艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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摩耶の場合(4)

 

 

カレー小屋再開から3ヶ月が過ぎた、ある金曜日。

 

戦艦隊、整備隊の希望者が全員艦娘化に成功し、広く希望者を受け付ける事になるらしい。

この話は瞬く間に海域の深海棲艦達に知れ渡った。

カレーを取り分ける摩耶にも、

「艦娘化ヲオ願イスルノハドコデ頼メバ良インデスカ?ア、辛口デ」

と、直接聞いてくる深海棲艦が次々現れたのである。

片付けをしながら、島風が言った。

「そろそろ、他の子達の目を気にせず艦娘化の相談が出来る空気になってきたのかも」

夕張も頷いた。

「そうね。私にも艦娘化希望者の募集が始まったら教えてって直接言われたわ」

鳥海と摩耶は顔を見合わせた。

「んー、相談の受け方、ちょっと変えてみるか?」

「そうね。姉さん達にも聞いてみましょう」

 

「そっか、前はあんなに怖がってたのに、オープンに言えるようになったのね」

高雄は感慨深げに頷きながら報告を聞いていた。

「そうねえ。今の方法も一部残して、カレー配布中の受付窓口も再開したらどうかしら?」

愛宕の意見に摩耶はふむと頷いたが、

「窓口なあ・・・でも人員不足なんだよな・・・」

「どういう人が居れば良いの?」

「仮に窓口を夕張と島風に任すなら、皿洗い。鳥海だけじゃ圧倒的に不足する」

「皿洗いだけ?」

「とりあえず」

「じゃああたし達が行くわよ」

「姉貴達が?めちゃめちゃ忙しいんじゃないのか?」

「最初の頃は忙しかったけど、今は金曜のお昼位抜けても平気よ」

「カレー小屋ってあったかい雰囲気だから好きなのよ~」

摩耶は首を傾げながら

「そんなもんかな・・・まぁ、姉貴達ならホント助かる。来週からで良いか?」

「良いわよ!」

「よぉし、やるぜっ!」

 

 

カレー小屋再開から4ヶ月が過ぎた金曜日。

 

「はいは~い!艦娘化希望の方はこっちよ・・ち!ちょっと!押さないで!机が壊れる!」

「相談受付はこっちだよ~!見学会参加の人もこっちだよ~!」

 

再配分により夕張が艦娘化専用窓口の作業を、島風が秘匿相談を受け付けていた。

そんな中、受けた相談を見直していた島風が、

「艦娘化の後が不安だって話があるの。こんな生活になりますってのを見学出来ると良いんじゃないかな?」

と言い、陸奥やビスマルクと相談し、研磨所と食品工場を見学させてもらえる事になった。

また、東雲組にも相談し、艦娘化作業自体を見学する事も許してもらった。

こうして、島風は見学会の受付も引き受ける事になったのである。

夕張の方は予想以上の深海棲艦が長蛇の列をなし、カレーを食べながら列に並ぶ強者も居た。

一方、島風の方も数は少なかったが、順調に見学会への応募が集まったのである。

 

 

翌日の土曜日。

 

「島風、こっちよ!皆さん、こちらをご覧ください。工場の内部です。ここはかまぼこを作ってるんですよ」

島風の引率で見学に訪れた深海棲艦達は、ビスマルクの説明を熱心に聞いていた。

ビスマルクは説明も上手であったが、

「え?あの機械?あれはかまぼこの形を整える機械。あれを置く時には色々あってね・・」

と、話が逸れて長引いてしまうのが珠に傷である。

一方。

「これが原石、これが研磨した後。ほら、こんなに小っちゃくなっちゃうの」

陸奥はサンプルを見せながら説明していく。

「これ・・・お土産・・・キーホルダー・・・」

見学の最後で、弥生が小さな動物の形に削った石を付けたキーホルダーを籠一杯に持ってくるのだが、

「カワイイ!」

「コレ欲シイ!」

「ア、私モソレ欲シイ!」

「ちゃ・・・ちゃんと・・・並んで・・・・沢山あるから・・・」

と、深海棲艦達の迫力に気圧されながらも、頑張って対応していた。

 

