艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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天龍の場合(15)

 

 

川内が衝撃の告白をした夕方。天龍・・もとい、龍田の教室。

 

「地獄で鉄鉱石掘ってるチ級をもう1度沈めてあげたいわねぇ・・残念・・ほんとに残念・・うふふふ」

告白内容を聞いた龍田のコメントに、天龍組の5人は小さくなって震えていた。

さすが影のドンと言われる龍田。たった一言で場を支配下に置いた!

 

龍田は静かに川内の方を向くと、にっこりと笑って口を開いた。

「川内さぁん」

川内はびしっと背筋を伸ばすと

「イエス!マム!」

と返事したのだが、それに対する龍田の次の言葉は

「じゃあ、成仏するの?」

だった。

 

川内は目を見開き、震える声で聞いた。

「あっ、あああああの、あ、あた、あたし、ややややっぱり不都合な存在なんでしょうか?」

溜息を吐く龍田。

その時、伊168ががばりと川内の前に進み出て、

「たっ、確かに、響ちゃんと会えば響ちゃんが動揺するかもしれないけど、せ、川内ちゃんは、私達の」

と、必死になって庇おうとしたが、龍田が薄目を開けて

「今は川内さんとお話してるの。望むなら後でじっくり、ね?」

という一言で膝から崩れ落ちた。

伊168はガチガチ震えながら川内を振り返った。

川内はそんな伊168に優しい目を向けた。

 

 ごめん!私!庇おうとしたんけど無理!

 ありがとう!私一生忘れないから!

 

と、いうような会話を目で行った二人であった。

 

「川内さぁん」

「ひぃぃぃっ!!」

「・・・そこまで怖がらなくても」

「こっ!怖がってません!ボス!」

「・・・ええとね、邪魔だから消すって話じゃないし・・・」

龍田はふっと笑うと、

「本気で邪魔なら・・聞いたりしないわ」

と、呟いた。

放心したようにぽかんと口を開けている伊168。

目を瞑り、頭を抱えてうずくまる村雨。

この二人とは対照的に、白雪は静かに龍田を見ていたのだが、ぽんと手を打って呟いた。

「・・・なるほど」

一瞬、龍田はチラリと白雪を見た。

白雪と龍田の視線が交差し、互いに頷いた。

天龍は苦笑しながら頬を掻いた。どうしてこう龍田は怖がられるんだろう?

別におかしな事は何一つ言ってないんだが。

ま、白雪は解ったみたいだな。

「川内さぁん」

「あ、あわわわわわわ」

「落ち着いて聞いて」

「は、は、は、はい!」

「響ちゃんは、今現在着々と成長しているわ。受講生としての生活も楽しそうよ」

「でもね、腐敗対策班は今、事実上機能していないの」

「それは今、うちが掌握している腐敗事項が無いから。つまり開店休業状態」

「響ちゃんを除く他の班員は、それなりに経験があるから鎮守府で思い思いに過ごしてる」

「けれど、響ちゃんは教育課程を終えてしまったら」

龍田は川内から目を逸らし、窓の外を見た。

「多分、時間を持て余しちゃうんじゃないかなぁ」

川内の目に動揺の色が広がった。

龍田は遠い目をしながら、そのまま続けた。

「戦いの中で、オフに見つけた趣味で、勉強した事で、それぞれやりたい事を見つけて、伸ばしていく」

「それがここの艦娘には認められているし、失敗しても、見つからなくても、叱られる事は無い」

「響ちゃんも、今のままでもその内に進みたい道を見つけるかもしれないけど・・・」

龍田は目を閉じると、

「誰かが傍に居たら、間違った道に落ちる心配は減るでしょうねぇ」

川内は膝の上に乗せた手をぎゅっと握った。

「まぁ、そんな独り言はさておいて・・・川内さんのお話だったわね」

「!」

「川内さんは、ずっと響ちゃんの事を心配していた」

「・・・」

「うちの鎮守府に居て、その中で上手く溶け込んでて、ちゃんと生活してる事も見届けた」

「・・・」

「沈む前に願っていた事は叶い、未来に望みが無く、生きる事に罪悪感を感じるなら、無理に居る必要はない」

「・・・」

「うちの鎮守府では、昇天のオプションを遂行してあげる事も出来る」

天龍は疑問の表情を浮かべたが、龍田の目配せになるほどと頷いた。

「かなり悶え苦しむけど、葬ってあげる事は出来るわよ」

「・・・」

「それで良いのかしら、川内さん?」

 

