艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

168 / 526
摩耶の場合(2)

 

 

1年前、カレー小屋再開の朝。0850時。

 

「うぅ~ねむいよ~」

「・・・ZzzZz」

いつも通り、いや、いつも以上に眠さ全開の島風と夕張。

姫の島事案ですっかり時間軸が狂ってしまい、折角身に付いた早寝早起きの習慣が崩れていた。

鳥海は何度か起こそうと声を掛けたり揺さぶったが、摩耶の到着を見て肩をすくめた。時間切れだ。

金剛が島風達を見て

「夕張・・立ったまま寝るとは器用デスねー」

と苦笑した。

「まったく!少し気合いが足りんのではないか?」

叱ろうとする利根を摩耶は無表情なまま制し、「2.5」とラべリングされたカプセルを二人の口に押し込んだ。

数秒間、島風も夕張も無反応だったが、突然カッと目を見開くと

「かひゃい!かひゃいいいいい!!!!」

「うぉぉぉぉぉ!ひ!ひうぅぅ!」

と、真っ赤になって口を押えながら浜を転がりだした。

討伐隊の面々が何事かと摩耶を見ると、摩耶は冷たい笑みをたたえたまま、懐から小瓶を取り出した。

多摩がきらりと目を光らせた。

「デスソースにゃ!カレーに入れるのかにゃ!?」

「いんや。こいつらの目覚まし専用さ。多摩のカレーには入れようか?」

「入れて欲しいにゃ!」

「ちょっとだけな」

「にゃ!」

金剛はごくりと唾を飲み込んだ。摩耶、全く躊躇せず実行しましたネー

筑摩は思った。こうなると解ってるなら、なぜこの二人は昨日だけでも早く寝ないのでしょう?

夕張と島風はようやく起き上がると、鳥海から貰った牛乳を飲み、

「ちょっと!この前と比べて物凄く増量したでしょ!少しは警告してよ!というか手加減してよ!」

「島風、もうちょっとで天国にぶっ飛んでいく所だったよっ!」

摩耶は二人の猛抗議を平然と受け流すと、

「討伐隊の皆が出張ってくれてるのにダラけてるからだ。そもそも紛争地に行くんだから気を付けろ」

そして、目をすっと細めると、

「提督は第1艦隊出してでも守るって言ってくれた。期待に応えなきゃ承知しねぇ」

ただならぬ迫力に夕張と島風は手を取り合って首を縦に振るしかなかった。

霧島は思った。癖の強い部下を動かすにはこれくらい必要なのですね。勉強になります。

 

小屋に着いた一行は小屋周りの清掃を終えると、コンロでカレーを温め始めた。

ご飯を炊く柔らかい匂いも程なくし始める。

「それにしても・・・」

摩耶は腰に手を当てて岩礁を眺めた。かなり足場の汚れが酷い。

「ん!とにかくしっかり掃除してから店開けるっ!夕張!甘口カレー作り始めなっ!」

「はぁい!もう作り始めてるわよ!」

「よしっ!残りの皆で掃除するぜっ!」

 

 

そして迎えた昼。

 

討伐隊が交代で掃除を手伝ってくれたので、いつもの時間に開店を迎える事が出来た。

摩耶は思った。

いつも通りと言えば、毎週最初に来てたイ級達は、今は他の子達と食堂で食べてる頃だ。

ちょっと調子狂うな・・・あれ?

