艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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天龍の場合(8)

 

 

白雪と天龍の司法取引が成立した昼食会の席、鎮守府食堂の中。

 

天龍がジト目で川内と白雪を見た。

「司法取引に応じたんだから動機位言え」

「満腹にあと少し足りませんでした」

「先生トンカツ全然食べてなかったからダイエットしてるんだなって」

「俺は超楽しみにしてたんだよ!5切れ全部取りやがって!」

「好物を最後に取っておくなんて、ブルジョワのする事です」

「そうだよ、でないと取られちゃうよ」

「だからってホントに盗るな・・・足りないならご飯のお代わり行けよ」

「駆逐艦や軽巡にはおかずのお代わりくれないじゃないですか」

「トンカツお代わり出来るなら行ったけどさ」

「お前らなあ」

そこに、祥鳳がトンカツの乗った小皿を天龍の前にことんと置いた。

天龍と川内と白雪が一斉に見た。

「えっ?」

「トンカツ!」

「しょ、祥鳳・・・これどうした?」

祥鳳が肩をすくめると

「トンカツのお代わり欲しいですって頼んだんです。あたしは一応空母ですから」

「戦艦・空母特権か」

「正規空母さんのように全てのおかず無制限という訳ではないですけど。じゃ、私は1切れ貰いますね」

「あっ・・真ん中」

「おいし♪」

天龍は溜息を吐きながら小皿に視線を戻して目を見開いた。

「・・・なんで3切れしかねぇんだ?」

いや、待て。犯人探しより先に食べてからだ。

天龍は真ん中の2切れをガッと掴むと、一気に口に入れた。

「あー!」

「一気食い!贅沢!」

天龍は涙目で頬張りながら、空いた箸で川内と白雪をビシビシと差した。

「おひゃへら、まひゃふひゃひれひゃへひゃはろ!」(お前ら、また二切れ食べただろ!)

しかし、川内と白雪は肩をすくめた。

「今度は私達してませんよ?」

「司法取引がパアになったら困るし、私達が1切れずつ食べたら残りは2切れじゃないですか」

疑いの眼差しでしばらく二人を見たが、渋々小皿に箸を戻すと、再び空を切った。

「!?」

はっとして反対側を見ると、伊168と祥鳳がゆうゆうと食後のお茶を飲んでいる。

更に視線をずらすと、やけに慌ててお茶漬けをかき込む村雨が居た。

天龍は3秒考えた後、

「祥鳳、一口羊羹1本」

祥鳳は首を傾けた。

「2本。ここまでだ」

祥鳳は肩をすくめると

「見て解るじゃないですか」

「・・・どこをだよ?」

「村雨ちゃんは口元に衣がついてて、伊168さんは袖口にソースがついてます」

がばっと確認する二人に、

「とかあったら解りやすいですよね」

「あっ!引っかけたわね!」

「仲間を売るなんて酷いです!」

天龍はゴゴゴゴと真っ黒い気配を漂わせると、

「お・ま・え・ら」

「み、見たら祥鳳さんが取ってたし、御飯だけだと寂しくて!」

「ひっ!だ、だって!一気に食べた後に残ってたから!」

「罰として、二人で一口羊羹2本ずつ買ってこい。今」

 