 

週明けの月曜日、提督室。

 

「減らない?」

「そうなんだよ・・・艦娘化希望者数の合計が300どころか500も超えちまってさ・・・」

「何回も受付してる子が居るのかな?」

「番号札を渡してるし、順番に鎮守府に受け入れてるからそんな筈ないんだ・・・」

摩耶は高雄と共に提督室を訪ねていた。

理由は毎週のように大量に押し寄せてくる深海棲艦達が一向に減らない事だった。

提督は秘書艦当番だった長門と顔を見合わせた。

「うーん、ちょっと陸奥に聞きに行こうか・・」

 

陸奥は研磨作業用ゴーグルを額に押し上げながら言った。

「そうよ。あの時、隊に所属せず、傭兵にもならなかった子は500体位の筈よ」

提督は頷いた。

「計算は大体あってたな。摩耶、先週時点で何体応募が来てるんだ?」

摩耶は肩をすくめながら答えた。

「713」

陸奥が首を傾げた。

「明らかに勘定が合わないわね・・」

「だろ?しかも夕張が言うにはさ、週を追う毎に増えてるって言うんだ」

長門と陸奥は揃って眉をひそめた。

「増えてる?」

「そうなんだよ・・あたしも見てるけど、行列が長くなってる気がする」

陸奥がごくりと唾を飲み込んだ。

「まさか・・外から来てるんじゃ」

全員が一斉に陸奥を見た。

「外?」

「だって、海域の深海棲艦は、東雲ちゃんがここに居る以上増えるはずないじゃない」

「だよな」

「そして、多く見積もっても500って筈なのに、700を超えたって事は・・・」

「あ、あたし、来週聞いてみる」

「そうか。来てる子達に直接聞いてみりゃ良いのか」

長門が継いだ

「もし外から来てるなら、なぜ来たかも確認しておいた方が良いだろう」

「お、おう、そうだな」

 

そして金曜日。

 

「ウン、僕ハコノ海域ニハ住ンデナイヨ」

聞き始めた最初の1人が海域外の深海棲艦だった事に、摩耶は複雑な表情を浮かべた。

「コノ海域ニ移住シテコナイト、ダメナノ?」

「いや、そんな事は無いんだけどさ、なんでここの事を知ってるのかなって」

「僕ノ周リデハ有名ダッタヨ?美味シイカレーガ食ベラレル洋食亭ト、艦娘ニ戻シテクレル病院ガアルッテ」

「そっか・・・一緒に来た子は居るのか?」

「ウン。アノ辺デカレー食ベテル子達」

指し示した方を見ると十数体の深海棲艦が楽しそうにカレーを食べている。

「あの辺り・・・全部か?」

「ウン。皆デ来タヨ。何ヶ月カ待ツッテ聞イテルシ、移動中ニ襲ワレタラ怖イカラ」

「結構遠い所から来たのか?」

「ソウダネ・・・ココヨリハズット寒イ所ダッタヨ」

「他に、ここに向かってきてる子を見かけたかい?」

「ウン。僕達モ前ノ集団ニ付イテイッタシ」

摩耶は頷いた。間違いない。

 

 

その日の夕方、提督室。

 

摩耶は提督と、本日の秘書艦である比叡に向かって報告していた。

「そうか。遠方で噂を聞きつけ、道中の安全も考えて大勢で来てるって事か」

「ああ、それで間違いないと思うぜ。カレーの出る数もずっと増え続けてるしな」

「とすると、300とか500って数字は全くアテにならなくなるな」

「まぁ、既に今日の時点で804だしな・・・」

「は、804!?」

「1日で100体近く手続きした。受付の夕張が突っ伏してしばらく起きてこなかった」

「色々な意味で見直しが必要だな。研究班を全員呼んでくれ」

「おう、行ってくるぜ」

「比叡、調査隊の鈴谷と索敵支援隊の山城を呼んでくれ」

「あ、はい、解りました。」

 

 


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