俯いたまま押し黙る川内を、3対の目が見つめていた。

 

1つは龍田、もう1つは祥鳳、そしてもう1つは白雪だった。

天龍は考えていた。

龍田は矯正方向に解り易い道しるべを置いたが、もし川内が気力を使い果たしてたら見えないかもしれない。

その時は俺が立ち回るか。仕方ねぇが、それが龍田の期待する役回りだろう。

少なくともこの部屋の中で、川内がこのまま居なくなるのが良いと思ってる奴なんて居ねぇからな。

天龍は面々の顔を見渡した。

・・・村雨、伊168。もうちょっと相手を見ろ。龍田が地味に傷付いてる。

祥鳳は黙って成り行きをよく観察してんな。参考にするって言ったのは伊達じゃねぇ。

それにしても、白雪が全く読めねぇ・・・龍田の言ってる事は解ってるが、祥鳳とは違うって感じだ。

いずれにせよ、川内が自分で道を決め直さないと意味がねぇんだ。

龍田がこれ以上言葉を追加するのは危険だし、場は固まっちまった・・・どうするか。

ふと見ると、川内が小刻みに震えだしていた。このままだとまずい方を選ぶかもな。

天龍が口を開きかけたその時。

 

「そうだ。これから飛びましょう、川内さん」

 

あぁ思い出したというような飄々とした声でそう言ったのは、白雪だった。

川内は呆気に取られ、白雪をぽかんと見返した。

 

「・・・え?」

 

白雪はにこりと笑った。

「丁度さっき、呼び出される前に準備出来てたんです。日暮れ時に飛ぶのって面白いんですよ」

「へ?」

「さぁさぁ。許諾条件では夕食後には片付けないといけないんで、行きましょう」

「え?あの、私、バンジー苦手・・・」

「さぁ、行・き・ま・しょ・う・ね」

「え!ほ、ほんと苦手なんだって!ちょ!ねぇ!後ろからベルト引っ張らないでってば!」

ぐいぐい引きずられていく川内は目を白黒させながら

「て、天龍先生!た、助け」

と言ったが、天龍が何か声を掛ける間もなく、教室のドアがぴしゃりと閉められた。

天龍は呆然としていた。そもそも白雪は川内を引きずれるほど力が強かったのか?いや、そうじゃなく。

天龍はそっと、龍田を見た。

龍田が止めなかったって事は、白雪のプランを認めてるって事だが・・・

「た、龍田・・どう考えりゃいいんだ?」

龍田は肩をすくめると

「荒療治だけど、白雪さんに賭けるしかないわ。あのままだと昇天を選んじゃっただろうし」

「や、やっぱりそうか」

「ええ。そこまで思い詰めていたなんて・・・まだまだ私も精進が足りないわね。ごめんなさい」

「いや、荒療治だろうが何だろうが、川内は・・仲間でいて欲しい。これは俺の願いだけどさ」

祥鳳が立ち上がった。

「私、最後まで見届けます!」

伊168と村雨が顔を上げた。

「川内さんはきっと、一人残してしまった事に凄く責任を感じてるんですよ・・・・・」

「私も、川内ちゃんが好き。友達が居なくなるのは嫌。だから私も見届けに行く!」

「天龍ちゃん。私達も行きましょうか」

「おう」

「皆、待って」

龍田はインカムをつまんだ。この召喚が吉と出るか凶と出るかは五分五分だ。

成功させるには剃刀並みのタイミングが必要だ。

龍田は通信を終えると、じっと見つめる面々に話し出した。

「計画を聞いてくれるかしら?」

 


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