「美味しいですねえ」

「ほんと、旨いなあ」

「羊羹はこう、きちんと切ったのを少しずつ頂くのも良いですけど」

「一口羊羹を丸かじりするってのも」

「美味しいですよね~」

「甘い物の後は渋茶がたまんねぇな!」

伊168と村雨がジト目で見る中、ずずずと渋茶を啜る天龍と祥鳳。

「川内さんと白雪さんが司法取引で私達が罰金刑って不平等じゃないですか」

「不平等はんたーい」

天龍はじろりと伊168と村雨を見ると

「司法取引ってのは先着順でな、カルテル摘発でも順を追う毎に罪が重くなるんだ。嫌なら盗るな」

「ちぇー」

「はーい」

「・・・伊168は反省の意が見られないから、今日のおやつ当番を命ずる」

「うえっ!?」

「ほらお前ら、お菓子の希望を言いな」

ところが祥鳳達はしーんとしている。

「・・・・どうした?」

「だって」

「明日は」

「我が身ですから」

「ここは庇うのが仲間かと」

その言葉にぱぁぁっと表情が明るくなる伊168と反対に、天龍のこめかみで青筋がぷちんと切れた。

「お前ら!また俺の飯盗る気マンマンなのか!!!」

「食事はスポーツです!」

「真剣勝負です!」

「戦場です!」

「油断した者の負けです!」

「そんな殺伐とした雰囲気じゃなくて、仲良く飯食おうぜ・・・」

「今日は煮物と生卵で負けたけどトンカツで勝ったよ!」

「海苔と煮物は逃がしません。あとトンカツ2切れはボーナスでした」

「ご飯美味しいです。でもトンカツはもっと美味しいです」

「シメは生卵ダブルの卵かけごはんに限ります。トンカツは真ん中一切れを追加で食べましたから良いです」

「海苔を盗られたのは不覚だったけど、トンカツ3切れは美味しかったから良し!」

「お前らなぁ・・・・ま、やるなら勝手にしろ。だが、俺の飯を盗るな」

「我々天龍組の元締めじゃないですか」

「競技でハブるのは可哀想です」

「一緒に差しつ差されつのスリルを楽しんでほしいですし」

「なにより、私達のボスじゃないですか」

何だか解らないが仲間意識を感じて天龍がうるっとしたが、

「まぁ、一番隙が多いので取りやすいんですよね」

「しっ白雪ちゃん!今はダメだよ本音言ったら!」

「あら失敬」

という白雪と川内の発言を聞いて涙が引っ込み、無表情になると、

「3日間バンジー抜き」

「えええっ!」

「今日は21時就寝」

「ちょ!とばっちり!!」

「うるさい」

そしてジト目で残りのメンバーを見ると

「お前らもまだ俺からメシを盗る気か?」

3人はぶるぶるぶると首を振った。

 

午後。

 

食事が済んで一番眠くなる筈の時間。

天龍のクラスでは怒号が飛び交っていた。

 

伊168と祥鳳はミサイル攻撃最強論を展開し、白雪と川内は直接攻撃最強論を展開していた。

「離れた場所の地下から攻撃出来るんだから長距離弾道ミサイル以上に有効な策は無いわ」

「飛ばす前に司令部に切り込んで殲滅させれば良いじゃない。夜の闇に紛れれば基地攻めなんて大した事ないわ!」

「その前に撃つもん!電探張りまくってやる!」

「MD防衛はテクニカルな問題があります。互いに攻撃して防衛出来ずに滅亡しては意味がありません」

村雨はペンを持ったまま目を白黒させていた。

ふと、皆の目が一斉にこちらを向いた。

「どう思う!村雨ちゃん!」

「へっ?」

「そうよ、貴方も意見を言いなさい!」

「あ、あの、ええと」

「今2対2です。貴方がどちらに着くか、その論理が納得出来るかで決まります」

「ふええっ!?」

「直接攻撃だよね!それも夜戦で!」

「・・・・」

村雨は必死に頭を回転させていたが、

「み、ミサイルが良いかなって・・」

「切り込んで戦うのは何でだめなのよ!?!」

「え、えっと、川内さんは強いです」

「う・・・ありがと・・」

「でも、私は弱いです」

「・・・・」

「ミサイル発射なら私でも操作出来ますが、直接攻撃で私がまぐれで生き残っても碌に攻撃出来ません」

「・・・」

「だから、きっと、最後まで戦力が落ちないのは、ミサイル攻撃かなと」

白雪がくすりと笑った。

「装置が壊れなければ、ですけどね。ただ、オペレーターの技量に依存が少ないのは貴方の言う通りです」

「!」

「でも最初のタイトルは、味方が最も傷つかずに敵を倒す方法でした」

「!!!」

「ミサイルが撃つ人の技量に依存度が少ないのはその通りですが、相手の撃ってきたミサイルを防ぐ技術が無い」

「・・・・。」

「カーフェリーに自動車爆弾を積んで突っ込ませるのと同じく、防げなければ味方は傷付いてしまう」

「・・・・」

「そこは、どうお考えですか?」

 

 

 


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