艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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天龍の場合(7)

 

 

夕食会の翌日、鎮守府教室棟。

 

「だから、ミサイルぶちかませば良いじゃない」

伊168が拳を振って力説する姿に、村雨はペンを持ったまま目を白黒させていた。

 

きっかけは天龍が朝何気なく言った事だった。

 

「硝煙の匂いってサイコーだよな!」

祥鳳が頷いた。

「直接撃ちあうのは正々堂々としてて素敵ですよね。艦載機なんて卑怯臭い物要りません」

伊168がぽつりと言った。

「でも、直接撃ちあえば優秀な艦娘でもまぐれ弾に倒れるかもしれない。間接攻撃にすべきよ」

村雨が首を傾げながら言った。

「間接攻撃となると、艦載機による空爆攻撃しかないですよね・・」

白雪が言った。

「爆撃機が来る事が解っていれば互いに戦闘機を出しますから、航空機同士の直接攻撃になりますよ」

天龍が言った。

「じゃ、村雨」

「はい」

「味方が最も傷つかずに敵を倒す方法を、5人の意見としてまとめな」

「・・・・へ?」

「ちゃんとお前の意見も入れるんだぞ。今日中な」

と言って、天龍は講師用の席に腰かけると、書類に向かってしまった。

村雨はごくりと唾を飲み込んだ。嫌な予感がする。むしろ嫌な予感しかしない。

ちらりと後ろを見ると、既に伊168と祥鳳が睨みあっている。

川内は寝始めたばかりなのでぴくりともしない。

白雪は外を見ている。

村雨は講義ノートを取り出した。ここの鎮守府で学んだ色々な事が書かれている。

藁をもすがる思いでページをめくっていくと、1つの単語が目に飛び込んできた。

「ブレーンストーミング法」

よし、これをやっちゃおう!

 

「え・・・えええええと、祥鳳さん、伊168さん、白雪さん、川内さん」

「なにかしら?」

「なによ?」

「・・・」

「zzZZzZZZ」

「これからブレーンストーミング法で、味方がより傷つかずに敵を倒す方法について、意見を出しませんか!」

 

しーん。

 

反応が無い、ように村雨は思った。しかし。

 

「あら、あらあらあら」

「へぇ」

「面白そうですね」

「ちょっとだけ参加する・・・むにゃ」

 

やる気に満ち溢れた面々の顔がそこにあった。

というか、少し溢れすぎている気がする。

寝てた筈の川内まで目だけこちらに向けているし。

「どうやるの?」

「ええと、あの、今回はブレーンストーミングで、ち・・・」

4人が一斉に反応する。

「ち?」

村雨は両手をぎゅっと握ると、

「チーム戦で勝った方の意見を採用します!」

4人が頷いた。

「良いわね・・で、どうやってチーム決めるの?」

村雨はノートの白紙のページにばばっと5本の縦線を引いた。

「アミダです!横線は天龍先生に引いてもらいます!」

天龍はひょこっと顔を上げた。

「呼んだか?」

「先生!アミダの線引きお願いします!全員別の所に行くように引いてください!」

「おう、良いぜ」

「引いた横線を隠して返してください」

「こう・・畳めば良いよな・・ほらよ」

「はい。じゃ!名前を書いてください」

途端にキン、という音がした。

伊168のペンと祥鳳のペンが右端の上空でがっちりぶつかっている。

「右端、私が書きたいんですけど」

「奇遇ね。あたしもよ」

村雨は見る間にどす黒くなっていく二人の雰囲気に切り込んだ。手遅れになったらまずい!

