艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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天龍の場合(2)

 

村雨の試験勉強に付き合い始めて1週間後、鎮守府教室棟。

 

「ふーん」

天龍は自分のクラスで、村雨の答えたSPI(適性検査)結果を見ていた。

最初は赤裸々どころか本音がダダ漏れだったが、上手に対応するようになった。

俺と2人きりで行う面接もそこそここなせるようになった。

そろそろ、頃合いかな。

目の前でちょこんと座っている村雨に、天龍は書類を見たまま声をかけた。

 

「村雨さぁ」

「なんでしょう?」

「面接やってみっか」

「あ、はい。じゃあ相談室に移動して・・」

「いや、今日はここでやろうや」

「!?」

村雨はババッと教室を見回した。

天龍のクラスは皆で1つの講義を受けるといった、いわゆる授業らしい授業が無い。

それぞれが個別に課題に取り組んでいる。

人数も現時点では4人しかいない。教室はガラガラだ。

しかし、その4人は極めて濃かった。

 

遠い目をし、いつもぼうっと窓の外を見ている白雪。

しっかり服を着て眼鏡をかけ、黙々と分厚い参考書に向かう祥鳳。

夜戦以外興味無いと、2000時まで寝続ける川内(今も机に伏して寝てる)

軍服と防弾チョッキを着て本を読んでいる伊168。

 

「ぃよっし!じゃあ面接官はこの席座るから、村雨は教壇な」

と言いながら、天龍は教壇正面の席を叩く。

「えっ!?あのっ!こ、ここでですか?」

「大丈夫だよ。別に誰もここで面接やったって怒りゃしねぇよ」

「う・・あ・・は・・はい・・」

「最初からやろうぜ。一旦棟の外に出て、1分待って戻ってきて教室のドアをノックする。な?」

村雨は数秒目を瞑り、

「解りました」

と答えつつ、後ろ手に教室のドアを閉めて出て行った。

すると、祥鳳と伊168がじゃんけんをし、伊168が悔しそうな顔をした。

「あーもー、また負けたっ!」

祥鳳が天龍が立ったばかりの席に座ると、

「天龍さん、私が最初で良い?」

「おう、奇天烈な質問かましてくれ」

伊168は祥鳳の隣に座ると

「アタシは?」

「例の質問頼む。あと、伊168と祥鳳とはケンカ腰な」

「ええっ、また?・・・・ねぇ川内さん代わってよ」

「zzZzZZ」

「川内起きろ、仕事だ」

「んあー?外明るいじゃんよぅ」

「伏したままで良いから質問1つ言え。伊168も何とか頑張れ」

「うーい」

「はーい」

「白雪、最後に専務って言って振るから判定を。後、講評を頼む」

「・・・・天龍さんは?」

天龍は入り口脇の席に腰を下ろすと言った。

「俺は司会」

 

コン、コン。

「はい、どうぞー」

天龍は事務的な口調で答えた。

それを合図にガラガラとドアを開けながら、村雨は用意した台詞を発した。

「失礼しぃっ!?・・・します」

戸口で呆然とする村雨に、天龍は小さく頷いた。そうでなきゃ練習にならねぇ。

「では、部屋の中央へどうぞ」

「あ、は、はい」

 

ぎくしゃくと歩く村雨が教壇に上るまでの僅かな時間、村雨と天龍は目と身振りで会話した。

 

 「ど、どどどどどういうことですか?」

 「俺が面接官とは一言も言ってないぜ?」

 「うー」

 

「では、お名前を」

「は、はい。村雨です。よろしくお願いいたします」

白雪が何かを小さくメモしたのを見て、村雨は唾を飲んだ。

えっ?白雪さんまでグル?

そこに祥鳳がニコニコ笑って言った。

「で、当社なんかに何のご用でしょうか?」

村雨は目を見開いた。か、考えるのよ。これはすべて罠。切り抜けないと!

「御社は水産加工品で世界を相手に勝負されていて、私も」

話を遮るように伊168が言った。

「勝負はしてないわよ。ところで、貴方はここで何がしたいのかしら?」

村雨は言葉を切ってしまった。

すると、ニコニコしたまま急速にダークな雰囲気を纏った祥鳳が伊168に噛みついた。

「私の質問に答えてくださってるのに、横からごしゃごしゃ言わないでくれません?」

伊168は祥鳳を無視し、村雨を睨みつけた。

「何がしたいのって聞いてるんだけど、そんな事も答えられないのにここへ来たの?」

村雨はきょろきょろと祥鳳と伊168を交互に見た。

「え、えと、わ、私は」

途端に祥鳳がギロリと村雨を睨んだ。

「当社に何の御用かって聞いてるんですけど・・・私より伊168の言う事を聞くのかしら?」

「ひっ・・・あ、あの」

「貴方、自分の事も解らないの?」

「ええっ!?」

そこで川内ががばりと起き上がると

「村雨ちゃん」

「は、はい!」

「・・・夜戦好き?」

「・・・はい」

「ん、よし・・・zzZzZZ」

ずっと黙っていた天龍が

「では専務、判定をお願いします」

という声に白雪がこくりと頷いたのを、村雨はぎょっとした目で見た。

「残念ながら、当社では採用出来ません」

村雨の口がかくんと開いたのを見ながら、天龍が手をパンパンと叩いた。

「はーい、皆サンキューなー」

「お疲れ様でした」

「村雨ちゃんもお疲れさま!」

「zzZzZZ」

「・・・・」

そこで我に返った村雨は、顎に手を当ててむぅと考え込んだ。

本当の面接会場でここまで酷い事態が揃う事も無いだろうが、それぞれの要素は考えられる。

余りに酷過ぎる状況で却って冷静になった。

天龍は意外、という表情をしつつ村雨に声を掛けた。

「怒鳴ってくるかと思ったけどな」

「めちゃくちゃ驚いたけどね」

「それが狙いだからな」

「でも、相手の意図はともかく、面接が行儀よくトラブルなく進むとは限らない」

「そういうこと」

「天龍さん」

「なんだ?」

「白星食品の面接試験って、圧迫方式なんですか?」

天龍は片目を瞑ってガシガシと頭を掻いた。

「んー・・・圧迫じゃねぇんだが、ビスマルクは厳格に会社を運用してる」

「はい」

「そのノリのまま質問飛ばしてくるから、厳しいと感じる事はあるぜ」

「例えば?」

「さっきの伊168の問いはビスマルクが実際に聞いて、ほとんどの奴が答えたのに不合格にされた」

「ええっ!?」

「唯一合格したのはたまたま訪ねた時に答えた不知火だけって聞いてる」

「不知火さんって・・事務方の?」

「おう、あの大魔神だ。以来ビスマルクから再三転職しないかって誘われてるらしい」

「何て答えたんですか?」

「試験終わったら教えてやるよ。でないと万が一聞かれた時に口から出たらアウトだからな」

「そっか」

「とにかく、今のままだとちょっとカマかけられたら答えが出てこなくなるってのは自覚したな?」

「ええ、先輩方と天龍さんのおかげです。ありがとうございました」

「・・・村雨って、真面目というか、礼儀正しいよなあ」

「なんですか急に?」

白雪がジト目で天龍を見ながら言った。

「そうですね。私達は真面目でもなく礼儀正しくも無いですからね。先生も含め」

天龍が頬杖をがくっと外した。

 

 

 


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