艦娘の思い、艦娘の願い   作:銀匙

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高雄の場合(2)

 

1年前、姫の島事案の少し後の朝、寮の前。

 

呼び出しを受け、高雄は班全員に声を掛けて提督室に向かっていた。

高雄4姉妹、島風、夕張、飛龍、蒼龍、それに東雲と睦月。

結構大所帯になったなあと、つらつら思った。

ノックした後でドアを開けると、本日の秘書艦である加賀、それに文月が居た。

一目で高雄は室内の空気の固さに気が付いた。良くない兆候だ。

「おはよう高雄・・・ん、ちょっと痩せたか?」

提督の言葉にぎくりとする。

東雲組に艦娘化作業が移ってから、あまり箸が進んでないからだ。

「い、いえ、大丈夫です」

「そうか・・・・さて、すまないが研究班の皆に頼みたい事がある」

高雄は愛宕と顔を見合わせる。

「私達に・・ですか?」

「うん。まずは文月、状況説明を」

「はい、こちらにお越し願えますか?」

皆で会議コーナーに向かうと、テーブルの上に幾つかの資料が並んでいた。

「姫の島事案終結後、在籍艦娘は60人。前は他に受講生40人が居ましたが、全員送り返しました」

「一方、艦娘化希望で、作業の順番を待つ深海棲艦は現時点で100体少々居ます」

「事案以前の艦娘化計画では400体いましたが、通いで週に3回、1回に6体ずつ作業を受ける筈でした」

高雄は少し悲しそうに目を細めた。自分達では到底こなせないペースだ。

「しかし、通って頂く訳にはいかなくなってしまいました」

愛宕が首を傾げた。

「何故ですか?姫の島は消滅しましたし、海域のダメージは余りなかった筈ですが・・・」

加賀が口を開いた。

「深海棲艦達も当初はそう思って、帰ろうとしたの。でも、海中は紛争地帯になっていたのよ」

「紛争地帯?」

高雄と愛宕は同時に眉をひそめた。

提督は姉妹って面白いなあと思ったが、その直後に加賀に脇腹を小突かれてびくっとなった。

どうしてばれたんだ?