「じゃんけん!3回勝負で!行きますよ!最初はグー!」

両腕を振って捲し立てる村雨に気圧された二人はじゃんけんの姿勢に変わった。

天龍はその様子を遠くから見ていた。なるほど、あの二人には今度からああしよう。

 

「な・・・なんで15回も続けてあいこなんですか・・・・」

掛け声を出すのに疲れ切った村雨に対し、祥鳳と伊168が同時に相手を指差す。

「だって!向こうが!」

そこで白雪がくすっと笑うと

「気が合うんですね」

祥鳳と伊168が真っ赤になって白雪に反撃する。

「違っ!」

「違いますわ!」

だが白雪はにこにこしたまま

「アミダが始まらない以上、お二人でチームになっては如何ですか?」

「う」

白雪が村雨にパチンとウインクすると、村雨は瞬時に意味を理解した。

「じゃ!祥鳳さんと伊168さんで1チーム!白雪さんと川内さんで1チーム!私が書いてまとめます!」

そして天龍を振り返ると

「すみません!このアミダは次の機会に使います!」

「おう。あ、これ使え」

村雨にぽいと放り投げたのは付箋紙の束だった。

村雨は頷き、

「ありがとうございます!じゃ!まずは手段をどんどん挙げてください!」

白雪が継いだ。

「ご意見は一言で。付箋紙に書ける長さまでにしましょう」

 

 

昼の鐘が鳴った。

 

村雨は付箋紙に「カーフェリーに自動車爆弾満載」と書き込むと、肩で息をしながら、ぱたりとペンを置いた。

「ふ・・・付箋紙が・・・無くなりましたので・・・これで終わりにします」

「えー」

「しょうがないわよ、紙もないし、御昼の鐘も鳴ったし」

白雪がにこりと笑うと

「じゃあ午後は出た手段から抽出して優位理由を検討しましょう。お疲れ様でした」

と言って、村雨の肩をぽんと叩きながら、席を立った。

天龍がパンパンと手を叩きながら言った。

「よーし。んじゃあ昼飯食べに行こうぜ!」

机にへちゃりと突っ伏していた村雨に、川内が

「村雨ちゃん、一緒に行こっ!」

と声を掛けた。

村雨はピクリと反応し、ふんすと息を止めて起き上がると、

「うん!」

と言って起き上がった。

 

「おぉ・・・」

天龍は思わず唸った。

普段は行儀良く食べている村雨が、伊168が、祥鳳が、貪るように昼食をかきこんでいる。

「今日はずいぶん食べるなあ」

という天龍の言葉に

「あれだけ意見言えばお腹空くわよ!」

「3時間喋りっぱなしだったんですから!」

そう、伊168と祥鳳は返したが、村雨はむぐむぐとご飯を飲み込みつつ席を立ち、間宮に茶碗を差し出すと、

「お代わりください!」

「あらあら、次も一杯召し上がりますか?」

「はい!」

「じゃあ重たくしておきますね」

「ありがとうございます!」

といって、再び席に着くと物も言わずに続きを食べ始めた。

天龍はその様子に苦笑しながら、自分のトンカツを箸でつまもうとしたが、箸は小皿の上で空を切った。

「・・あれ?」

楽しみにしていたトンカツが丸ごと無い。

ふと目線を上げると、白雪と川内が明後日の方を向いてもぐもぐと口を動かしている。

天龍はジト目で睨みつけた。

「・・・・どっちだ?」

何の事でしょうというような視線を寄越した川内と白雪だが、天龍は川内のこめかみを流れる汗に気付いた。

「川内・・・・最後のチャンスだ。司法取引に応じてやっても良いぜ」

白雪が非難する目で川内を見た。川内はごくりと飲み込むと、口を開きかけたが、

「・・・あ」

と言って、白雪に向かって目を見開くと硬直した。

天龍は溜息を吐くと

「白雪、法廷ごと爆破するのはナシだ」

「中南米辺りでは常套手段かと」

「いいから、机の下で突きつけてる酸素魚雷の安全装置を戻せ」

「司法取引を要求します」

「・・・二人とも今日のおやつ抜きでカンベンしてやる」

「起爆します」

「1週間バンジーと夜戦演習の禁止も追加するか?」

「・・・止むを得ませんね。ではおやつ抜きで」

「おうよ」

村雨が恐る恐る机の下を覗き込むと、白雪が器用に酸素魚雷の安全装置を掛ける所だった。

冷や汗がどっと出た。あれ実弾じゃん!

顔を上げた村雨に、白雪はにこりと微笑んだ。

「これを瀬戸際外交というのですよ」

村雨はこくこくこくと頷いた。

こんなにも平和は儚いものなのだと噛み締めながら。

 

 


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