1年前、深海棲艦達の寮。
提督から交渉役を仰せつかった高雄は、ル級とリ級の居る部屋に来ていた。
高雄に商売の事を聞かれたル級は、何故か少し照れながら話し始めた。
「戦艦隊ノ商売ハネ、海底資源ノ掘削ト販売ヨ」
「海底資源というと、以前伺った鉄鉱石とかですか?」
「売リ物ハ宝石。鉄鉱石トカハ自分達デ消費シテイタカラネ。今モ取ッテコラレタラ良カッタンダケド」
「問題が、あるんですね?」
「エエ。軍閥達モ資源獲得ニ躍起ニナッテルカラ、資源鉱山地帯ハ特ニ戦闘ガ激シイノ」
「そこに行くんじゃ避難してる意味が無いですね」
「ソウナノ。ゴメンナサイ」
愛宕が頬に手を当てながら思い出すように呟いた。
「宝石は・・確か、サファイアでしたっけ?」
ル級が頷く。
「他ニ、ルビー、クロムダイオプサイド、アレキサンドライト、翡翠、珊瑚、水晶モ取レルワ」
「そういうのをどうやって捌くんですか?」
「ネットカフェヨ?」
高雄達はル級の答えに目を剥いた。
「はい?!」
「人間ニ化ケテ陸ニ上ガッテ、オークションサイトデ出品。発送ハ郵便局カラ週1回」
「稼げます?」
「1件ハ少額ダケド、数ガ出ルカラ、コンスタントニ稼ゲルワ」
「他にも手段があるんですか?」
「宝石商経由デ「クリスティン」トカ「ザザブーズ」ニ出品シテルワヨ」
高雄達はぐっと身を乗り出した。
「凄いじゃないですか!」
「ナカナカ出品サセテクレナカッタケド、1度出品スレバ数百万トカ、数千万ニナッタコトモアルワ」
「数千万・・・羨ましい」
「掘リニ来ル?水深600m位ダケド」
「そもそもそんな深くまで潜れないわ」
「研磨ノ方ハ大変ヨ~?研磨班ニ入ッタラ水晶デ練習サセルケド、筋ノ良イ子デモ1年ハカカルワ」
「うわお」
「ダカラ研磨班ノ子ニハ頼ンデ最後マデ頑張ッテモラウ事ニシタワ」
「まぁ、1個当たれば大きいですものね」
「当タラナケレバ寂シイケド。マァ、ウチハソンナ感ジ」
高雄は頷きながら言った。
「なるほど、解りました。まずリ級さんの方は食料調達に直結するからぜひお願いします」
「解ッタワ」
「ル級さんの方も、事業を再開してください。ただ、売り上げは全て貯金してください」
「定期的デハナイケド、ソレナリニハ稼ゲルワヨ?」
「そのお金を、整備隊も含めて、異動したり人間となって帰る子達の路銀にしてくれませんか?」
「ナルホドネ。ソレクライナラ今デモ払エル位ノ蓄エハアルシ・・・解ッタ、引キ受ケルワ」
「再開する際、作業はこの島のどこでされます?」
リ級は言った。
「浜辺ガ良イワネ。設備ハ運ンデ来ルケド・・衛生面ヲ考エルト作業場ハ室内ガ良イワネ」
ル級は言った。
「静カナ方ガ良イカナ。私達モ設備ヲ持ッテクルシ。後ハ原石ノ仮置場所ガ欲シイワネ。大量ニ置クカラ」
高雄はうーんと首をひねりながら、
「リ級さん、ル級さんと建物が隣接すると困ります?」
と聞いたところ、
「ウチハ食品ヲ扱ウカラ、薬品ノ煙ヤ匂イハ避ケタイワネ」
「研磨班ノ子ハ研磨デ失敗スルト機嫌悪クナルカラ、皆ノ所カラ少シ離レタ方ガ良イト思ウワヨ」
愛宕が言った。
「離れた所なら・・工廠裏の森とかどうかしら?」
「アノ森?」
「ええ」
「ソウネ、良インジャナイカナ。建物ヲ建テルノ手伝ッテクレナイカシラ?」
「ウチモ加工場ヲ作ッテモラエルト助カルンダケド」
「提督に確認を取ってみます。ちょっと待ってもらえますか?」
高雄は加賀とインカムで話をすると、頷いて通信を切った。
「うちで建てて良いとの事です。工廠長に伝えて欲しいとの事でしたので、今から行ってきます」
「アリガトウ」
高雄は愛宕と顔を見合わ、にこっと笑った。少しずつ事態が好転している気がする。
「森に・・研磨所?」
「はい」
「研磨所って、何があれば良いんじゃ?」
「あ」
高雄達は言葉に詰まった。内部構造までは煮詰めてなかった事に気づいたのである。
工廠長はふぅと溜息をつくと
「どうせヒマじゃしの、今から森に行くから関係者を呼んできてくれ」
「え?今からで宜しいんですか?」
「構わんよ」
「愛宕、呼んできてくれるかしら?お願い」
「はぁい、行って来ま~す」
「工廠長、オ手数カケマス」
「なんじゃ陸奥か。例の趣味の延長か?」
「ソンナトコ。デモ、ココマデ来ルノニ結構頑張ッタノヨ?」
「商売出来る程になったんじゃから、立派なもんじゃよ」
「ア・・アリガト・・」
高雄が首を傾げた。
「趣味?」
「陸奥は艦娘だった頃、彫金が好きでな。色々勉強してる内に研磨も覚えたんじゃよ」
「長門ニ以前、ブローチヲアゲタンダケド、恥ズカシガッテ付ケテクレナイノ」
「長門さんが宝石・・・ちょっと想像つかないわ」
「似合いそうだけどイメージが浮かばないって感じね」
「概ね二人の想像の通りじゃよ。ただ、あのブローチのデザインは良かったのう。わしは好きじゃ」
ル級が頬を染めた。
「エヘヘヘ」
「で、どんな建物が要るんじゃ?」
「ンー、平屋デ、天井ハ高メ。換気ガ良ク出来テ採光率ガ高イコト。後ハ照明ガ遠近デ数箇所、机ハ・・・」
具体的に指示を入れていくル級を見て、高雄は
「人は見かけによらないわね・・・」
と呟いた。
1時間後。
「ソウ!ソウ!コンナ感ジ!素敵!コノママ彫金デ生計立テテ行ケナイカシラ?」
室内に入り、うっとりするル級。
「艦娘に戻る前に一生分掘り出して、隣の貯蔵場所に置いとけば良かろう」
「無茶言ワナイデヨ・・・掘ッタ物ノ中デ宝石ニナル割合ガドレダケ低イカ・・山ニナッチャウワヨ」
「だったら残念じゃの。潜水艦達ではそうそう掘れんだろうし」
「モゥ、夢ガ無イワネエ。海底掘削マシントカ開発シテヨ・・」
「それは最上にでも頼むんじゃな」
「・・・エー」
「ま、艦娘に戻った後も貯蔵が尽きるまでは仕事場として使えば良い。この森は誰も使ってないからのう」
「ホント!?ジャア早速機材ヲ運ンデクルワネ!」
「うむ。提督にはわしから報告しとく」
高雄がぺこりと頭を下げた。
「すいません。そうして頂けると助かります」
「建てるのはこれで全部かの?」
「あと、リ級さんが浜に加工場が欲しいと」
「加工場?」
高雄は愛宕を向くと
「愛宕はル級さんの搬入作業についてあげて。私は浜に行くわ。何か問題があったらインカムで呼んでね」
「ええ、解ったわ」