ザバァ。

「来マシタ!」

「お前達・・・食堂で御昼食べられるだろ?」

2体はニコッと笑うと、

「金曜ノオ昼ハ、ココデ、カレー!」

「私達ノ、習慣!」

と言った。

摩耶はふっと笑うと、

「おい、復活第1号と2号!大盛りカレーで良いんだなっ?」

「ウン!」

「イツモ通リ!」

「よし!」

 

それから10分後。

 

イ級達2体が来た後、客足が途絶えてしまった。

「やっぱり、姫の島事案で犠牲になった子も多かったんだろうな」

摩耶がポツンと呟いた事に、鳥海も頷きながら言った。

「それに、数日前まで小屋が潰れてたから、それを見て諦めちゃったかもね」

夕張は鍋をかき混ぜながら溜息を吐くと、

「残りは持って帰る事になるかもね・・・」

と言ったが、島風は

「いつもの時間まで、もうちょっと待ってみようよ。きっと来るよ!」

と返した。

 

更に20分後。

 

ゴゴゴゴという地響きのような音がする事に、金剛は気が付いた。

岩に耳を当て、音が海底から来る事を確かめると、

「摩耶、地響きデス。近づいて来てますネー」

と言いながら、討伐隊の面々に頷いた。

比叡達は兵装に実弾を装填すると、身構えた。

摩耶も身構えつつ、そっとダメコンを撫でた。

鳥海はイ級達から食べ終わった皿を受け取ると、2体を自分の背後に隠れるよう導いた。

ブクブクと泡立つ海面が・・・広い!

どんだけ来るんだ?

 

 

ザバァン!

ザバザバザバァッ!

 

次々と上がってくる深海棲艦達を見た摩耶達は、ぽかんと口を開けた。

小さな花束の入った袋。

オカエリナサイ!と書かれた横断幕。

色とりどりの宝石。

兵装の代わりにそれらを手にした深海棲艦達が次々顔を出し、ぞろぞろ列を作りだしたのである。

「・・・何・・・持って来たんだ?」

摩耶の問いに、上がってきた深海棲艦達は口々に答えた。

「ココノ復帰祝イダヨ!」

「カレー小屋、モウダメカト思ッテタケド、復活シタンデショ?」

「オ祝イオ祝イ!」

「マタ美味シイカレーガ食ベラレル!」

討伐隊の面々はしばらく様子を見ていたが、次第に状況に納得したように砲を下ろした。

金剛はふうと一息つくと、

「引き続き警戒は怠らないでクダサーい、でも、この子達は大丈夫そうネー」

と言った。

 

 

「えっ?今日は休戦になったの?」

夕張はカレーを食べている深海棲艦から話を聞いていた。

「ソウダヨ。朝カラカレーノ匂イガスルッテ話ガ皆ノ間ニ広マッタノ」

「それで?」

「軍閥ノ1ツガ、白イ旗ニカレーノ絵ヲ描イテ、カレー小屋ガ復活シテルカラ、今日ハ止メヨウッテ叫ンダノ」

「ソシタラ、アットイウ間ニ戦闘ガ止ンデ、アチコチデ、カレーヲ書イタ旗ガ立ッタノ」

それを聞いた整備隊のイ級達はザブンと潜っていった。

摩耶と鳥海は呆気に取られた。

自分達が思う以上に深海棲艦達にとってカレー曜日は大事なイベントらしい。

これには金剛達も驚いていた。

「海域の戦闘を中止させるほどの威力があるとは驚きデース・・・」

深海棲艦の一体が、摩耶におずおずと尋ねた。

「ア、アノ」

「何だ?どうした?」

「来週モ、カレー小屋、開ケテクレル?」

摩耶はニッと笑うと、

「もっちろん!食いに来てくれるなら、ほっかほかの用意して待ってるぜ!」

尋ねた深海棲艦は、ぱあああっと顔をほころばせると、

「ジャア、毎週金曜日ハカレー曜日デ、停戦日!」

と叫び、その場に居た深海棲艦達はスプーンを高々と掲げ、

「毎週金曜日ハ、カレー曜日デ、停戦日!」

と、応えたのである。

そこに、イ級達が戻ってきて

「ホントニ全部戦闘ガ止ンデルヨ!」

「皆ノカレーノ絵、上手イヨ!」

と、報告した。

夕張は島風と顔を見合わせた。

これは重要な任務になるかもしれない。

摩耶は金剛の方を向いた。金剛は肩をすくめると、

「私達も、そろそろカレー食べたいデース」

と言った。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。