艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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高雄の場合(3)

 

1年前、深海棲艦達の寮。

 

提督から交渉役を仰せつかった高雄は、ル級とリ級の居る部屋に来ていた。

高雄に商売の事を聞かれたル級は、何故か少し照れながら話し始めた。

「戦艦隊ノ商売ハネ、海底資源ノ掘削ト販売ヨ」

「海底資源というと、以前伺った鉄鉱石とかですか?」

「売リ物ハ宝石。鉄鉱石トカハ自分達デ消費シテイタカラネ。今モ取ッテコラレタラ良カッタンダケド」

「問題が、あるんですね?」

「エエ。軍閥達モ資源獲得ニ躍起ニナッテルカラ、資源鉱山地帯ハ特ニ戦闘ガ激シイノ」

「そこに行くんじゃ避難してる意味が無いですね」

「ソウナノ。ゴメンナサイ」

愛宕が頬に手を当てながら思い出すように呟いた。

「宝石は・・確か、サファイアでしたっけ?」

ル級が頷く。

「他ニ、ルビー、クロムダイオプサイド、アレキサンドライト、翡翠、珊瑚、水晶モ取レルワ」

「そういうのをどうやって捌くんですか?」

「ネットカフェヨ?」

高雄達はル級の答えに目を剥いた。

「はい?!」

「人間ニ化ケテ陸ニ上ガッテ、オークションサイトデ出品。発送ハ郵便局カラ週1回」

「稼げます?」

「1件ハ少額ダケド、数ガ出ルカラ、コンスタントニ稼ゲルワ」

「他にも手段があるんですか?」

「宝石商経由デ「クリスティン」トカ「ザザブーズ」ニ出品シテルワヨ」

高雄達はぐっと身を乗り出した。

「凄いじゃないですか!」

「ナカナカ出品サセテクレナカッタケド、1度出品スレバ数百万トカ、数千万ニナッタコトモアルワ」

「数千万・・・羨ましい」

「掘リニ来ル?水深600m位ダケド」

「そもそもそんな深くまで潜れないわ」

「研磨ノ方ハ大変ヨ~?研磨班ニ入ッタラ水晶デ練習サセルケド、筋ノ良イ子デモ1年ハカカルワ」

「うわお」

「ダカラ研磨班ノ子ニハ頼ンデ最後マデ頑張ッテモラウ事ニシタワ」

「まぁ、1個当たれば大きいですものね」

「当タラナケレバ寂シイケド。マァ、ウチハソンナ感ジ」

高雄は頷きながら言った。

「なるほど、解りました。まずリ級さんの方は食料調達に直結するからぜひお願いします」

「解ッタワ」

「ル級さんの方も、事業を再開してください。ただ、売り上げは全て貯金してください」

「定期的デハナイケド、ソレナリニハ稼ゲルワヨ?」

「そのお金を、整備隊も含めて、異動したり人間となって帰る子達の路銀にしてくれませんか?」

「ナルホドネ。ソレクライナラ今デモ払エル位ノ蓄エハアルシ・・・解ッタ、引キ受ケルワ」

「再開する際、作業はこの島のどこでされます?」

リ級は言った。

「浜辺ガ良イワネ。設備ハ運ンデ来ルケド・・衛生面ヲ考エルト作業場ハ室内ガ良イワネ」

ル級は言った。

「静カナ方ガ良イカナ。私達モ設備ヲ持ッテクルシ。後ハ原石ノ仮置場所ガ欲シイワネ。大量ニ置クカラ」

高雄はうーんと首をひねりながら、

「リ級さん、ル級さんと建物が隣接すると困ります?」

と聞いたところ、

「ウチハ食品ヲ扱ウカラ、薬品ノ煙ヤ匂イハ避ケタイワネ」

「研磨班ノ子ハ研磨デ失敗スルト機嫌悪クナルカラ、皆ノ所カラ少シ離レタ方ガ良イト思ウワヨ」

愛宕が言った。

「離れた所なら・・工廠裏の森とかどうかしら?」

「アノ森?」

「ええ」

「ソウネ、良インジャナイカナ。建物ヲ建テルノ手伝ッテクレナイカシラ?」

「ウチモ加工場ヲ作ッテモラエルト助カルンダケド」

「提督に確認を取ってみます。ちょっと待ってもらえますか?」

高雄は加賀とインカムで話をすると、頷いて通信を切った。

「うちで建てて良いとの事です。工廠長に伝えて欲しいとの事でしたので、今から行ってきます」

「アリガトウ」

高雄は愛宕と顔を見合わ、にこっと笑った。少しずつ事態が好転している気がする。

 

 

「森に・・研磨所?」

「はい」

「研磨所って、何があれば良いんじゃ?」

「あ」

高雄達は言葉に詰まった。内部構造までは煮詰めてなかった事に気づいたのである。

工廠長はふぅと溜息をつくと

「どうせヒマじゃしの、今から森に行くから関係者を呼んできてくれ」

「え?今からで宜しいんですか?」

「構わんよ」

「愛宕、呼んできてくれるかしら?お願い」

「はぁい、行って来ま~す」

 

「工廠長、オ手数カケマス」

「なんじゃ陸奥か。例の趣味の延長か?」

「ソンナトコ。デモ、ココマデ来ルノニ結構頑張ッタノヨ?」

「商売出来る程になったんじゃから、立派なもんじゃよ」

「ア・・アリガト・・」

高雄が首を傾げた。

「趣味?」

「陸奥は艦娘だった頃、彫金が好きでな。色々勉強してる内に研磨も覚えたんじゃよ」

「長門ニ以前、ブローチヲアゲタンダケド、恥ズカシガッテ付ケテクレナイノ」

「長門さんが宝石・・・ちょっと想像つかないわ」

「似合いそうだけどイメージが浮かばないって感じね」

「概ね二人の想像の通りじゃよ。ただ、あのブローチのデザインは良かったのう。わしは好きじゃ」

ル級が頬を染めた。

「エヘヘヘ」

「で、どんな建物が要るんじゃ?」

「ンー、平屋デ、天井ハ高メ。換気ガ良ク出来テ採光率ガ高イコト。後ハ照明ガ遠近デ数箇所、机ハ・・・」

具体的に指示を入れていくル級を見て、高雄は

「人は見かけによらないわね・・・」

と呟いた。

 

1時間後。

 

「ソウ!ソウ!コンナ感ジ!素敵!コノママ彫金デ生計立テテ行ケナイカシラ?」

室内に入り、うっとりするル級。

「艦娘に戻る前に一生分掘り出して、隣の貯蔵場所に置いとけば良かろう」

「無茶言ワナイデヨ・・・掘ッタ物ノ中デ宝石ニナル割合ガドレダケ低イカ・・山ニナッチャウワヨ」

「だったら残念じゃの。潜水艦達ではそうそう掘れんだろうし」

「モゥ、夢ガ無イワネエ。海底掘削マシントカ開発シテヨ・・」

「それは最上にでも頼むんじゃな」

「・・・エー」

「ま、艦娘に戻った後も貯蔵が尽きるまでは仕事場として使えば良い。この森は誰も使ってないからのう」

「ホント!?ジャア早速機材ヲ運ンデクルワネ!」

「うむ。提督にはわしから報告しとく」

高雄がぺこりと頭を下げた。

「すいません。そうして頂けると助かります」

「建てるのはこれで全部かの?」

「あと、リ級さんが浜に加工場が欲しいと」

「加工場?」

高雄は愛宕を向くと

「愛宕はル級さんの搬入作業についてあげて。私は浜に行くわ。何か問題があったらインカムで呼んでね」

「ええ、解ったわ」

 


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