加賀はそ知らぬ顔で続けた。

「ル級さんによれば、前は駆逐隊・戦艦隊・整備隊が強大ゆえに小軍閥も大人しく、治安も維持されていた」

「しかし、3隊が姿を消した事で、再び小軍閥による勢力争いが海域中で発生している」

「戦闘で隊の拠点も破壊され、いつ偶発的な戦闘に巻き込まれるか解らない状況らしいのです」

愛宕が口を開いた。

「今の状況を隊の残存組では抑えきれない、という事?」

「ル級さんは抑えて来るって言ったんだけど、提督が止めたの」

提督が頷いた。

「徐々に減って最終的には0になるんだ。どこで反撃が始まるか解らんだろう?」

文月が溜息を吐いた。

「お父さんの指摘はその通りなのですが、それで、艦娘以上の深海棲艦達を一気に受け入れる事になりました」

「現在、深海棲艦達は受講生の部屋に泊まり、受講生用の食堂で食べてもらってます」

「大本営に資源追加依頼をしてますが、深海棲艦向けという事で前例が無く、根回しが遅れています」

「特に深刻な問題が食料です。あと、人間に戻り、陸に帰る際に渡してあげる路銀の確保が厳しいです」

「今は事案直後に雷名誉会長から送って頂いた物資を切り崩して持ちこたえてますが、今のペースなら・・・」

文月は一旦言葉を切り、皆を1度見回した後、

「・・・1ヶ月弱で底を尽きます」

提督はうむと頷くと、言葉を継いだ。

「文月の試算もな、深海棲艦達が私達と同じ食事量だった場合という仮定なんだ」

「我々より多いならもっと短くなるし、少ないなら伸びる。追加補給については数週間は絶望的だろう」

高雄達は空の茶碗を持ち、野獣と化した赤城を想像した。

余りの恐ろしさに鳥肌が立った。うっかり寝てたら噛み付かれそうだ。

「そこで、だ。」

提督は高雄達を見た。

「まず、研究班の呼称はそのままだが、編成を3つに分けたい。」

「・・・」

「カレー小屋は深海棲艦との唯一の接点だ。最後まで続けたい。摩耶が仕切り、鳥海、島風、夕張と対応してくれ」

「姉貴の代わりは少し荷が重いけど・・了解」

「艦娘化作業は東雲と睦月、作業関係の事務と艦娘化後の大本営との調整を飛龍と蒼龍に頼みたい」

「ガンバリマス」

「任せてください!」

「そして、高雄と愛宕には島内に居る深海棲艦と我々の橋渡し役というか、調整役を頼みたい」

「はい・・・ええと、例えばどんな事でしょうか?」

「まずは深海棲艦の生活に必要な資源量をまとめて、文月に伝えて欲しい。」

「はい」

「次は相談窓口だ。戦艦隊はル級が、整備隊はリ級がとりまとめるから2人の相談に乗って欲しい」

「はい」

「あと、申し訳ないが・・・」

「?」

「深海棲艦達にも艦娘に戻るまでの間、資源調達を手伝ってもらえないか、聞いて欲しい」

「なるほど。その辺りの調整をすれば宜しいんですね?」

「最初だけでも私から頼もうか?」

「いえ、大丈夫だと思います」

「解った。難しければいつでも言ってきなさい。色々あるだろうから、私も協力は惜しまないつもりだ」

文月が口を開いた。

「私達事務方も資源受入や管理といった、既存作業と重複する所は出来る限り引き受けます」

高雄が頭を下げた。

「助かります。すみませんが色々相談させてください」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

提督が頷いた。

「では皆、よろしく頼む」

 

「アラ、アラアラ」

「生活全般マデ世話ニナルノハ申シ訳ナイワネ・・」

ル級とリ級は高雄の説明を聞き終わると、申し訳なさそうに顔を見合わせた。

「実際、昨日まで艦娘と同じ形での生活でしたけど、過不足とか違和感はありましたか?」

高雄の問いに、リ級が話し始めた。

「1ツハ食事カナ。私達ハ1日1食デ足リルシ、1回辺リモ7割クライデ充分ヨ?」

「そうなんですか?」

「エエ。後ハ起キタ子ガ水中ジャナイッテ驚イテタ事」

「あはは、なるほど」

「アトハ違イハナイト思ウワヨ。ル級サンハ何カアル?」

「私ハ元々ココノ艦娘ダシ、特ニ無イワネ。ア、部下達ニハ迷惑カケナイヨウニッテ言ッテオイタワ」

「それは助かります」

「他ハ・・体ヲ動カシテナイト怒リッポクナルッテ事カナ」

「えっと、どういう事でしょう?」

「今ミタイニ、毎日待機ノ状態ヨリ、出撃ヤ遠征ヲシテタ方ガ、皆ノ仲ガ良イノ」

愛宕は遠慮がちに、

「体を動かすついでに資源や食糧を調達してきて・・というのは無理ですよね・・」

と聞くと、リ級はちょっと考えた後で、

「アア、私達ノ分デショ。ンー、食料ト・・資金ノ調達ナラ、出来ルワヨネ?」

「ソウネ。安定的デハナイケド」

「えっ・・どうやってです?」

「私達ガシテイタ商売ヲ、再開シマショウ」

「商売・・・というと?」

「私達整備隊ハ漁業ヲヤッテタノ。魚貝類ヲ取ッテ、加工シテ、海産物トシテ売ルノ」

「そ、そんな事してたんですか」

「今ハ海上、特ニ遠洋漁業ハ壊滅的デショウ?」

「・・なるほど」

「ダカラ私達ガ護衛付ノ漁船団ヲ編成シテ、色々ナ海ヘ行クノ」

「それなら安全ですものね」

「取ッタラ干物ニシタリ、冷凍シタリ、骨ヲ抜イタリ、瓶詰メシタリ、カマボコトカヲ作ッタリ」

「完璧に水産加工業ですね」

「出来タラ各国ノ市場ニ持ッテ行クノ」

愛宕が首を傾げながら尋ねた。

「どうやって市場に持ち込むんですか?」

「タ級ミタイニ人間ニ化ケラレル子ガ何人カ居ルカラ、ソノ子達ガ、ネ」

「タ級さん達、重労働ですね」

「仮ニモ軍艦ダカラ平気。デモ、タ級達ガ陸デ運ボウトスルト、親切ナ人ガ沢山来テクレルミタイ」

「それって・・・」

リ級はにやっと笑った。

「マァ、タ級ハ提督シカ眼中ニナイケドネ」

愛宕がにまりとした。

「あらまぁ・・うふふふふ」

リ級は手をパタパタと振り、愛宕に顔を近づけると、

「デモ、提督ガ長門ニ求婚シタト聞イテ、今ハ寝込ンデルノ。可哀想デショ?」

「なんて純情なの!」

「提督ニ責任取リナサイッテ言イタインダケドナア・・・」

「言うんだったら一緒に行きますよ~?」

リ級はにやりと笑うと、

「コウイウノハ絶妙ナタイミングッテノガアルカラネ、大丈夫。」

高雄は肩をすくめると、ル級を見た。

「リ級さんの方は解りましたけど、ル級さんの方は何か商売されてたんですか?」

「勿論」

「教えてもらっても良いですか?」

 


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