艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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天龍の場合(13)

 

 

祥鳳の歓迎会が開かれた夜。鎮守府の浜辺。

 

「んー」

川内は鎮守府内で、艦娘達が祥鳳の話にどう反応するか、歓迎会の席で提督が話していた事を聞いていた。

そして歓迎会の席では、もう1人の姿をそっと追っていた。

川内は浜にごろりと転がった。目の前に明るい月が見えた。

「私はバレない内に、卒業しちゃった方が良い・・よね・・」

 

寝返りを打つと、細かい砂がパラリと舞った。

 

「でも、ここは居心地良いんだよね・・・」

 

川内はごろり、ごろりと寝返りを打っていた。

 

翌朝。

 

「・・・・あれ?」

教室のドアを開けたまま、きょとんとした声を上げたのは伊168だった。

天龍は伊168の方を見て聞いた。

「どうした?」

「祥鳳・・あなた、この鎮守府に異動したんじゃなかったの?」

書物から顔を上げた祥鳳は戸口を見て

「そうよ?天龍さんの助手になったの」

「助手?」

「まぁ、今までと変わんなくて良いって天龍さんは言ってるわ」

天龍が頷いた時、本鈴が鳴った。

「そういう事。んで、今朝はついに川内が遅刻かよ・・・・・」

村雨が言った。

「そういえば川内さんて、明るい内は寝るって言ってるのに毎日きちんと出席してますよね」

白雪がぽつりと言った。

「・・・今朝は寝坊したみたいですね」

天龍達は一斉に白雪を見た。

「何で解るんだ?」

白雪はすいっと窓の外を指差した。

「そこに居られますので」

天龍達が集まって白雪の指の先を追った。

 

「え?どこですか?」

「・・・見えねぇぞ?」

白雪は溜息を吐いた。

「皆さん、たかだか1km先の木陰で寝てる人が見分けられないなんて・・・」

「白雪さんの識別能力が凄まじく高いんだと思います・・・」

「そうでしょうか?」

「んじゃー、伊168、村雨」

「はい?」

「何ですか?」

「白雪の指す方向にまっすぐ行って、起こして来い」

 

果たして。

 

「居ました・・・ね・・・」

「結構遠かったんだけどさあ・・・しかも・・・なにこれ・・・」

「木の間で葉っぱを被って寝てますよ・・・」

「どうして白雪はこれを見つけたの?ありえないわよ・・・・」

村雨が傍に寄り、ゆっさゆっさと川内を揺さぶると、川内は寝ぼけた声を出した。

「んおー」

「川内さん、川内さん、朝ですよ。」

「あー・・・あと5分・・・」

「ダメですよ川内さん、起きてください。時間過ぎてますよ」

「司令官に・・・すぐ行くからって・・・言っといて・・・・zzZzZZ」

「何言ってるんですか、もう」

「夜戦の仕方教えてあげるから・・・響ちゃん・・・むにゃ」

 

村雨と伊168は顔を見合わせた。

 

「・・・報告したい事があるって?」

時は昼休み。

 

皆で食事をした後、天龍はそっと間宮の売店でカステーラを買い、講師の控室で一口目を食べようとしたその時。

村雨と伊168がやってきて、そう告げたのである。

「頼む。カステーラは勘弁してくれ。俺の楽しみなんだ。」

「解りました。1切れを二人で半分こします」

「勘弁してくれてねぇじゃねぇか・・・まったく・・1切れだけだぞ・・・」

「ありがとうございます」

 

「響って、言ったのか?」

「はい」

「ふーん」

天龍は頬杖をついた。

寝起き直後は過去の記憶と現在がごっちゃになる事がある。

文字通り寝ぼけていた可能性もあるが、天龍組に居ない響と言い間違えるのもおかしい。

天龍は川内のファイルを開いた。

過去所属していた鎮守府の番号を見ると、空白になっていた。

川内が回答していないという事だ。

「今なら、思い出してるって事かな。それとなく聞いてみるか。ありがとうな」

「いえ、川内さんにも祥鳳さんみたいに良い方向へ行って欲しいですから」

「先生、任せました!」

「おう」

 

帰りのホームルーム。

 

「川内、居残りな」

「うぇー!?」

「遅刻したんだから当然だろ」

「うー」

「じゃーねー」

抗議の声を上げる川内を置いて、村雨達は教室を後にした。

そして、ちょこんと座る天龍と祥鳳を見て、

「・・・あ、そっか。祥鳳ちゃんも助手だもんね」

と、眠そうに顔を上げた。

天龍は矛盾を感じて問いかけた。

「ん?なんで今朝のやり取りを聞いてないのに助手の事を知ってるんだ川内?」

すると川内は急にドキリとした顔をし、目をきょろきょろさせた後、

「あ、き、昨日の提督と天龍先生の会話が聞こえたから・・さ・・」

と言った。

天龍は頬杖をつくと

「あの宴席の中で普通の声で話してたのに良く聞こえたなあ」

川内がぱたぱたと腕を振り、明らかに挙動不審になった。

「い、いやその、あの、そう!私は耳が良いの!良いのよ!」

「それにしちゃあ今朝は随分呼んでも起きなかったらしいじゃねぇか」

「あ、朝が・・・弱い。そう!低血圧なのよ!」

「でも今日までずっと無遅刻だったじゃねぇか」

「げっ」

「げっ・・・って・・・それは良い事なんだからさ・・・」

「・・・・。」

川内は俯いてしまった。

 

教室に、静寂が流れた。

天龍はじっと川内を見ていた。

この態度は、何か言いたいけど踏み切れねぇって感じか。何が引っかかってる?

「記念すべき祥鳳の初仕事なんだから、お手柔らかに頼むぜ」

天龍が肩をすくめながらそう言うと、川内は俯いたまま口を開いた。

「・・・祥鳳ちゃん」

「何かしら?」

「ここは良い鎮守府だよねぇ・・・」

祥鳳は頷くと、

「そうね。たまたま艦娘化の為に辿り着いた先だったけど、色々びっくりしたわ。こんな所もあるんだって」

「普通じゃないよね」

「ええ。ここまで艦娘に任せている鎮守府はそうそうないでしょうね」

「・・・良かった」

天龍は川内が消え入りそうなくらいの小声で呟いた一言にピクリと反応した。

「何がだ、川内?」

「え?」

「良かった・・・って、言ったよな?」

しまったという表情になる川内。

「え、あ、い、いや、ええと、ええと、い、居心地が良かったって意味だよ!」

祥鳳が首を傾げながら

「確かに居心地は良いけど、別に隠すような事じゃないでしょう?」

「う・・・え・・・いや、あの、私じゃなく・・あわわわ」

天龍は賭けてみる事にした。

「響か?」

川内が目を見開いた。

「なっ!?何で知ってるの!」

次の瞬間、川内は天龍の襟首を掴み、物凄い勢いで締め上げながら

「ダメだよ!あの子に絶対言っちゃダメ!ダメなんだから!」

天龍は目を白黒させながら川内の腕をパシパシと叩いた。締められ過ぎて声が出ない。

「ちょ!川内、止めなさい!貴方がダメよ!」

「あ」

我に返った川内が手を離し、ぜいぜいと息をする天龍。

賭けは成功だったが、どストライク過ぎたって事か・・・なるほど。大変な仕事だぜ、提督。

しゅーんと俯く川内を見ながら襟元を正した天龍は

「全部喋ってみろよ川内」

と話しかけた。

 

 


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