳が上を見ながら言った。

「白雪さんが、見えないんですけど」

龍田が川内の肩を叩きながら言った。

「さっき飛び込むのと、今飛ぶの、どっちが良かったかしら?」

川内は青ざめながら言った。

「さっきに決まってるじゃないですか!幾ら夜が好きでも今飛ぶなんて轟沈するより怖いですよ!」

龍田は頷きながら言った。

「白雪さんの、せめてもの情けだったって考えましょう」

「そ、そうなのかなあ・・・」

しかし、その頭上から

「あっはははははは!ひゃ~!いやっほ~う!!」

と、白雪の嬉々とした声が降ってきた。

2回目・・だと・・

 

浜に居た面々はがくりと頭を垂れた。

天才は時として理解し難い事がある。

天龍は声を張り上げた。

「白雪ぃ!もう暗くなってんだから片付けて降りてこい!撤収するぞ~!」

すると

「あと1回だけぇ・・・ひゃあああああっほぉぉぉぉぉぉ」

という声がした後、

「皆さんもぉぉぉおぉ・・・飛びませんか~?」

という声が追って来たのだが、見事なまでに

「結構です!!!」

と、ハモって返したのは言うまでもない。

だが、響がくすっと笑うと

「なんだか、昔の事なんてどうでも良くなったよ」

そして、川内を見上げて

「もう、どこにも行かないでくれないかな。お願いだから」

と言った。

川内は響の頭をぎゅっと抱きしめた。

「うん・・今度こそ・・・今度こそ、一緒に居ようね」

「うん」

 

「ええええっ!?」

食堂でたまたま夕食を取っていた加賀は、傍らに立つ響と川内から顛末を聞いていた。

すっかり最後まで聞いた加賀は目を細めながら響を優しく撫でた。

「そう・・・また会えるなんて、本当に、本当に良かったですね」

「これからは川内さんが力になってあげてくださいね、以前のように」

川内はぺこりと頭を下げた。

「響を守ってくださって、本当にありがとうございました」

すると、加賀も頭を下げ、

「悪用しようとしたのはチ級ですが、原因を作ったのは私です。ごめんなさいね」

「かっ、加賀は何も悪くない。私は何も恨んでなどいない」

「・・でも」

「そうですよ!司令官だってちゃんと取引出来ていたら念願の暗視装置を手に入れられたんですから」

「・・・ありがとう」

そう言って、3人はふふっと笑ったのである。

 

翌日。

 

コンコン。

「どうぞ!」

本日の秘書艦である赤城は、提督と目を合わせ、にこりと微笑んだ。

昨晩、加賀から聞いた通りの時間だ。

「提督、赤城、邪魔するぜ」

「天龍、最近よく会うな」

「そうだな」

「ま、ま、立ち話もなんだ、入りなさい」

 

「経緯は今朝赤城から聞いたよ。こんなに長い年月を経て再会出来るのは間違いなく運命だよ」

川内が身を乗り出して言った。

「あ、あの、あたしは、祥鳳みたいにスゴ腕じゃない。でも、響の傍に居たいんです!」

「これから一生懸命頑張ります!だから、ここに、居させてください!」

提督は頷いた。

「祥鳳にも言ったが、役に立つ、立たないは関係ないよ。今から君も、私の可愛い娘だ」

「天龍からは、極端に夜が好きと聞いていたが、経緯を聞くとその限りではないのかな?」

川内は提督に頭を下げると

「あ、あの、夜中に起きてたのは、響が幸せか調べていたんです・・・」

提督は微笑んだ。

「緊張して、心配して、毎日調べていたら昼夜逆転の生活になるのも無理はないね」

「ごめんなさい」

「響の現在には納得してくれたかな?」

「はい」

「これからは一緒に居ると良い。そしたら無理に昼夜逆転して活動しなくても良いだろう」

「はい。で、でも・・・」

「うん?」

「や、夜戦は・・・好きなんです」

「はっはっは!出撃で夜戦になりそうな時は川内に声を掛けるよ。赤城!秘書艦に伝えておいてくれ」

「ええ、解りました!」

「響」

「なんだい、提督?」

「良かったな」

「・・・スパスィーバ」

「うん?なんだって?」

「あ、ありがとうって、意味だよ」

「よしよし、うん、響がそんなに嬉しそうに笑うのは初めてだ」

「・・・・」

「提督!」

「どうした、赤城?」

「こういう時こそ、そちらの棚の右上2段目にあるあれを!」

「おぉそうか!舶来菓子のビスコッティがあったな!」

「はい!」

「よしよし、じゃあ赤城、コーヒーを・・・」

「淹れてきますね!」

「・・・・ん?赤城さんや」

「はい?」

「ビスコッティは昨晩買ってきて隠しておいたんだけど?」

「細かい事は良いじゃないですか。コーヒー淹れてきます!」

「細かい・・・か・・な?・・・あれ?なんか騙されてるような・・・」

響と川内はちらりと目線を交わし、くすっと笑った。

 

ちなみに、その日のソロル新報のエンタメ欄の見出しは

 

「姉参上!川内参上!涙のご対面!そのお相手は!」

 

だった。

ゲラ刷りでこのタイトルを見た衣笠はしばらく眉をひそめた後、

「アウ・・・んー・・むー、まぁ、おまけでセーフかなあ」

と、言ったらしい。

 


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